329、モモ、仲間に入れてもらう~魔法って響きだけでどきどきわくわくしちゃうよねぇ~中編その二
「どうした、チビスケ?」
「言いたいことがあるようだな。モモの意見も聞いてみてはどうだ?」
「……モモ様……」
リキットの希望を託すような目に、桃子は応えたかった。なので、精一杯真面目な表情をして、マーリさんに考えを伝えてみた。
「あのね、私は休憩も大事だと思うの! お腹が減っちゃうのも寝不足なのも集中力が切れて怪我につながるし、身体に悪いもん」
「ええ、そうですわね。身体を休めることは効率よく鍛錬するためにも必要ですもの。では、限界ギリギリのところで休憩を入れましょう」
……あれぇ? これでよかったんだっけ? リキットの助けになればと思ったんだけど、思っていたのと違う方向に進んでない? 桃子は混乱気味に、ぱっとリキットを見た。真っ白に燃え尽きてるぅ!? 今にも風に吹かれて消えそうだ。どうしよう、やっぱり違ったんだねっ? 桃子は大慌てで頭をフル稼働させる。今こそ唸れっ、私のちっちゃい脳みそ! いい案を出そうと必死になっていると、覚悟を決めたようにリキットは強気に胸を張った。
「なんの、問題も、ないです! モモ様にはお気遣いいだきましたが、考えてみればいずれは解決しなければいけない問題ですし、多少は厳しい方が身につくというもの!」
「言うじゃねぇの。じゃあ、鍛錬しようぜぇ」
「やる気があって結構ですわね。ではさっそく、お好きな武器をどうぞ。──皆さんに配って差しあげなさい」
「はい、マーリ隊長」
「どうぞ、こちらをお使いください」
二人のお姉さんがそれぞれに剣や槍や弓を選んでもらって配ってくれる。バル様達は腰の剣を外すと柵に立てかけて好きな武器を手に取る。ダナンさんは弓を、バル様とディーとリキットは剣にしたようだった。鍛錬用は刃が潰してあるから、お子様でも危なくないって聞いたことがあるの。私も触ってみたいなぁ。桃子はバル様の剣を羨望の眼差しで見上げた。でも邪魔しちゃダメだから、我慢! しかし、そわついた桃子の気持ちはバル様にお見通しだったようだ。
「……持ってみるか?」
「い、いいの?」
「ああ。刃は潰してあるから危険はない。だが、他の部分は本物と同じ作りだ」
「うんしょっ、……うぐぐっ、頑張れーっ、私!」
バル様が剣先を下に向けたまま握りの部分を差し出してくれる。桃子は背筋を逸らすように剣を受け取る。けれど、その重さによろめいてしまう。両手で握りしめてふぬっと力を込めると、剣先がぷるぷると持ち上がっていく。けれど、それ以上は動かない。桃子は中腰で両足を踏みしめたまま固まった。も、もう落ちちゃうのっ! 全力で頑張った桃子から剣を取り上げることで、バル様が救出してくれる。
「やはりモモには重かったか」
「はぁ……はぁ……ありがとう、バル様。想像していたよりも重かったの。もっと鍛えたら私にも持てるかなぁ?」
「よせよせ、剣なんか持つようになったら副団長が嘆くぞ。チビスケみたいなガキの両手には菓子や花の方が似合いだ」
「これを武器とするのは、オレ達の役目だ。──それでは、始めよう。マーリ、ダナン、魔法の基礎について簡単な説明をしてやれ」
「はい。まず、自分達が使う魔法は精霊によって属性が存在することは知っていますよね? これまでジュノール大国の歴史上に存在したとされる主な精霊は、火・水・風・土・光・闇・雪・氷・雷・植物の十精霊です。ただ、闇から始まる後半の五つはすでに失われた精霊と言われています」
「その精霊さん達はどうしていなくなっちゃったの?」
桃子は不思議に思って、魔法の先生役についてくれた二人に聞いてみる。素朴な疑問だったけど、マーリさんも優しい瞳を丸くして、初めて気づいたというように頬に手を添える。
「言われてみれば、確かに気になりますわね。──どうしてでしょう、ダナン?」
「自分にもわかりかねる」
ダナンさんが困ったように返事を返してくる。ごめんなさい、説明から脱線させちゃった! つい気になっちゃってぽろっと口から出ちゃっただけなんだよ。説明が滞ったからか、バル様が口を開く。
「伝承では、初代国王ルーガに力を貸した神々は国に平穏が訪れるとこの地を去ったとされている。そして与えられた加護が精霊となったそうだ。ただ、闇から始まる精霊達はその強い力が人々の新たな争いの種にならぬように眠りについたらしい。その為、現在オレ達に応えてくれる精霊は最初の五つ、火・水・風・土・光の属性を持つものだ」
バル様はそこで口をつぐんだ。微笑んだマーリさんが話を続きを引き継いで桃子達を見回す。
「その中でも光の精霊は特殊でして、傷を治す力を与える代わりにほとんどの者はその他の魔法を一切使えません。ですから、神官は治癒魔法に特化しているのです」
「神官達のことはオレも知ってる。けど、そんな伝承があることは知らなかったぜ。団長、それは王族達の間で語り継がれている類のものか?」
「いいや、一般的に周知されてはいないだけでこれは特別なものではない。オレが知っていたのは、昔、魔法について調べたことがあったからだ」
「団長は勤勉でもいらっしゃるのですね。僕も見習って、武器以外も鍛えます! ところで一つ気になっているのですが、光の魔法は特別だとおっしゃいましたよね? では、他の魔法を扱う者は、水でも火でもセージさえあれば自由に発現出来るのですか?」
「そこは重要だよなぁ」
「一通りは扱えるはずだ。しかし、人によって精霊との相性というものが存在する」
「相性ですか?」
「ああ。その目安は、精霊に声が届きやすいかどうか、だ。少なくともディーカルには火の魔法の適性が、リキットには水の魔法の適性が強く出るはずだ」
「あんだけ好き勝手に魔法が発現しちまってたんだから、そりゃそうか」
「僕に水の魔法が……」
ダナンさんの説明を聞いて、ディーが自分の頭を搔くと、リキットは真剣な表情で背筋を正す。執務室が壊れちゃうほどの魔法が発動した二人には、心当たりはあり過ぎるもんね! 桃子はふむふむと頷きながら考えてみる。それじゃあ、私にも火とか水の魔法が使えるかもしれないってことだ!
「では、モモも入れて三人の適性を調べてみよう。他にも鍛えられる魔法があるかもしれない」
「ええ、それがいいでしょう。精霊との相性は声の届きやすさに関係しますもの。さっそく魔法を発現してもらいましょうか」
私のことも忘れないで入れてくれた! 桃子は嬉しくて、バル様を見上げてご機嫌で大きく頷く。いよいよ魔法の練習が始まる。精霊さんに声が届くように、迷いない気持ちでやってみよう!




