クルスさん、故郷に帰る
学院を卒業し、みんなと別れてから2ヶ月程たった。
僕は、王都から真っ直ぐ辺境を目指して旅を続けている。
遠くに見える大きな壁に囲まれた街はアルくんのお父さんである、ガスタ辺境伯の治める街だ。
アルくんも今頃、街に戻って来ているだろう。
僕はガスタの街を遠目に見ながら森の中に入って行った。
2週間程してようやく街道にたどり着いた僕は、そこで待っていた馬車に乗り込んだ。
御者や護衛の兵士とは一言も話さない。
僕の立場からすると当然なのだが、いままで3年間も騒がしい学生生活を続けて来たためか、少し寂しく思う。
馬車は街道を駆け抜けて、高い塀に囲まれた街に着いた。
大きな門の横に有る、貴族や特別な許可を受けた者が通る事が出来る小門をくぐると、そのまま大通りを直進し、街の中心へと向かう。
簡易的な門を抜け、貴族街に入り数分、ようやく目的の場所にたどり着いた。
僕が目指して今場所は貴族街の中心、かつては砦として使われていたと言う無骨な建物だ。
中に入ると、外の無骨な雰囲気とは一変して、落ち着いていて上品な調度品が目に入る。
「この部屋でお待ちください」
ここまで案内して来た御者をしていた男が初めて口を開いた。
「分かった」
僕も短く答える
応接室で侍女が出してくれた紅茶を飲みながら待つ事十数分、ノックの後に男が1人、部屋に入って来た。
僕は慌てて立ち上がると胸に手を当て礼を取る。
「楽にして良い。3年間、ご苦労だったな、クルス」
「勿体無いお言葉でございます、閣下」
男は優しく微笑んでいるだけなのに、感じる威圧は僕の背中をどんどん汗で濡らして行く。
「おっと、話の前にソレを解いておくか」
男が軽く指を鳴らすと、僕に掛けられていた魔法が解除される。
膨大な魔力によって強固に掛けられていた【メタモルフォーゼ】の効果が無くなる。
僕は3年間振りに元の姿に戻った。
と言っても身長や顔立ちが変わる訳ではない。
ただ、白かった肌は浅黒くなり、そして、額には小さな2本の角が生えてる。
「さて、王都潜入の報告を聞かせてもらおうか」
「はい、魔王閣下」
こうして、僕の人間の国への潜入任務は終わりを迎えた。
人間と魔族の大きな戦争は今から約20年程前に起きた戦いが最後だ。
僕が生まれてからはまだ、大きな戦争は無く、小さな小競り合いが続いている。
しかし、もうすぐ大きな戦いが起こるだろう。
その時は僕も人間と戦わなければいけないのかもしれない。
それでも僕は臣下として、王都で知り得た情報を魔王閣下に報告して行く。
いつか……3年間騙し続けた友に謝罪の言葉を告げる事が出来る日が来ることを願いながら。
マーリンさんの学業奮闘記 完




