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320、モモ、耳を傾ける~欲しいものを我慢するには強い心が必要です~前編

 今日も美味しそうな料理が広げられた食堂のテーブルで、お子様椅子に座った桃子は食べたことのない料理を前にしていた。オレンジっぽいスープの中をスプーンですくうと、白い豆と細かく切った玉ねぎと人参、それから柔らかいお肉が入っていた。栄養満点のようです! どきどきしながらぱくっと食いつくと口の中にじんわりとうま味が広がる。美味しさにおっこちそうになったほっぺたをちっちゃい左手で押さえて、桃子は隣に座るバル様に聞いてみる。


「なんて名前のスープかな? 初めて食べるけどほっとするような味で好き!」


「カフレだな。オレもこれは食べやすい」


「本当? 気が合ったねぇ」


 桃子はバル様と好みが一緒だったことの嬉しさと、料理のおいしさににこにこしながら食べ進めていると、隣に座るバル様もふと口元を緩めた。アスパラにお肉が巻かれてソースがかかったものを綺麗に切りわけて食べている。私も同じものを食べてるんだけど、こっちもすんごく美味しい。細くて柔らかいアスパラだから、食べやすいんだよねぇ。


 長い指が今度はフォークを使ってサラダの入った器に手を伸ばす。赤や黄色のパプリカが散りばめられたサラダが、バル様の口の中に消えていく。表情を変えずに食べているけど、美味しいって思ってるのかなぁ? じぃっと見ていると、口元にサラダをよそったフォークを差し出された。食べろってことだよね? でもこれって千奈っちゃんの持ってた少女漫画で見た、か、間接……っ!


「たくさん食べねば大きくなれないぞ?」


「バル様も知ってるよね!? もともとの私は大きい子だから──むぐっ」


「よく噛んで食べなさい」


 しゃべっていたら、隙をついて口に野菜が入ってきた。恥ずかしく思いながらもしゃもしゃと食べるしかない。プロの技だった! 目で笑うバル様は、もちろん本気で桃子が育つことを信じているわけではないだろう。だって、十六歳の私を知ってるからね。時々炸裂するバル様の意外な一面は、こうしていつも桃子の心臓を忙しくさせる。


 恥ずかしさと美味しさを味わいながら夕食を頂いたら、最後にふぅっと息をついてコップのお水を飲む。はぁ、お腹がいっぱい。レリーナさん達がお皿を片付けてくれるので、桃子も自分のお子様用のお皿を一緒に重ねて手渡ししてみる。小さなお手伝い! 


「はい、どーぞ!」


「ふふっ、ありがとうございます。モモ様、鐘七つが過ぎましたし湯あみの準備をいたしましょうか?」


「ちょっとお腹を休憩させたいから、もう少し後でもいいかな? 鐘一つ後にお願いしたいの」


「承知いたしました。ではその頃にお伺いいたしますね」


 レリーナさんが他のメイドさんと一緒にお皿を持って食堂を出ていくのを見ながら、桃子はバル様の手を借りてお子様椅子から床に下りた。


「バル様は今から予定ある? お仕事をするなら、私は邪魔にならないように自分のお部屋に戻っておくよ」


「仕事は持ち帰っていない。しかし、昼間にキルマからある報告がされてな。その件でモモに協力してほしいことが出来た。……話の続きは書斎でしよう」


 バル様は片付けるメイドさん達に一瞬視線を向けて、そう告げる。たぶんあんまりこの場では話してはいけないことなのかも。昼間、バル様がミラのお父さんであるダレジャさんからの手紙を魔法で燃やした時もそう言ってたよね。それに気づくと、途端に心配になってくる。そんな桃子の頭を撫でてバル様がうっすらと微笑む。


「モモが心配するような大ごとではない」


「……ダレジャさんからのお手紙も?」


「ああ。ミラがいたからあの場では燃やしたが、モモだけならばそうはしなかった。……そうだな。この国で昔起こったことをモモも知っておくべきかもしれない。そちらも搔い摘んで話そう」


 桃子が頷くと、バル様が廊下へと手招きながら足を進める。一緒に食堂を出て二階に続く階段の前までくると、バル様は普通の階段に、桃子はお子様用の階段に足をかけた。顔がにへっと緩んでしまう。段差が少ない階段を上るだけで楽しくなっちゃうんだよねぇ。だって、こんなにトントンと上れるんだよ? バル様がお仕事に行ってて、廊下に人がいない時にね、こっそり階段を上ったり下ったりしてたのは内緒の話なの。


 桃子が階段を上りたがるのでお屋敷の中での抱っこ率がちょっぴり下がっていたりするのだ。そうして一番上までたどりつくと、心の中の五歳児も満足したようで自然とつられてにこにこしちゃう。バル様は本がたくさんある書斎のドアを開くと先に入って、ドアを広く開けてくれた。桃子は失礼しますって心の中で呟いて中に入れてもらう。

 

 桃子はバル様に抱っこでソファに上げてもらうと、向かい合って腰を落ち着ける。何度かお邪魔しているから慣れた場所だけど、一つだけ前と違う場所がある。それはテーブルの上の物であった。


 おしゃれなひし形の敷物が敷かれて、その上に丸っこいのを両手でつぶして上からぎゅっと押さえた形の透明の瓶が置かれているのだ。その中には小さな水色の花と大きな黄色の花のドライフラワーが入っている。小さな花は桃子がお庭の花壇で咲かせた花だ。名前をアリールナというらしく、ささやかな安らぎという意味を持つ花なのだとカイが教えてくれた。カイのお姉さんが好きだった花なんだって。


 桃子は花束には出来なかったけど咲いたささやかな花をバル様にあげたのだ。そうしたら、バル様がこのまま枯れてしまうのは惜しいといってくれたから、カイにもらった幸福の花と一緒にドライフラワーにすることを提案してこの形に落ち着いたのである。






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― 新着の感想 ―
[良い点] > プロの技だった! 相手の協力無しに「あ~ん!」を成功させるとは!! 息ピッタリの御二人様ですね♪ ...さすが、侮れません(笑) [一言] いよいよ次回急展開!?(当社予想) …
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