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365、モモ、見つめ合う~料理には家庭の味が出るものだよねぇ~

 五歳児の顔よりも大きな魚が豪快にお皿に盛られている。桃子はテーブルに置かれていく料理を前に目を輝かせていた。


 大皿に一匹丸ごと盛られた魚から目が離せない。はあああっ、すごい! こんな大きなお魚料理は初めて見たの! どうやって焼いたのかな? 好奇心がむずむずと心を擽っていく。感動していると魚の目と目が合って、ちょっと哀愁を感じた。……せめて美味しく食べます。そんな気持ちになる。


 桃子が魚との語り合いをしていると、イゼリアさんが魚の身を丁寧に切り分けてくれた。さすがに丸ごと噛みついたりはしないらしい。うっかり口を開きかけていた桃子はなにごともなかった振りをしておく。誰にもバレてないといいなぁ。バル様をちらっと見ると、目だけでわずかに笑われた。はぅっ、見なかったことにしてほしいの。


 バル様が全員のお皿に料理がいき渡ったのを見て、テーブルに着席した面々を見回す。


「こうして共に食事をする機会を得られたことを嬉しく思う。港街の料理を楽しんでほしい。──モモ」


「はいっ! ──二人共、来てくれてありがとう。お腹いっぱい食べようね!」


「了解しました」


「ふふっ、私もたくさんいただきますよ」


 嬉しくてにこにこしながらそう言うと、ユノスさんは大真面目な顔で頷き、エテミティさんは口元を緩めてくれる。難しい敬語とかは苦手だから、ちょっと子供っぽくなっちゃったけど、歓迎の気持ちは上手く伝わったようだ。


 ここからは楽しい食事の時間である。バル様が料理に手をつけたので、桃子もさっそく待望のお魚に挑む。小さく切りわけてもらったお魚にお子様用のフォークを刺して、わくわくしながらパクつく。ふおおおおっ、身がふわふわだよ! ほんのり塩気と甘みがあって美味しい。おかゆやお茶漬けの中に入れても合いそうな味だ。にこにこ笑顔になっちゃうくらいにすんごく美味しい!!


「美味しそうに召し上がられますね。魚がお好きなのですか?」


「大好きなの! エテミティさんはなにが好き?」


「私はおさ……いえっ、失礼いたしました。食べ物でしたら、お肉が好きですね。ルクルク国では、ポットローストという肉料理が親しまれているのですが、おすすめですよ」


 ビコーンッ。酒豪の気配を察知! いまお酒って言いかけたよね!? こんなに綺麗でお酒も強いなんてすごいなぁ。ディーとどっちが酒豪さんなんだろう? 気になっちゃうけど、せっかく会話ボールを投げ返してくれたんだもん。たくさんお話ししておこう。


「ポットローストってどんな料理なの?」


「肉の煮込み料理です。作り手によって味付けや入れる物が変わりますが、我が家は塩味で私の息子も好んで食べていますね」


「ルクルク国は暑い国だって聞いたよ。その味付けなら、暑さにへたっちゃった人でも食が進みそうだねぇ。──バル様とユノスさんも食べたことある?」


「ああ、屋敷で出されたものにはトマトソースが使われていたな」


「私が食べたものはぶつ切りの野菜とワインの風味がありました」


「どれも美味しそうだね! それに、同じ料理だけどいろいろな作り方があって楽しそうなの。自分だけの創作レシピを作って、ポットロースト大会を開いても楽しそう」


 何気なく口にしたことだったけど、バル様達が食事の手を止めて驚いたように瞬く。


「料理大会か? 面白い案だな」


「モモ様は柔軟な発想力をお持ちでございますね」


「ですが、もし、そのような大会が開催されるとしたら料理の良し悪しをどのように判断したらいいのでしょう?」


「うん? そうだねぇ。個人の好みで判断に偏りが出ないように、プロの料理人の人と、一般のお客さんに判断してもらえばいいんじゃないかなぁ? たとえば、プロの料理人さんを三人入れるの。その人達は十点を、お客さんは一点ずつ持ち点があるんだよ。それでね、一番美味しかった料理を選んでもらうの。合計点数が一番多かった人が優勝! その年のポット王とか、ポット王妃って呼ばれるの。優勝賞品もあったら、参加する人もたくさん集まるよねぇ。お祭りみたいにしても盛り上がると思うよ」


 ユノスさんの疑問に答えていると、心の中では食いしん坊な五歳児が八の字お髭をつけて美食家っぽい貴族の格好で現れた。さっき食べたお魚の料理に十点のパネルを出す。美味しいの! うん、そうだよねぇ。十六歳の桃子が大きく頷く。これは納得の十点です。


 ぱっと思いついたものを伝えてみたけど、そういう催しがあれば街の人達も喜んで参加してくれそうだ。ジュノール大国でそういう大会が開かれたらぜひ参加したいの。まずは食べる方でね! 


「モモ様のご聡明さには大変驚きました。おいくつでいらっしゃいますか?」


「うん? えっとね、五歳!」


 正確にはちょっぴり違うんだけど、身体は五歳だから間違いではない。ふよふよと泳ぎたがる視線を頑張って引き止めながら、左手をパーにしておく。今は正直者でいちゃいけない。そんな桃子を助けるように、バル様が話を振ってくれた。


「おそらく、モモは今この世界でもっとも幼い加護者だろうな。──こうしてルクルク国に向かうのは二年ぶりだが、ルクルク国の女王と姫や王子は元気でいらっしゃるか?」


「はい、皆様は毎日剣の鍛錬や弓の鍛錬などに精を出していらっしゃいますよ。特に第一王女様におかれましては、その腕前により一層磨きをかけていらっしゃるご様子。わが国ではナイル様の再来とまで言われています」


「それは頼もしいことだ。女王もさぞ自慢に思われていることだろう」


桃子は二人の会話の中で気になったことを聞いてみる。


「王妃様の再来ってなぁに?」


「モモ様、ナイル王妃は剣の達人なのです。ジュノラス様と我々の訓練場にもいらっしゃられ手合わせする傍らで、我々にもご指導くださいました」


 ユノスさんの言葉に桃子は男装姿の凛々しい王妃様の姿が思い浮かぶ。バル様とジュノラス様の剣の師匠は王妃様だって話だから納得なの。でも、ユノスさん達まで指導してるなんてすごいね!


「……義母上と兄上か。話を聞くに、おそらくは腕が鈍らないようにという建前で、義母上が兄上を引きずり出しているのだろう。お前達もかなり扱かれているな?」


「はっ、いえ……あの方は私達が出来るギリギリをご指示なさるので、けして無理難題ではないのです」


「その鍛錬配分が絶妙だからこそ、指導されている側は食らいつくんだ。オレも兄上も義母上が剣の師だからな。あの扱きのきつさは知っている。しかし、きちんと鍛錬を重ねれば、確実に剣の腕は上がるだろう」


「はいっ、我々もそれを実感いたしました。実は、モモ様とバルクライ様がルクルク国へ向かうことが決まった際に、ナイル王妃が特別に我々を鍛えてくださったのです。ジュノール大国の騎士としてお二人をお守り出来るようにと。僭越ながら、お二人の旅路を気にかけておいでなのだと思います」


「……義母上らしいな」


 バル様が少しだけ目を細める。心配してこっそりユノスさん達を鍛えていたなんて、その気持ちが嬉しいよね! 桃子はにこにこしながら、頷いた。


そして、ふと思いつく。


「王妃様は優しいねぇ。あのね、今のお話を聞いていて、三人に協力してほしいことが出来ちゃった」


「モモの願いなら、協力しよう」


「あの、せめて話を聞いてから返事をしてね!?」


 誰よりも先に即答したバル様を咄嗟に止める。いつものことながら、いっさいの迷いがない。全力で信用してくれるのはすんごく嬉しいんだけど、五歳児の甘やかしに拍車がかかってやしませんか!? 桃子の反応に、ユノスさんがそっと顔を背けて、エテミティさんが上品に微笑む。でも、二人して肩が震えている。うん……我慢しないで笑ってもいいよ?


 桃子は逸れた話を咳払いして正してみる。


「コホッ、あのね」


「モモ、風邪か? 他に具合が悪いところは?」


「違うよぅ。咳払いのつもりだったの。上手に出来なかったけど」


「ならばいいが……」


 桃子が口を尖らせると、二人の肩の揺れが増した。しかし、バル様は安心したように真剣な表情をわずかに緩める。過保護なくらいに心配してくれているのだ。桃子はその気持ちを感じて拗ねた表情を笑顔に変えると、今度こそ話を元に戻す。


「私が言いたかったのはね、ルクルク国でしか手に入らないもので、王妃様が好きなものをお土産に出来ないかなって」


「それは喜びそうだな。しかし、義母上の好みか……甘いものがお好きなことは知っているが、ルクルク国に限定したものとなると選ぶのが難しいぞ」


「でしたら、我が女王にご相談してはいかがでしょうか? 嫁がれたとはいえ、妹君のことでございますから、きっと快くお答えくださいますよ」


「聞いても失礼にならないかな?」


「とんでもございません! お二人は慣習に従い王位争いこそいたしましたが、もともと仲がよろしいご姉妹でございます。加護者様からお話を聞けばむしろ大変お喜びになられましょう」


「そうなんだね。──バル様、せっかくだから女王様の意見も聞いて、王妃様に喜んでもらえるものを一緒に探してみようよ」


「ああ、そうだな」


 バル様も頷いてくれたので、ルクルク国で小さな目的が一つ生まれた。女王様がどんな人かまだわからないけど、王妃様のお姉さんだからきっといい人な気がするよね!


 こうして、四人の食事会は、和やかな雰囲気で続いた。

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