342、モモ、むせる~慎重になるのは守りたいものがあるからだよねぇ~前編
お風呂でほこほこした桃子達はバル様達と合流するためにルーガ騎士団の食堂へ直行することになった。「お待たせしたらいけません!」って、リキットが足早に歩き出したので、皆がそれに合わせていつもより早いペースで歩いているところである。
桃子もお風呂に入ったので、今はマーリさんに借りた水色の清楚なワンピースを身につけていた。脇はちょっぴり余るけど、ウエストは端折ってお花が連なったベルト代わりの紐でとめているからなんとか着れている。パンツは新品を持ってる人にわざわざ頼んでくれたみたいでね、両端を洗濯ばさみで止めて装備中だよ!
それでも桃子の短い足では頑張って走らなきゃいけない。それを見越してなんだろうねぇ、レリーナさんがスマートに抱っこしてくれている。その隣を歩いているジャックさんの腕にはモモ人形があるけれど、あの、逆じゃなくて大丈夫──……だね! キラキラしているレリーナさんの鉄壁の微笑みが答えだった。桃子は小さな気遣いを飲み込んで、細い腕に身を委ねる。
女性の腕だけど、しっかり抱えてくれているので安心してしまう。それにレリーナさんはいっつも、いい匂いがするんだよねぇ。私もお風呂に入ったから、ちょっぴりいい匂いがしてたらいいなぁ。ささやかな女子力アップに希望を抱きながら、私は大人しく抱っこしてもらってるんだけど、隣をのしのし歩いているジャックさんに笑いを堪えられなくなっちゃった。
「あははっ、大きなジャックさんがお人形を持ってるからすんごくちっちゃく見える」
「そうかい? レリーナさんに任されたからモモちゃんと同じくらい大事に運ばないとね」
「ええ、お願いね?」
「はいっ、傷一つつけません!」
ジャックさんは張り切ってそう言うと、モモ人形を両腕に抱きかかえる形に変えた。それはちょうどレリーナさんと桃子の抱っこスタイルだ。お揃いだね! ジャックさんのおどけた仕草にレリーナさんとマーリさん、それにディーやリキットにも笑いが伝染する。ダナンさんだけは無言だけど目が笑っちゃってるね。
小さなことでも心から楽しくなってしまうのはお子様だからかなぁ? 本当にちっちゃい時は、よく新聞紙でくるまったり、お布団を空飛ぶ車に見立ててたくさん荷物を積んで遊んでいたんだよね。お子様にとってはなんでも遊びに変身するのだ。心の中で五歳児が胸を張る。バルチョ様とも仲良し! そうだよねぇ。十六歳の私が大きく頷きを返す。
ルーガ騎士団本部の廊下はお昼の時間だからか団員さん達の姿が多く、桃子達と隊長さん達の珍しい組み合わせは、七人という人数もあり注目を集めているようだった。けれど桃子は前に働かせてもらったことがあるので不審者とは思われていないようで、時々片手を上げて親しげな笑顔を向けてくれる団員さんもいた。もちろん笑顔のお返しをします!
ささやかなやり取りで楽しく遊んでいると、人の流れが同じ方向に進んでいることきがわかった。流れの先は食堂だ。やっぱり皆もご飯を食べに向かっているんだろうねぇ。
桃子達も出入り口から中に入ると、先に来ていたバル様とキルマとカイがすでにテーブルと椅子を確保してくれていたようだった。
「お待たせして申し訳ありません、団長、副団長、カイ補佐官!」
「気にしなくていいですよ。午前の鍛錬お疲れ様でした。これより食事を取りますが時間を短縮するために私から提案があります」
「あん? どんな提案だぁ?」
「我々全員がトレーを取りに行くのは非効率的でしょう? ですから、食事を運ぶ人間を半分に絞ります。一人二つ運べば一度で短時間で終わりますからね」
「悪いけど時間が押してるから誰が運ぶかはこっちで選ばせてもらうよ。オレ、副団長、リキット、ダナン、ジャックでどうかな?」
さりげなく女性を対象から外している! いつも女性に優しいカイらしいよねぇ。幸いにも誰からも不満は出なかった。ルーガ騎士団にはジェントルマンがいっぱいなの!
「それで大丈夫です! ──僕が隊長の分を持ってきてあげますから、あなたはくれぐれも大人しく座っていてくださいね」
「へいへい。ったく、オレはどこの問題児だぁ?」
テーブルに片肘を置いてダラッとした姿のディーが不満そうにボヤく。それをキルマが綺麗な微笑みと共に受け流して話しを続ける。
「それでは料理を取りにいきましょうか。今日のAランチはメインが鹿型のローストで、Bランチは同じ肉を使った蒸し焼きと聞きました。城の外を巡廻している部隊が遭遇したものを討伐して持ち込んだそうです。皆さんどちらを選びますか?」
「私はBランチにしようかなぁ」
「オレはAだ」
「そんじゃあ、オレも団長と一緒にするわ。リキット、間違えるなよ?」
「わかってますよ」
「私はモモ様と同じものを」
「では、私もBでお願いいたしますわ」
綺麗に分かれたねぇ。女性&お子様グループはBで、バル様とディー、男性陣はAを選んだみたい。ご飯をしっかり食べて午後の鍛錬準備をしなきゃ。
そうして、並んでご飯を取りにいってくれた五人を見送って、桃子達は椅子に座って待つことにした。桃子の席はバル様の隣で、お子様用の椅子を用意してくれていた。わざわざ買ってくれたのかな? ありがたいことだよねぇ。桃子はそこに乗せてもらう。ふんわりした弾力がお尻にフィット!
バル様とマーリさんも椅子に腰を下ろす。レリーナさんがモモ人形をテーブルの上に乗せているから、目がバッチリ合っちゃった。皆でご飯を食べることにうきうきしていると、バル様に呼ばれた。
「意見を聞きたい。モモはパーカー・ドライフにどんな印象を抱いている?」
「会ったのは今日で二度目だからあんまりわかってないけど……人を和ませるのが上手な人だなぁって思ったよ?」
「はっ、確かにな。団長を相手に口だけはよく回ってたわ。それがオレには胡散臭く見えたけどよぉ」
「人を疑うことはよくありませんが、私もディーカル君と同じ意見です。バルクライ団長、あの方のご用件はどのようなものだったのですか?」
「それは──……食事をしながらだな」
「皆さん、お待たせしました」
キルマ達がトレーを両手に戻ってきた。キルマが桃子の前に食事を置いてくれる。食器も料理もマーリさん達より一回り小さなお子様用になっていて、お皿にはパリパリの大きな餃子みたいなものが乗せられている。後はジャガイモとキュウリのサラダに千切りキャベツ、パセリが散らされたかぼちゃのポタージュに、可愛い大きさのクロワッサンが二個ついていた。
全員が着席すると賑やかな食事が始まった。マーリさんが上品にパンを手でちぎって口にしている。桃子も真似をしてちぎって食べてみた。焼きたてのパンって本当に美味しいんだよねぇ。香りもすごくいいし、ふわっふわ! 幸せだなぁ。桃子がにこにことクロワッサンを食べていると、バル様が再び口を開いた。
「全員食事をしながら聞いてくれ。パーカー・ドライフの要件は、ルーガ騎士団に実験の協力を頼みたいというものだった。今後を考えて防御力の増強をメインに据え、武器や団服に魔法の付加をつけてはどうかと提案された」
「攻撃力じゃねぇの?」
「ああ。パーカーの提案はあくまでも防御力の方だ。攻撃の付加は戦闘中に異変が起こった時に使用者の身を逆に傷つける可能性がある。そのため、防御力をメインに考えているらしい」




