347、モモ、鍛錬する~魔法とは奥が深いもののようです~後編
「これさえ終われば終了ですから、気を抜かずにいきましょうね。今日までの鍛錬で皆さんも自分と相性がいい魔法がわかりましたよね? ですから、最後の鍛錬では自分が一番使いやすい魔法にイメージをつけて発現していただきます。この鍛錬では威力より精度を重視しますから、殺傷能力のない小型の魔法をお願いしますね」
「やれって言うならよぉ、アドバイス的なもんをくれ」
「そうですね……──ディーカル君はセージの繊細なコントロールがとても苦手のようですが、大きな魔法を放つのは得意ですよね? そういう方ほど、セージの手綱をきちんと握らなければいけません。そのことを忘れずに」
「了解したぜぇ、マーリ隊長。言われて納得しちまう部分もあるしな。感覚的なもんだけどよ、細く長くセージを出し続けるよりも、全開にしちまう方が楽なんだわ。ざっくり力配分して魔法を使う方がオレには合ってそうだ」
「ご理解いただけて私も安心いたしました。──リキット君はディーカル君とは真逆です。あなたは大量のセージを動かすのが苦手でしょう? けれど、力配分の加減は抜群です。本能的にわかっているので感覚を掴むのが上手いのでしょうね。それはあなたの長所ですよ」
「自分だけの魔法を編み出してみせます!」
「リキット君ならきっと成し遂げられますよ。──最後に、モモ様ですが、セージのコントロールについては一番優れていらっしゃいます。それからイメージ力についても、感受性の強い子供は有利ですよ。ということで、練習前にセージの補充をしておきましょうね」
マーリさんの温かな両手に手を包まれて、セージが身体に沁みわたっていく。女性らしい白い手だけど、戦う人特有の硬さを掌から感じた。桃子はほぉっと思わず息を漏らしながら、注がれるセージに意識を集中させた。手のひらからお腹の方まで広がって、全身にいきわたっていく。十分なセージをもらったところでマーリさんの手が離された。
「マーリさん、ありがとう」
「うふふ、どういたしまして。では、一番手はモモ様にお願いいたしましょう。先ほど説明した通りに魔法を発現してみてくださいませ」
「はいっ、行くよーっ!」
心を落ち着かせて頭の中で鮮明に思い浮かべる。透明な水の玉をイメージして……吸ってー、吐いてー、むんっ! 桃子は意識して両手を前に突き出すと、閉じていた目をゆっくりと開き、精霊に呼びかける。
「水の精霊さん、力を貸して」
桃子の声に応えるように、青い光がわーいと歓声が聞こえそうな速さで一か所に集まってきて、カッと光った。そうして発現したものは──……。
「うぉ、なんかすげぇ動いてんな。ははっ、見ろよリキット、生きてるみてぇだぜ!」
「なんて言い表せばいいんですかね? 言葉に迷いますけど……うねうね? ぽよぽよ? しているというか……」
リキットが表現に困っているものを桃子は知っていた。なるほどと頷きながらその名を口にする。
「アメーバだねぇ」
「初めて聞く言葉ですわね。そういう呼び名があるのですか? 魔法自体は丸くはありませんが、丸くしようとなさったモモ様のご意思が中途半端に反映されたようですね」
「モモ様の魔法は愛らしいです」
「えっ!?」
レリーナさんの発言にジャックさんがびっくりしてるけど、私もそれには思わず視線を向けちゃったよ。愛らしい要素があるかなぁ? バケツ一杯くらいの水が、丸くなりきれずにふよんふよんと弾むように揺れながら空中を漂っているだけだよ? どこから見ても失敗だよねぇ。桃子は湧き上がる好奇心に従って立つと、漂うアメーバもどきをそうっと指でつついてみた。弾力があるなぁ、なんて油断した途端にドバシチャアアアッと水が爆発した。
「こぽこぽこぽっ」
「馬鹿チビスケ、なにやってんだ!?」
「溺れてるんですよ!」
「げっほっ……げほっ……た、助かったよ、リキット」
「ご無事ですか!?」
いち早く危険を察知してくれたリキットに地面から大根を抜くようにスポーンと引き上げられた桃子はぽたぽたと地面に水を落としながら激しくせき込む。慌てた様子でレリーナさんとジャックさんが駆け寄ってくれる。顔も服もびっしょり。頭からつま先まで水浸しになっちゃったよぅ。しかもお鼻の奥がツーンってする!
「お鼻に水が入っちゃった……っ」
「よしよし、大丈夫かい? わかるよ。それってなんとも言えない痛さなんだよなぁ」
「えほっ、大丈夫だけど、水浸しなの」
「あらあら、温めないといけませんね。──火の精霊よ、助力を乞う」
マーリさんが精霊に呼びかけると、火の精霊が現れてぶつかり合い、あっという間に火の玉が生まれた。それは桃子の前で燃えながら、身体をあっためてくれる。レリーナさんが背中をさすってくれる摩擦でも熱が生まれて、お腹も背中もほんのりあったかくなってくる。これなら服もすぐに乾いてくれそう。
「レリーナさん、オレが本部でタオルを借りてきます! ──ちょっと待っててな、モモちゃん」
「ごめんね、ジャックさん、レリーナさん」
「すぐだからね!」
「モモ様がご無事であればいいのです。御髪とお洋服の水気を絞りましょうか。このくらいすぐに乾いてしまいますよ」
走り出したジャックさんを見送りながら、桃子は髪の毛とシャツをぎゅっと絞ってもらった。ぽたぽたと地面に水が落ちる。まったく、ひどい目にあっちゃったねぇ。俯いていると、濡れた髪の毛を掻き上げられた。前髪が短いから、おでこが丸見えになってそう。急なことに口を尖らせたままディーを見上げると、片目を眇めてにやっと笑われる。
「練習に失敗はつきものだ。乾くまではオレ達の見学をしとけよ、チビスケ。それでいいよな、マーリ?」
「私も同じことを言うつもりでした。モモ様は頑張り屋さんですから、少しくらい休憩したところで、ディーカル君もリキット君も置いて行ったりしませんわよ」
「むしろ、僕達が置いて行かれないようにしなきゃいけないかもしれませんね。モモ様のイメージに魔法が反応したのは確かなのですから」
「じゃあ、どっちが早く丸く魔法を発現出来るか競争だね!」
桃子はディーとリキットに励まされて無邪気な笑顔を向ける。落ち込むよりも練習あるのみ! 足の速さでは絶対に勝てないが、スタート地点がほぼ一緒の初心者魔法使い同士であるならば、いい勝負が出来そうだった。




