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90、モモ、ご機嫌になる~お仕事も遊びも全力の方が楽しいよね~前編

 祖母に育てられた桃子は元の世界では今時の遊びに疎く、ゲームもほとんどしたことがなかった。友達の千奈っちゃんの家でコントローラーをちょっと触ったことがある程度で、車のレースゲームではやり方がよくわからず逆走して壁に体当たりした覚えがある。


 当然のことながら、爆笑はもらったけれど順位は最下位だった。その代わりに幼い頃、祖母に教えてもらった昔からある遊びは良く知っていたりする。

 

 桃子は執務室に抱っこで運ばれると、訓練の指導役に戻ったカイの机を借りることになった。補佐官のお仕事は臨機応変にその時々に必要なことを行っているそうで、執務室で仕事をするのは基本的に団長と副団長なのだとキルマが教えてくれた。


 書類整理をしている二人の邪魔をしないように、椅子に座って足をぶらぶらさせながら暇潰しにとキルマがくれた真っ白な紙とペンを前に考える。さぁ、これを使ってどう遊ぼうかなぁ? 絵を描いてもいいけど、独創的過ぎて桃子画伯になっちゃうから、どうせならバル様達をびっくりさせる物がいいよね!


 一つ頷いて、さっそく紙を折ると破いていく。ビリビリという音が静かな部屋に響いた。


「モ、モモ? お絵かきは嫌でしたか? なにか他の物を持ってきましょうか?」


 突然の暴挙に、キルマが動揺したように声をかけてくれる。バル様からも驚いたように強い視線が向けられている。反抗期じゃないよ? 


「ううん。これでいいの。後で見せたげるね」


 ふっふっふ。きっと見せたら驚くに違いない。この世界にはないはずだ。たぶん。五歳児の小さな手をちまちま動かしながら、どんどん紙を破いていく。六枚ほど正方形の紙を作って、ここから再び手を動かす。そうして五分ほど作業して──折り鶴の完成である。


 祖母に教えてもらった遊びの一つが、この折り紙だ。折り紙の王道と呼べる鶴から始まり、兜、金魚、風船、星、など様々なものを教えてもらった。祖母は器用な人だったので、手ずから型を取り桃子の浴衣を作ってくれたこともある。その浴衣を来て祖母と縁日に行ったことは、両親とほとんど関わることがなかった桃子にはなによりも楽しい思い出だ。


 もう一つ、キルマの分を作ろうと新しい紙を手に取った時、お腹がすーっとした気がした。と同時に異変が起こる。


「え? え?」


 どこからともなく緑の淡い光が集まり出した。それも5つ6つの数ではない。その光が鶴に群がり始めたのだ。桃子は慌てて鶴を手に取る。すると、緑の光がこっちに飛んでくる!? 速度はないが、蜂の巣を突いたような数が一斉に飛んでる様子は、いくら正体が精霊でも怖い。桃子は半ばパニックになりながら、執務室の中をクルクルと走り出した。


「ふぎゃーっ!! こっち来ないでーっ!!」


「モモ、落ち着け。精霊は人を食べない」


「バル様ぁぁぁぁっ!」


 走り回っていた桃子をバル様が受け止めてくれた。だけど、精霊はその周囲をふわふわ漂っている。ひぃっ、囲まれた! 蛍の光のようだけど、追い回されたから綺麗より怖さが先に立つ。思わずバル様の長い足にしがみ付く。


「うううっ、こあいよぅ!」


「怯えずとも大丈夫ですよ。精霊は人に危害を加えることはありません。しかし、こんな光景は初めて見ました。モモに反応しているようですね」


「そうだな。さっきから手になにかを持っているようだが」


「これ、バル様達にあげようと思って……」


 桃子はそっと手を開いた。握りしめていたせいで少しへたった鶴が顔を見せる。その瞬間、淡い緑で発光する精霊が再び桃子の鶴に集い始めた。


「やーっ」


 思わず手をぶんぶん振りまくって避けようとしたら、手から鶴がすっ飛んで宙を舞った。ひらひら回りながら落ちていく鶴に精霊が誘われるようにふわふわと飛んでいく。そして、まるで花の中に入り込んだ蛍のように、精霊は鶴の中に続々と入っていき、やがて消えた。


 発光が消えてしまうと、残ったのは床に落ちて止まった鶴だ。バル様にしがみ付いたまま桃子は恐る恐る床で沈黙している鶴を見た。遠目には変化はない。さっきのは一体なんだったの?




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