321、モモ、耳を傾ける~欲しいものを我慢するには強い心が必要です~中編
瓶を見ていた桃子がバル様に視線を戻すと、待っていてくれたのか、美声がゆっくりと聞こえ出す。
「キルマからの報告の件だが、あの時はディーカルとリキットが本部でセージを暴走させたという伝令があったんだ」
「セージの暴走!? 怪我は……っ?」
「軽傷を負ったようだが、キルマが神官を呼んだと書かれていたからな、もう完治しているだろう。しかし問題なのは、あの二人がもともと魔法の使い手ではなかったという点だ。通常、セージとは幼少期より身体の成長と共に量が増えていき、一定の年齢になれば止まるものだ。あの二人はすでに成人済み。今になってなんの理由もなく同時にセージが増えるというのは考えにくい」
「えーっと、それじゃあ、なにかがあって魔法を使えるようになったってこと?」
「聞いたこともない現象だが、理屈ではそうなるな。そこは、キルマも同じことを考えたようだ。本人達に同じ時期に変わった体験をしたり、なにかを摂取したりはしなかったかと聞いたらしい。その結果、二人が口を揃えて、春祭りに例の酒を一緒に飲んだと言ったそうだ」
「ということは、原因は神様のお酒!?」
「今のところはその可能性が一番高い。ターニャの診断からもセージについては裏付けが取れている。ディーカルとリキットは数値からしてセージの量が異常に増えており、魔法を使える状態にあるそうだ」
桃子は緊張した面持ちになる。二人があのお酒をどれだけ飲んだのかわかんないけど、私とくらべたら絶対に、三倍、四倍は軽く飲んでいるはず。身体の大きさだって違うのに、それでもセージがとんでもなく増えちゃったってことは、もしあの時、私が軍神様の忠告を聞かないで欲張りに一気飲みをしていたら、とんでもないことになっちゃっていたかも……。欲張らなくてよかったよぅ!! 桃子は知らずに陥っていた危機に気づいて、無意識に安全を選んだことにひっそりと胸を撫で下ろす。
「そこで、モモには明日オレとルーガ騎士団に行き、彼の女神とオレ達が話す場に同席を頼みたい。原因をはっきりさせるためには、賭けの女神に聞くしかないのでな。呼びかけに応えていただけるか否かは定かではないが、モモがいればディーカルも彼の神も冷静に話が出来るだろう……またあいつが呪われても困るからな」
「ディーと賭けの女神様がうっかり熱くなっちゃうといけないもんねぇ。うん、わかったよ。私でいいなら同席するよ。でも、ディー達が魔法を使えるようになったのは、いいことじゃないの?」
「どうだろうな。コントロール出来ないほど強いセージは、主も周りも壊すだけだ。感情の起伏一つでセージが溢れ、魔法が中途半端な発現をして暴発する。二人が魔法を使えなかったということはコントロールをしたことがないということだ。早急にセージのコントロールと魔法の発現の仕方を覚えてもらう必要がある」
「なにごとも練習だね! 私もパーカーさんに手伝ってもらって一度だけ上手く出来たけど、それまでは途中で消えちゃってたし、明日もし訓練するのならちょっとだけ一緒に混ぜてもらえないかな?」
「ならば、オレも最初だけ加わろう。モモが望むのなら明日はルーガ騎士団で過ごせばいい。鍛錬場ならばいくら暴発しても問題ないからな」
「私も頑張るね!」
元の身体に戻るためにはセージを必要としている身だから、たくさん練習することは出来ないけど、ちょっとくらいならいいよね? これ以上はセージを使ったらダメって目安はお腹のスースーする時の加減でなんとなくわかるもん。魔法を上手く使えるようになれば、もっと出来ることが増やせるかもしれない。これは大きなチャンス! 桃子は膝に揃えた両手をグーにする。
「オレが一緒の間はモモのセージを補おう。しかし、モモは自分の身体が幼いことを忘れないように。負担がない程度に練習するようにしてくれ。それから、オレが抜けた後についてはダナンに話を通しておく」
「ダナンさん?」
「ああ。ルーガ騎士団の中ではダナンが最もセージの扱いに長けており、魔法についても詳しい。キルマはディーカルとリキットの指導役としてダナンをつけるはずだ」
「そう言えば、ダナンさんはバルチョ様の中に再生神様がいた時も、なにか感じとっていたみたいだったねぇ。あの強い目力でセージも見分けられるのかな?」
「ダナンは目がいいからな。それに、セージを感じ取る力はより強い。これでキルマの報告の件は以上だ。もう一つは前提の話が長くなるが、眠気はないか?」
「うんっ、まだ目もぱっちりしてるよ!」
お子様な桃子は夜更かしがあまり出来ない。いつもお布団に入って少しすると、スヤァっと寝てしまうことが多いのだ。今日は特にミラが来てはしゃいだので身体がいつもより重く感じる。よく眠れそうだけど、バル様は桃子が眠くならないかを心配してくれたんだろうね。桃子が右手を上げて眠気がないことを伝えると、バル様は一度頷いて、再び口を開いた。




