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372、モモ、女王陛下にご挨拶する~背筋を伸ばしておけば少しは立派にみえるかな~

 おとぎ話に出てきそうな豪華な白い宮殿は、壁も天井も花の装飾が目立つ。女王が立つ国だからか、ジュノール大国のお城と比べてどこか女性的な雰囲気がある。


 桃子はバル様の隣を歩きながら、城の作りに興味を向けていた。そうして気を逸らさないと、緊張して心臓が飛び出しそうなのである。


 その後ろをユノスさん達が付き従って続く。桃子が気を取られていると、王女様とジャール様が大きな扉の前で足を止めた。


「これより先が謁見の間となりますわ。女王陛下がお待ちです」


「宮殿がもっとデカけりゃよかったんだがなぁ」


「十分に大きくな宮殿だと思いますよ?」


 残念そうに眉をさげるジャール様に桃子は首を傾げる。こんなに広いのに、一国の王子からするとまだ足りないだろうか?


 ジャール様がおかしそうに笑って顔を寄せてくる。


「モモ殿ともっと話したかったってことさ」


「うん!?」


「はっははは、素直だな」


「ジャール殿、モモをからかわないでやってくれ」


 バル様が桃子をさりげなく庇ってくれる。


「おっ、バルクライ殿は意外と過保護か? 王族なら赤ん坊の頃に婚約者が決まることだってあるだろうに。それに、この国では女性であることは大きな意味を持つ。オレからすれば、モモ殿だって立派なレディさ」


 気障な仕草で頬を指で撫でられて、どぎまぎしてしまう。五歳児相手にすることじゃないよねっ!? まさか中身が十六歳なのがバレてる?


 ひそかに警戒していると、王女様がころころと笑いながら、ジャール様の背中を軽く叩いた。


「ジャールったら、モモ様にすっかり夢中ね。残念だけど、わたくし達はここで一度下がらないと。あなたもやるべきことがあるでしょう?」


「王族の義務だろ。わかってるさ、姉上。──それではお二人とも、また夜にお会いしよう」


 二人が離れていくと、イゼリアさんがうやうやしく金の装飾の青い筒をバル様に差し出した。


「バルクライ様、こちらをお持ち下さい」


「ああ、お前達はここで待機していろ」


【承知いたしました】


 バル様は護衛騎士と侍女達に指示を出すと、青い筒を両手でささげるように持ち、桃子を視線で合図してくる。背筋を伸ばして、二人は扉に前に向き直った。


 エテミティさんが声高に桃子達の来訪を知らせる。


「ジュノール大国より、第二王子バルクライ殿下ならびに加護者モモ様のお越しでございます!」


 広い部屋の中には中央に赤い絨毯が敷かれ、王座まで続いている。その王座にはナイル王妃と似た面差しの女性が座しており、その左右にも男性達が座っている。おそらくは話に聞いた女王様の夫達だろう。外見は三十代から四十代とバラバラだが、どの顔立ちも趣が違う華がある。


「恵みの国ルクルクの美しい女王陛下に、ジュノール大国第二王子バルクライと加護者モモがご挨拶いたします」


 バル様が王座の前で胸に手をあてて礼をする。桃子もそれに合わせて、教えられた通りにドレスの裾を上げて軽く頭を下げた。


 すると、女王様と夫達が王座から降りてくる。裾が長く上品な青いドレスが動くたびにあでやかに波打つ。


 りんごのように赤く癖のある髪に、夏の木々を思い起こさせる緑の瞳。柔らかに綻んだ表情が、桃子とバル様を見つめて敬意を示すように肩に触れてきた。


「バルクライ殿下、そして加護者モモ殿、此度の来訪に感謝する。ルクルク国はお二人に最高のおもてなしをさせていただこう」


「ご招待くださり光栄に存じます。ジュノール大国にとってルクルク国は重要な同盟国。王もそのようにお考えとなり、我々を送り出しました。こちらがラルンダ王よりの親書でございます」


 バル様が腕に抱えていた赤い筒を差し出した。女王様はそこから巻き軸を取り出して、流し読む。そして満足そうに笑みを浮かべる。


「ジュノール大国の意向は承知した。我らは今後ともよき同盟国であるだろう」


「我が国もそれを望んでいましょう。それでは、改めてジュノール大国に新たに現れた幼い加護者をご紹介いたします。──モモ、女王陛下にご挨拶を」


「女王陛下にお初にお目にかかります。私はモモと言います。ジュノール大国ではナイル王妃様にとても親切にしてもらいました。王妃様から女王様によろしくお伝えするようにと言われています!」


「妹の話を聞けるとは嬉しいことよ。では、ナイル同じように妾とも気兼ねなく接しておくれ」


「はいっ、女王様」


 慈愛に満ちた瞳に照れ笑いしながら、桃子は元気よく返事をする。

 すると、わらわらと女王様の夫達に周囲を囲まれてしまった。

 

一番筋肉質で年かさ男性が、腰をかがめて桃子に視線を合わせてくれる。銀色の短髪を手で撫でつけて感心したように笑みを浮かべた。長いまつ毛に囲まれた赤い瞳には好意的な色がある。


「本当に小さな加護者殿だな! オレは女王の第一夫、カシオウという。我らもそなたと会える日を楽しみにしていたのだ」


 その太い肩をぐいっと押して、水色の瞳の持ち主が顔を覗かせた。口元に小さなほくろが二つあり、緑のゆたかな髪を頭の上でしばりあげている。この人は一番若く見える。


「カシオウよ、オレ達の子もこれほど小さなことがあったなぁ。──モモ殿、菓子でも食うかい? たしかここに一推しの菓子を入れたはず」


 子供好きなのか、桃子を優しく見て懐をごそごそと探っている。しかし、それを冷静な声が止めた。


「シエン様、懐の菓子より先に名乗らないとわかりませんよ。──ご機嫌よう、モモ殿。この方は第三夫のシエン様です。そして私は第四夫のストマグと申します。興味深いお方にお会い出来て光栄です」


 そして、第四夫と名乗ったストマグ様は、眼鏡をくいっと引き上げる。年齢は三十代後半くらいで、水色の髪をばっちり固めており、インテリ風の顔立ちの冴え冴えとした銀色の目が、冷静に桃子を観察している。


 大人の男性達に囲まれて、桃子は内心狼狽えた。小さな身からすると、どの人もバル様ほどではないけど背が高いから、壁になってしまい、誰から返事をしたらいいのか混乱してしまう。なにか返事をしなきゃ!


「皆様、ご機嫌よう、です!」


「加護者といえど、彼女はご覧の通りに幼いため、このような場に慣れていません。言葉が拙い点はご容赦を」


「お二人ともそう硬くならずとも構わん!」


「うむうむ。子供は元気がいいことが一番だ」


「ええ、むしろそのご年齢で空気を読めるのは、賢い証拠でしょう。しっかりしていらっしゃる」


 ストマグ様の挨拶に思いっきり引っ張られた返事が口から飛び出して、桃子は恥ずかしくなった。周囲から洩れた柔らかな笑い声さえ、羞恥心に拍車をかける。


 顔が熱くなっていると、バル様の腕に抱えてもらえた。周囲との視線が近くなる。ここが一番落ち着く場所だよぅ。心の中で五歳児が加護者のお面を額まで上げて、くったりしてしまう。


 エテミティさんが場をさらに和ますように言葉でつないでくれた。


「女王陛下、モモ様は加護者でございますがこのように愛らしいお方なのです。道中の私達もとても楽しゅうございました」


「ほほほほっ、そうであるか。──これ、そなた達、愛らしい方が気になるのはわかるが、そのように囲むでない」


 女王様が穏やかな制止を夫達にかけると、桃子を囲んでいた輪が広がった。圧迫感が減って安心する。

 それが表情にも出ていたのか、カシオウ様が頭を優しく撫でてくれた。


「すまんな! 幼い子と接することは久しぶりだから、加減がわからんかった」


「加護者になれるのは稀な存在でしょう。その中でもモモ様は非常に珍しい方です。歴史研究者として、どのようにして加護者に選ばれたのか、詳しくお聞きしたい」


「お前達、そう急くな。幼い子を相手にするにはこれが一番だろう。──ほれ菓子だぞ。たんと食べて大きくおなり」


「わぁっ、ありがとうございます!」


 シエン様に包み紙のお菓子を差し出されて、桃子の中からうっかり五歳児が顔を出す。加護者らしくお澄まししていたつもりが、全力で喜んでしまった。

 幸いにも、女王様の夫達に悪意はないようである。目を和ませて、桃子を見つめていた。


「今夜はそなたたちの歓迎会を催そう。その時に妾の他の夫と子供達のことも紹介させていただく。それまでは長旅の疲れを癒してくつろいでください。──そこの者、賓客を部屋に案内せよ」


「はっ、承知いたしました」


 壁際に控えていた女性が足早にやってくる。腰には帯剣しており、騎士のような立場のようだ。微笑みを浮かべて桃子達を扉の外へと先導してくれる。


 バル様に無事に終わってよかったねと視線で合図すると、口元が小さく動いた。


『よくやった』


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