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318、キルマージ、駆けつける 前編

*キルマージ視点

 桃子達がお茶会をする少し前、ルーガ騎士団本部の師団長執務室では書類仕事を片付けるキルマージとカイの上に平和な時間が流れていた。日の差し込む執務室は温かく、バルクライがいない執務机を明るく照らしている。その上にほとんど書類がないことに、ふと笑みが浮かんだ。本当に仕事の出来る方でありがたいことですね。


 今日の休みを見越して、バルクライは前日の内に仕事を多めに終わらせてくれていたのだ。そのため、現在のキルマージとカイには余裕があった。キルマージは副師団長の自分がさぼるわけにはいかないと、気を取り直して書類に不備がないかを確認する。すると、正面に座っていたカイが椅子を離れた。


 書類をトントンと調えて、バルクライの執務机に提出しているようだ。一仕事終えたのだろう。カイが大きく伸びをしながらキルマージを振り返る。


「あー疲れた! キルマ、そろそろ一息つかないか?」


「いいですよ。これだけ書き上げたら身体を動かしに行きましょうか。一試合いかがですか?」


「いいな。三本勝負といくか。負けたら……そうだなぁ、モモが今度料理を作ってくるから、屋敷に向かう時のみやげ代を持つってことでどうだい?」


「そんなことでいいのなら構いませんとも。バルクライ様にはいつも食事をご馳走していただいていますし、あの方にもなにか贈らせていただきましょう」


「なにがいいかな、迷うとこだね。定番の酒ってのもいいけど、ちょっと外したいよなぁ。そういえば、バルクライ様は今頃どうしていらっしゃると思う? 今日はあの公爵令嬢のお姫様を屋敷に呼ぶことになっていたよな?」


「そういえば、この間バルクライ様が話していましたね」


 モモの様子を聞いた時に話題に出されたのだ。バルクライは難しそうな表情で、あの年頃の少女をもてなすにはどのようにすればいいだろうか? などと妹がいるキルマに聞いてきたのである。子供が苦手なバルクライだが、モモの友人としてミラを認識しているようだ。キルマは無難に、ティーセットとモモがいれば大丈夫ですよと答えておいた。小さな少女の目的は好意を持つバルクライと同じ時間を過ごすことだからだ。


「モモはきっとご機嫌だな……オレも混ざりたかったよ。なぁ、キルマ、執務室で肩が凝る仕事ばかりしてるオレ達にも女性っていう潤いは必要だと思うんだ」


「真剣な顔でふざけたことを言わないでくれますか? 休憩時間といえど職務中ですよ。私達には休憩を兼ねて男同士でむなしいお茶会をすることしか選択肢はありません」


「ないのか。そこは副団長命令で作ってくれてもいいんだよ?」


「必要ないので作りません」


「だよな。そう言うと思った。仕方がないから、今日もむさくるしいお茶会で我慢するよ」


「そうしてください」


 最後の書類を書きながらカイのぼやきにキルマが突っ込んだ時、ドォォォォンッ!! という衝撃音が響いた。ルーガ騎士団本部を揺るがすほどの衝撃音と振動に、キルマージとカイは席の背後に立てかけていた剣に手をかけて即座に立ち上がる。


「なにごとです!?」


「敵襲かもしれない。キルマ、オレが先行するからお前は距離を取って後ろについて来てくれ」


「わかりました。もしもの時は外へ誘い出しましょう」


「それがいいだろうな。ただ、お前は戦闘には加わらないでくれ。団員に指示する人間と団長に知らせる人間が必要だ」


「でしたら、あなたも無理な戦闘は避けてください。もし再び奴が現れたのであれば……いえ、今はそれを考えている場合ではありません。行きましょう、カイ!」


「了解、副団長!」


 カイとキルマが執務室を飛び出そうとしたまさに時、ノックもなく三人の団員が駆け込んできた。団員は見るからに慌てた様子で訴えてくる。


「大変なんっす! いちだいじって奴ですよ!」


「ディーカル隊長とリキット副隊長が!!」


「敵と交戦中か!?」


「えっ!? そっちじゃないっすよ! とにかく副団長もカイさんも一緒に来てください!」


 必死に乞われたキルマージとカイは顔を見合せる。敵襲でないのであれば緊急性は格段に下がるはずだ。それが、これほど必死になるとは……まさか。


 キルマージはある予想をして、引き攣った顔で額を押さえた。


「ディーカルはともかくリキットは真面目な子ですし、隊長、副隊長という役職にありながら、執務室で子供のように派手な喧嘩をしているのではないですよね?」





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