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甘いもの戦争

 今日はいつにも増してお客さんが多い気がする。

 単純に普段夜にお酒を飲みに来ている人達が昼間から来てるって事もあるんだろうけど、今日は珍しくノルベルトさんがアイラちゃんを、ディルさんがリク君を連れて来た事で一層賑やかなのかな。

 意外にも二人が会うのは今回がはじめてだったらしいけど、さすが子供と言うだけあってすぐ打ち解けた様。

 普段は大人しく聡明な印象の二人だけど、お店の外を仲良く探検したりと歳相応に無限の体力を披露していた。

 ……はずなんだけどね。


「生クリームよっ!」

「プリンだって!」


 いっぱい遊んで落ち着いた所でおやつの時間にしたんだけど、ここでまさかの可愛い揉め事が始まっちゃった。

 ノルベルトさんとディルさんが外から帰って来た二人におやつは何が良いか聞いた所、生クリームをたっぷりトッピングしたシフォンケーキと、カラメル少な目のプリンで意見が割れてからもう半刻近く。

 別に二つとも作るから好きな物を言ってくれれば良いんだけど、まだ子供と言うか、自分が一番美味しいって思ってるおやつ以外認めないって感じかな?

 最初は仲裁に入ろうとした二人の保護者だったけど、あまりにも引かない二人にお手上げの様子。そっとカウンターから移動し、他の常連達とテーブル席で食事をしつつ様子を見守る事にしたらしい。

 でも皆はそうやって距離を置けるけど、僕とユリカは二人が落ち着くまで下手に身動きできないんだよね……。


「生クリームは美味しいけどいっぱい食べると気持ち悪くなるんだもん! プリンは甘くてぷるんってしてていくらでも食べれるし、他の料理で食べるよりもすっごい卵の味が濃厚なんだよ!?」

「他のお店の生クリームは確かにくどいだけだけど、ここのお店のは合わせるお菓子によって微妙に味を変えてるの! シンプルなシフォンケーキにはその味を邪魔しないようにさっぱりとした生クリームを合わせてるの! それに卵の味だったらこっちだって負けてないわ!」

「……食通の会話かよ」


 ディルさんナイス突っ込み。

 可愛らしい戦争かと思ってたらお互い物凄いしっかりした言い分があったんだね。

 と言うか二人が言ってる通り、卵は料理用とデザート用で違う卵を使ってるし、生クリームも物によって作り方と材料を少しずつ変えてはいたけど、そんなにはっきり分かる物じゃない筈なのにな。


「ブラン殿、その二つを頂いても良いか?」

「えっ? はーい。飲み物はいらない?」


 って、ほら。二人が評論家みたいな事言うからノルベルトさんに火がついちゃったじゃん。

 完全にお父さんじゃなくて仕事の顔になってるよ……。

 ひとまず飲み物は水だけでいいらしく、くすくすと笑いを隠しきれてないユリカに作り置きしていた二つを取り出し運んでもらう。

 カウンターの内側からぐるっと回って外側へ、そして可愛い戦争を繰り広げてる二人の後ろを通ってテーブル席のノルベルトさんまで。

 狭い空間だからどこに至って見渡せる店内、トレイを運ぶユリカを最初から最後まで目で追っている二人はまさに本能のままで可愛い。

 そしてユリカがノルベルトさんまで運んだタイミングでカウンターから飛び降り、一目散にテーブル席まで行くと運ばれたデザートを食い入るように覗き込む二人。

 あんまりの可愛らしさにユリカまで子供のようにそわそわし出しちゃって。


「ふむ、美味い」


 プリンとケーキ、ノルベルトさんはそれぞれ一口ずつ頬張ると何とも簡潔な感想が。

 食い入るようにノルベルトさんの一挙一動を凝視する二人をよそに、深く何かを確認するように食べ進めていく。


「確かに卵は普段こちらで食べている物とは違うみたいだ。普段の物も濃厚で大変美味だがあまり主張してくるような物では無かった。しかしこれに使われてる物は良い意味で癖が強い、卵の風味が前面に押し出されている。何の卵か分からないが、卵黄と卵白の比率が他の物と違う……とか」


 頬杖を付きプリンを眺めながら真剣な表情で考察する様はさすがプロ。

 ノルベルトさんのその言葉を聞いて目の前に座っていたディルさんも、つられて一口プリンを食べてみたようだけど、あの表情を見る限りよく理解してないね。


「で、ケーキの方もその卵を使用して作られているのは風味で分かる。問題の生クリームも以前頂いた物よりも脂肪分が少ない……のか? だが味や濃厚さ加減を見ると原材料は同じ……いや待てよ、同じ原材料で脂肪分が違う? 脂肪など混ぜ物などしていないだろうし作り方一つで変わるものなのか? うーむ……」


 皿の縁にこんもりと乗せていた生クリームを綺麗に食べきり、それでもうんうんと唸り納得がいかないのか、ノルベルトさんは唸りながら立ち上がり、そのままカウンターを覗き込むと調理台に出したままだった生クリームをボウルごと持ち上げ、立ったまま生クリームを口に運んでは小首をかしげる運動を繰り返し始めた。

 リク君も言ってたけど、生クリームってあまり食べると気持ち悪くなると思うんだけど大丈夫なのかな?

 まぁ、あまりにも自然に手を伸ばして来たからボウルごと渡しちゃった僕もなんだけどね。

 大の大人が真剣に生クリームだけを舐める光景に常連の皆は生暖かい目で見守ってあげているけど、カウンターの端で子供達が外で遊ぶのに散々つき合わされ、ぐったりと横になっていたクロウは何と言うか絶句してるみたい。

 顔を上げたらすぐ隣には真剣な顔で大量の生クリームを舐める中年男性……そりゃ絶句するよね。

 アイラちゃんからしたら大好きな生クリームが自分の父親に全部食べられちゃうかも知れない状況に、少し泣きそうになってるけどね。


「ふむ……ブラン殿、少しお願いがあるのだがよろしいか?」

「ん? 何々ー?」


 散々食べ悩みぬいた結果、ノルベルトさんがたどり着いた答えをカウンター越しで耳打ちしてもらい、本職はさすがだと思いつつもそのお願いを実行する。



「美味しい!」

「お父様! これいくらでも食べれますわっ!」


 元々殆どの物が揃っていたので盛り付けるだけ。大して時間はかからずそのお願いは叶った。

 そして今はさっきまで半泣きで戦争を繰り広げていた二人は、仲良くカウンターに座り美味しそうに今日のおやつを頬張っている。


「そうかそうか、はははっ! はじめから二人が好きな物をくっ付ければ良いだけだったな」


 ノルベルトさんのお願いは凄く簡単な内容。

 甘くなり過ぎないようにカラメルを減らしてない普通のプリンを使用し、その上に濃厚な生クリームを乗せる。そして生クリームがくどくなり過ぎないようにベリー系の果物を何種類か一緒にトッピングするだけ。

 要はカスタードプリンじゃなくて、普通のプリンを使ったプリンアラモードみたいなものかな。

 ただ子供達に対抗してもぐもぐ食べてたんだと思ってたんだけど、ちゃんと二人の事を考えてあげてたんだね。

 なんかユリカも一緒に嬉しそうに食べてるし、折角だからメニューに入れようかな?

 簡単なのに豪華な見た目にもなるし皆のおやつにも丁度良いね。後は甘いもの好きなリラとミリアさんとリーゼさんの反応を見て改良して行こう。

 ふふふっ、あの三人に任せたらすっごく果物たっぷりな物になりそうだね。

 他のメニューも少し改良してみようかな。

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