第187話 久々に本気出します
グッと手を組んで上へ伸ばす。
手を離して屈伸する。
今私が着ているのはジャージもどき。
やっと朝の運動をしていいと、ラファエルとお兄様から許可が出た。
私の騎士が決まってから翌日だった。
まだ学園には行けないけれど、日課の運動が出来るのは有り難い。
寝てるばっかりでは、悪い方向にばかり考えが行ってしまうから。
「ソフィア、今日は何をやるの」
ラファエルはルイスに呼ばれて朝早くに処理する書類があるからと、ここで合流する事になっていた。
ラファエルも一緒に日課に参加するということだったから、準備運動をしながら待っていた。
「………彼が煩いから」
私はジェラルドを視線で指す。
「ソフィア様ソフィア様! 早く遊ぼー!!」
両手を上げてぶんぶんと左右に振りながら言ってくるジェラルドに、ラファエルが苦笑する。
「昨日言ってた鬼ごっこ?」
「………そう。でも、今回私はひらひらドレスやワンピースじゃないからいいところまでいけると思うんだよね~」
「でも、ずっと寝たきりだったから急に動けないんじゃない?」
「あ……」
そうだった。
私はずっとベッドに寝かされていたんだった…
でも、昨日も訓練場まで歩いて行って問題なかったから大丈夫じゃないかなぁ…?
王宮の近くにあると言っても、ゆっくり歩いて往復50分~1時間ぐらいかかる場所だから。
「頑張る」
「ふふっ。俺はどっちに入ればいいの?」
「勿論、逃げる方。私1人を男5人が追いかけてどうするのよ…」
「え? まさか騎士全員相手に逃げるの?」
「サンチェス国では普通に3人から逃げてたけど?」
首を傾げると、ラファエルに唖然とされた。
「だから言ったでしょ。お転婆王女は淑女じゃないって」
「お兄様煩いわよ!」
くすくすと笑いながら歩いてくるお兄様。
お兄様も訓練用の服を着ている。
「お兄様も当然逃げる方ですわよ!」
「分かってるよ。俺の影も参加させるから」
お兄様が手を上げると、木の上から2人姿を現した。
上から下まで目以外は全て覆った2人。
体格からして男女1人ずつ。
「お前達は俺を追ってね」
お兄様が言うと、影2人は頷いた。
「さてと。俺達は別の場所に逃げるから、お前達は好きな奴追いかけて。全員捕まったら飯にするか」
「何故お兄様が仕切るの…」
「んじゃお前ら100数えろよ~」
「無視か」
しかも100数えるって……まんま鬼ごっこじゃない…
「じゃ、お先!」
「あ!」
お兄様はフライングで森の中に入って行った。
現在いる場所は人目につかないラファエルに用意してもらった森の中の少し開けた場所。
「さ、ソフィア行こう」
ラファエルに背を押され、私も走り出す。
途中までラファエルと共に走り、別れた。
『主』
『何?』
木々の間をすり抜けながら、頭に響いた声に返す。
『我らも手伝いましょうか? 水精霊なら霧を出して惑わせられます』
『それ不正。ダメだよ。これは遊びだから。本当に危険なときはやってもらうけど』
『………失礼しました』
声が途切れると同時に、ひゅんっという音が聞こえ、私は身体を捻った。
進行方向だった地面に、ザクッと地面に刃を潰した短剣が突き刺さる。
「ソフィア様みぃ~っけ!」
「ちょっとジェラルド!? 前より悪質になってない!?」
笑顔でジェラルドが短剣を括り付けたロープを投げつけてくる。
遠心力で短剣が重しになり、私の身体をロープで拘束出来る。
よくこれで捕まっていた。
私は懐から短剣を取りだし、身体に回ってきそうになるロープに向かって縦に構える。
走っている速度も合わさって、ザクッとロープが切れる。
「………あれ?」
キョトンとした表情でジェラルドが首を傾げたのだろう。
私がロープを切ることを予測していなかったと思うし。
ジェラルドの足音が止まった隙に、私は走って逃げた。
暫く走っていると、前方になんだか気配を感じた。
警戒し、方向転換しようと足を踏ん張った時、ヌッと腕が死角から出てきた。
「うわっ!?」
咄嗟にその腕に手を突き出し、ツルッと足下が滑って腕を軸にその場でスライディングしてしまう。
けど結果オーライ。
「ソフィア様やるなぁ」
声からしてアルバートだった。
後ろは振り返らずに私は素早く立ち上がってまた走り出す。
「何で後に出たはずのアルバートが先回りしてるのよぉ!」
いくら体力とか体格とか足の長さが違っててもあり得ないでしょー!
また暫く走ってると、何故か座って一服してるオーフェスが……って!!
「なんでこんな所でスモーキング!? しかも何で私の進行方向にいるのよ!!」
優雅にパイプ吸ってるんじゃないわよ!
騎士なんだから禁煙しろ!!
と思いながら方向転換する。
「ソフィア様すみません!!」
「ええっ!?」
丁度方向転換した方角の死角からヒューバートが出てきて、思いっきりヒューバートの腕の中に飛び込んでしまう形になった。
「はい、捕まえました」
「マジか!!」
ヒューバートが私の両脇に腕を差し込んでいる。
抱き上げられ、私の足はぷらんと宙ぶらりんに…
………あ、これ、ソフィーだったら良かったかも…
てかソフィーに殺される!?
それよりも王女に対して失礼じゃないか!?
もがくがヒューバートは一向に離さなかった。
おいこら!
こういうのはソフィーにやれヒューバート!!
ヘタレ騎士じゃなかったのか!?
「くそぉ!! オーフェスの罠にかかった!!」
「おや。私の罠だと分かりましたか」
先程の私の進行方向にいたオーフェスがゆっくり歩いてくる。
私が方向転換したのは右。
左に方向転換したら――と思ったら、これまた先回りされていたのか左方向からアルバートが。
そして走っていた後ろからはジェラルドが歩いてきていた。
完全に包囲されている。
「分かるわよ!!」
この3人の頭脳はオーフェスだ。
アルバートは筋肉バカだしジェラルドは子供だし!!
ヒューバートがこんな事考えるわけないし!
「でもソフィア様新記録だよ~! 体力ついたんだねぇ」
「………まぁ、確かに……アルバートを振り切れるとは思ってなかったわ…」
「また鍛えないと」
アルバートが何気にショック受けてる…?
取りあえず元の場所に戻ろうと皆歩いて行く。
私はヒューバートに拘束されたまま。
………ってこらー!!
ヒューバート下ろせー!!
運ぶならせめてお姫様抱っこかおんぶにしてー!!
むぅっと頬を膨らませながらヒューバートを見上げると、ヒューバートが目を見開き、顔を真っ赤にして慌てて私を解放した。
「す、すみません!!」
「まったく…」
そんなこんなしていると、ラファエル達がこちらに歩いてくるのが見えた。
お兄様の影2人にラファエルも捕まったのね。
ってか私の護衛全員で私を捕まえに来るって酷くない!?
今回は私1人逃げてたわけじゃないのに!!
「あれ? もしかしてソフィアが一番逃げ切った?」
「そりゃ影と騎士の足じゃ違うでしょ。お転婆王女にハンデありすぎたかな」
「もう! お兄様!!」
私の方が不利だったっての!!
お兄様と言い合いながら、朝の日課終了。
王宮に皆で戻った。




