第156話 勘違いをしていたようです
レポートを見終わった結果…
Cが1割、Dが1割、Eが8割だった。
Eは内容云々ではなく、全て埋まっていないのが全てそうなった。
全部見ていったらきりがないので、まず見たのは最後のページ。
最後まで記入されていなかったらEで確定し、見ずに次の者のレポートに。
それがEの中で大半。
そして埋まっていた者でも、見当違いの解釈をしている者はE。
授業そっちのけでやっていた者もEに入れられた。
その判断は教師からのものだ。
教師は流石に教える側として共通規約など頭に入っている。
そもそも教師は国政とは関係なく、次世代の担う者の育成を主にしている。
国王サイドの者はいたとしても少ないだろう、とラファエルから聞いている。
ほぼ中立の立場の家の者から採用しているとも。
教師は生徒が規約違反しラファエルから罰を与えられた事を知っていた。
あれだけ騒いでたからね。
誰か1人でも教師が見ていれば、すぐに教師の間でも広まっただろう。
授業は授業でちゃんと受け、余っている時間で罰をするのは当然であり、教師も規約違反した者のクラスで担当教科授業を行っている時にチェックしていたそう。
これはラファエルに言われるまでもなく、教師が自主的に行っていたらしい。
罰を与えられた数日後から、報告書がラファエルの元に送られてきていたと聞いた。
………凄い優秀な先生なんだ…と思った。
「よし。全員停学だな」
全員の評価が出そろったときに、ラファエルが最終チェックし、そう言った。
容赦ない。
それは王族として当然の判断であり、私も何も言わなかった。
「………さて、何名の家から苦情が来るかな?」
クスクス笑うラファエルは楽しそうだ。
そりゃ、罰を受けた者の中に貴族が3割も入ってるしね。
………侯爵家の口車にノっちゃダメでしょ。
まぁ、軽率なのは次女や三女ばかりだったけれど。
流石に長女が入っている家はなかった。
けれど、長女も流石に無害って事はないだろう。
あの家の娘が、と陰口の元にはなるだろう。
個人ではなく、家、と一括りにされることは珍しくもなんともない。
「………」
「ソフィア?」
「あ、すみません」
「どうしたの?」
「いえ、貴族の者がいるなとは思っていたのですが、旧国派、新国派、中立派が混ざっているとは思っていませんでしたので……少なくとも中立派の家の者の教育は行き届いていると思っていましたので……」
「………ごめん」
「え……ラファエル様が謝ることでは…」
「謝ることだよソフィア。君の前で非常識なことをしたのは、私の国の民だ」
余計なことを言ってしまった。
私はそれ以上口を開くことなく、大人しくしておいた。
「わたくしもお詫びします。うちの領の貴族も混ざっています。不快な思いをさせてしまって申し訳ございません」
「私からもお詫びします。申し訳ございませんでした」
2人にも余計な事で謝らせてしまった。
「………今は公のことではございません。頭を上げてください。貴方達はまだ爵位を受け継いでいないのですから」
「ですが、我々の領の人間です。教育が行き届いていないのは事実ですから。改善していきます」
「………分かりました」
私が折れない限り、2人は頭を下げたままだろう。
本当ならこれも咎めないといけないことなのだろうけど…
「………公の場では確かに謝っていただかなければならないでしょうね…」
私はポツリと呟いた。
少し寂しくなった。
ここは食堂で、他に誰もいないのに…
こんな4人しかいない空間で、私だけが王女であれと言われているように感じて…
私だけが彼らと仲良くなった気でいたのかと思ったら、今すぐ飛び出して泣きたくなった。
「ラファエル様、少々席を外させてくださいませ」
「え、ソフィア!?」
私は足早に食堂から出て、お手洗いに向かった。
『誰か近づいてきたら教えて』
『はい』
私は個室に入って鍵をかけた。
「………はぁ…」
ようやくできた友達だった。
だから勘違いしてたのかな……
ここでは王女としての対応が当たり前で……
「………ローズ……」
ポツリと呟く。
サンチェス国でローズと2人で笑い合っていたことを思い出して、自分に呆れる。
あの時はローズは私の義姉になると思っていて、ローズも私を義妹として親しくしてくれて。
もう、あの時間は戻らないのに。
分かってる。
私は今、当然の学園生活を送っているのだ。
サンチェス国の方が非現実だったのだ。
次期王子妃と王女として、同じ様な立場だったから普通に…日本の友人みたいに気兼ねなく出来ていたこと。
王女の友人とは、一定の距離を保たれるもの。
今が正常なんだ。
だから……
「………寂しいとか、悲しいとか……思ったらダメだよね……」
ギリッと一度拳を握り、ソッと緩めた。
大きく深呼吸して口角を上げた。
「………よし!」
気分を上げて、勢いよく伸びをする。
弱音を吐いて落ち着いたら、気分が持ち直した。
私はお手洗いから出た。
そもそも私の言葉が発端なんだから、勝手に自爆したようなものだ。
彼らは悪くない。
落ち込むのもお門違い。
一息したら自分のせいだったと分かる。
出てきてよかった。
あの空気のままじゃ、私は彼らにとんでもないことを言っちゃってそうだ。
いつもの私からして。
食堂に戻ったら笑顔、笑顔、えが――
『ラファエル様。例のことはソフィア様にはまだ?』
『ああ、言ってない』
『よろしいのですか? ソフィア様に知れたら隠していたことを咎められるのでは……』
『大丈夫だよ。気づくはずないから』
………何の話…?
食堂の扉の取っ手に手をかけようとしたけれど、そっと下げた。
『それよりも君達も口を滑らせないように気をつけてよ』
『はい。距離を取っておりますから大丈夫ですわ』
………ぇ……
マーガレットの言葉に、私の頭の中は真っ白になった。
………やっぱり……私は一方的にマーガレットを友人と思っていた……だけ……?
………そういえば、朝、私がランドルフ国でマーガレットの次にフィーアが友人だと言ったとき、表情が変わっていた……
………ぁぁ、そう……
私は、ランドルフ国で……友人なんて作れないんだ……
さっき、確認し終えたばかりなのに…
傷つくなんて、笑っちゃう…
こうしてハッキリ聞いて、深追いする前に気付けて良かったと思わなきゃ…
と、当然、だよね!
私、王女だし!
王女……だから……
「………っ……」
ダメだ。
気分を上げて戻ってきたはずだったのに。
泣きそ……
≪ソフィア・サンチェス様、面会の方がいらっしゃっています。面会室までお願いいたします≫
廊下に突如として誰かの声が響き渡った。
びっ……くりした……
ビックリして涙が引っ込んだ。
………なんだ今の放送みたいなの…
え?
この国に……学園に放送器具あったの……?
唖然としていたが、私は足早にその場を後にした。
よかった……
あの状態では食堂に入れなかったから。
………それにしても……面会って誰だろ……
私は少しドキドキしながら面会室へ向かった。
ちょっとした蚊帳の外になってしまったソフィア。
次は、懐かしの人物が出ます。




