343.メガネ君、調査隊メンバーを決定する
「――というわけで、残りの人たちになります」
ハイドラとシュレンは辞退。
サッシュ、ハリアタン、トラゥルル、マリオンは向かないので却下。
以上が、選べなかった者たちで。
最初から決まっているベルジュとカロフェロン。
そして残りは、リオダイン、リッセ、セリエ、シロカェロロ。
若干消去法みたいになってしまったが、残りの四人を調査隊のメンバーとして選出した。最大人数には満たないけど、代わりに猫が入ると思えばちょうどいいだろう。
『――少々お待ちを』
え?
白狼型のシロカェロロが、念話で一言告げると二階へ行ってしまった。……全員無反応なので、俺だけに声を飛ばしたようだ。
「――失礼」
あ、人型で戻ってきた。……よかった、服はちゃんと着てきたな。
「先生方、私は行っても大丈夫でしょうか? 目的地は竜人族の里なのでしょう? 私の存在はドラゴンを刺激してしまうかもしれません」
ドラゴンを刺激?
なんのことだろう。
俺を含め多くの者が首を傾げる中、エヴァネスク教官が簡単に説明してくれた。
――ドラゴンは一定の強さを越えた魔物には、敵意を向け襲ってくるという。
取るに足らない魔物……その中には人間も含むが、それらには基本見向きもしないが、個体として強い相手には襲い掛かる習性があるとか。
そう言われると、黒皇狼も同じ習性を持っている。一度も人に襲われたことがなければ、人間を敵や獲物とは見なさない。遭遇しても襲ってこない。
なので、もしかしたら強い魔物特有の本能的な行動なのかもしれない。
その点を踏まえて、シロカェロロは大丈夫か、と自分で疑問を抱いたらしい。
「まだドラゴンと対峙したことはありませんが、ほかの魔物にはよく襲われます。それこそ人は襲わないと言われている魔物にも襲われました。
まあ、その時は獣の姿だったので、人とは見なされていなかっただけかもしれませんが」
…………
これはまた、不安要素を感じる発言が出たな……
「どうするのだ、エイル。髪一本分でも不安要素があるなら、シロカェロロは外すべきだと思うがな」
と、ヨルゴ教官は俺を見て……俺は頷いた。
「そうですね」
さすがにこの不安要素は、リスクが高すぎる。
その辺の魔物なら、どれだけ相手にしてもどうにでもなりそうだが、よりによって相手はドラゴンだ。
ドラゴン関係の不安は、そのまま命の危険に直結する。
さすがに無視するにはリスクが高すぎるだろう。
シロカェロロのことはすごく頼りにしていた。
特に戦闘力が非常に高く、近くにいてくれるだけで心強いのだ。実際命を助けられたこともある。
だが、今回の竜人族の里の調査。
戦う理由もないので避けるべきドラゴンを、反対に刺激してしまうかもしれないというのなら、不安過ぎて連れて行けない。
下手をしたら、竜人族の里ごとドラゴンに襲われる火種になりかねない。
何せ竜人族の里は、ドラゴンたちがたくさん棲む森の中だという。全方位が襲われたら一晩待たずに壊滅するだろう。
シロカェロロが常に人型なら、ドラゴンを刺激しないかもしれないが。
しかしそうすると、「狼型の方が楽だ」と言い切る彼女に、長期に渡って狼になれないことを強いてしまう。短期間ならまだしも、さすがにつらいだろう。
――目的は調査であって、戦闘ではない。
仮に何かがあっても、俺が客として呼ばれる以上、竜人族側がいきなり襲ってくることはないし、予想外の外敵に遭遇してもなんとかしてくれるだろう。
戦闘力は、あまり必要ない、かも。
……危険な場所に行くならまだしも、危険のど真ん中ではあるが一応は人里に行くのだ。今回、戦闘力はどうしても必要とは言い難い。
仕方ない……か。
「わかった。じゃあ――ベルジュとカロフェロンは聞いてるよね? それからリッセとセリエ、リオダインは一緒に来てほしい」
以上の五名。
これでメンバー選出は完了である。
「――よし」
ワイズが立ち上がった。
「少々急で申し訳ないが、昼までに出立の準備をしてくれたまえ。まあ道中で物資を買い足す余裕はあるので、旅先で調達するのもよかろう。
ただ、厚着は厳禁だ。向こうの冬は過ごしやすい」
竜人族が、冬から逃げた先だからね。……俺も冬支度のために買ったインナーくらいは脱いだ方がいいかもな。マフラーと帽子はいつでも脱げるし。
「では諸君、卒業の日にまた会おう」
と、ワイズはさっさとブラインの塔から去ってしまった。なんか本当に色々忙しそうな人である。というか忙しいんだろうね。
あっという間にいなくなった暗殺者の頭を全員で見送り――すぐに動き出したのはベルジュだった。
「ハイドラ、エオラゼル。備蓄の引継ぎをするから来てくれ」
さすがというか、やはりぶれないというか。
彼は真っ先に、己が(たぶん勝手に)やっていた食料の管理を、仲間に任せることにしたようだ。
しっかり人選している辺り、料理関係には本当に頼もしい奴だ。
ハイドラは何をやらせてもそつなくこなすし、エオラゼルも本物ゆえに対人関係に難しかないが、それに目を瞑れば能力全般は高い。あれで料理も結構得意なんだよね。
あの二人に後を任せるなら、食料関係で困ることはないだろう。
こうなってしまえば仕方ないと判断したのだろうハイドラとエオラゼルが、黙ってベルジュに付いて行く中。
「――おい、おまえは呼んでないぞ。来るな」
「――まあまあ、いいじゃないですか。どれだけ肉があるのかだけ知りたいのです。ああ、ダメになりそうな肉があれば処理しますよ?」
呼ばれてないのにシッポを振って、しれっとと付いていく犬。いや、狼。……ベルジュが邪険に扱うってことは、すでに肉関係でなんかあったな。つまみ食いだろうか。
彼らを見送っていると、白い頭に赤い瞳の少女が寄ってくる。
「おうエイル、ギンガどうするんじゃ?」
こっちのセリフだフロランタン。勝手に名前を付けるな。
「今どこ?」
「うちの部屋で寝とる。いやあ、かわいいのう。村の猫を思い出すわ」
村の猫と言うと、暗殺者の村の砂漠豹アサンだな。俺の猫好きの原点である。
「われがいない間面倒見とくけど、それでええんじゃろ?」
「いや、連れて行くから」
というかそのために捕まえたのだ。外すという選択はない。
「えっ、そんなっ」
なんでショック受けた顔してるんだよ。
「君にはトラゥウルルがいるだろ」
「うちは違う猫を同時に愛することができる女じゃけぇ」
…………
俺もできるから、ちょっと反応に困るけども。
でも、なんと言われようと連れて行きます。
「ねこ?」
リッセとセリエ、リオダイン、カロフェロンもやってきた。出発の前に簡単に打ち合わせをしたいのかもしれない。
――ちょうどいい。
「紹介したい猫がいるから。ちょっと来て」
面通しをしておこう。
……あと、名前も早く付けないとな。




