340、モモ、大浴場にいく~お風呂は身体と心を開放してくれるところだよねぇ~ 女風呂編
「すごーいっ、ひろーいっ」
裸んぼの桃子は白いタオルを握りしめて白い湯気がふわふわと広いお風呂を前に、テンションが上がってはしゃいだ声を出していた。
広さはおよそ普通のお風呂の六倍くらいはあるだろうか。清潔感のあるクリーム調で整えられたお風呂場は大浴場と言っていいほどに広く、綺麗な造りをしている。壁には何か所も優しい明かりが灯され、洗い場は十分なスペースと数があるようだ。
桃子は羨ましいくらいに大きなお胸をタオルで覆ったマーリさんに手を繋いでもらいながらぺたぺたと大理石の床を歩き出す。足の裏につるつるひやぁっとした感触が伝わって気持ちいいねぇ。
湯けむりの先には女性団員さん達がおしゃべりしながら身体を洗ったり、湯船につかってくつろいだりとのんびりと過ごしている。身体を洗っていた団員さん達は桃子と目が合うと、泡だらけなのに慌てたようにタオルで前を隠しながらルーガ騎士団の礼を取ろうとしてくれた。桃子はにこーっとしながら右手をびしっと突き出して首を横に振る。しなくてもいいよって伝わるかな? ……伝わったみたい! 団員さんは大きく頷くと頭を軽く下げて戻っていく。
桃子とマーリさんは空いている場所で身体を洗うことにした。さっそく、ツルツルした椅子に座ろうと頑張っていると、誰かが後ろから桃子の身体を持ち上げて乗せてくれる。ありがたい手助けに、お礼を言おうとした桃子は相手を見て驚きに声が大きくなった。
「ケティさん! 久しぶりに会うね。今日はお仕事お休みなの?」
「ううん、午前の見回りを終えた所だよ。土埃が気になったから先にお風呂へ入ろうと思って。──モモちゃんはマーリと一緒なんだね? どうしてここに?」
「モモ様はディーカル君とリキット君のセージの鍛錬をご一緒に受けてましたのよ」
「えっ、ディーカル隊長と? ……あのっ、怪我とかしているご様子はなかった?」
「すんごく元気! さっきもリキットとじゃれあいみたいな言い合いをしていたくらいだもん」
「鍛錬ですから多少の擦り傷はありますけれど、大きなものはございません。今でしたら彼等もお風呂でくつろいでいるはずですよ。壁の向こうへ声をかけてみてはいかがですか?」
「そんな、私から声をかけるなんて、は、恥ずかしい……っ」
カアアアアって音が聞こえそうな勢いで、ケティさんの顔が真っ赤になる。タオルで隠した胸の前で両手を握り合せてもじもじと恥じらっている様子は桃子が漫画でみたことのある恋する女の子そのままだ。照れ屋で初々しい感じがとっても可愛らしい。でも、こんなにわかりやすいのに周囲にはディーへの想いがバレちゃってないのかな?
桃子はちょっぴり心配になってマーリさんの反応を伺う。すると隣に腰を下ろしたマーリさんが粉の入った小さな入れものを二つ差し出してくれる。……これはなんに使うのかな? 匂いを鼻で嗅いでみる。片方は花のような匂いがほんのりと、もう片方は無臭みたい?
しげしげと眺めていると、マーリさんがやり方を実践してくれた。まず手に粉を少量乗せる。それから蛇口の横にある魔法陣に触れて、お湯を出すとそれで粉を溶かすように指でかき混ぜた。とろっとしたところで液体を見て、桃子は閃く。わかったよ、この正体はきっとシャンプーだね!
答えをうきうきしながら待っていると、マーリさんが液体を持つ手を頭に持っていき、わしゃわしゃと洗い出す。わーいっ、当たった! クイズに正解したような嬉しさを覚えて桃子はマーリさんを真似てシャンプーを作る。お屋敷ではレリーナさんを中心としたメイドのお姉さん達にまるごとお世話になっていたので知らなかったけど楽しいねぇ。
固形の石鹸は、花の形をしていたり星の形をしていたりと遊び心がある。匂いも種類があるみたい。花や蜂蜜みたいな香りがするものがあれば、シンプルなものは無臭だったりと選びがいがあった。お好みに合わせて使ってねってことなんだろうね。桃子は髪だけ匂いがほんのりついたものを使って、石鹸は無臭のものにしてみた。
ケティさんも石鹸を手でもみ込んでもくもくと泡立てて使っている。反対側ではマーリさんが桶にお湯をためて髪を洗い流していた。そうして、濡れた髪をかきあげながら話を続ける。色っぽい!
「わたくし、いえ、私とケティは親しい友人なのです。ですから、彼女の想いは知っていますわ。なかなか進展がないのでこうして時々後押ししているのですよ」
「用もないのにいきなり声をかけるなんて、迷惑かもしれないよ」
「それは考え過ぎですわ。お互いに隊長なのですから、その立場を利用して、書類を理由に話しかければよろしいのに」
「私は隊長のお力になれたらそれだけで……」
「見返りを求めないあなたの気持ちはとても美しいですわ。ですから、これはお節介な友からの助言だと思って下さいな。たまには正面からアプローチもよろしいのではありませんか? またディーカル君になにか贈ったのでしょう?」
「セージのコントロール鍛錬をするって聞いたから傷薬を。あっ、でもマーリ、モモちゃん、私が届けたことは内緒にしてね?」
「ケティさんがそう言うなら、もちろんディーには言わないよ。だけど、気持ちが伝わらないままなのはなんだか寂しいね」
「ありがとうモモちゃん、そんな風に思ってくれて。私は今の状態で満足だよ。それにね、ルーガ騎士団の中で異性の隊長同士が恋愛感情を交えて親しくするのは、周囲への悪影響になるかしれないでしょ? 私達にとって敵対する者が存在する今は特にね」
「あなたは隊長としてとても優秀ですわ。そう、優秀過ぎるくらいです。人は自分の幸せを一番に考えてしまいがちですのに」
「私はケティさんのお人好しなところも好きだよ! だからもし、ケティさんが想いを伝える道を選んだ時は教えてね、全力で応援しちゃうの。マーリさんも同じだよね?」
「ええ、大好きな親友です」
「……ありがとう、二人とも。すっかり話しこんじゃったね。モモちゃんの身体が冷える前に洗い流そう?」
ケティさんが恥ずかしそうに笑うと、頭から足までアワだらけの桃子を見てお湯で流してくれる。実は桶が持ち上がらなくて困ってたの。お話を遮るのも悪いから、どうしようかなぁなんて考えていたんだよねぇ。
三人はしっかりと全身を洗い流してから、一番楽しみにしていた湯船に向かった。床を掘り下げた感じで作られた丸い形のお風呂には、隅に桃子くらいのドラゴンの置物が備え付けられていて口からお湯がドドドッと出ている。目には赤い宝石が嵌められていて触りたくなるほど綺麗! 近くでお風呂に入っていたお姉さん達が心配そうに見ているのがわかる。大丈夫だよーって笑顔を向けてから、慎重に一歩ずつお風呂に入っていく。けれど、三段目から先は見るからに深そうだ。ごくりっ、ここから動かない方がいいかな? 悩んでいると、足の止まった桃子をマーリさんが引き寄せてくれた。
「モモ様、私の肩にお掴まりください」
「私も後ろにいるからね?」
「うんっ、とっても助かるの」
マーリさんの肩を頼りにすると中ほどまで進めた。ケティさんが見守ってくれてるから、溺れる不安もない。そうして持ってきた白いタオルを手伝ってもらいながら軽く絞って頭に乗せてみる。これぞ、想像していたとおりの温泉スタイル! 心の中の五歳児がふんふんと鼻歌を歌い出す。はぁぁっ、いい湯だねぇ。ディー達も気持ちよくお風呂に浸かっているのかな?




