305、モモ、待ち合わせる~素敵な風習は幸せを運んでくれる~
桃子達は、カイとの待ち合わせ場所にしたケーキ屋さんの前で、きょろきょろと三人の姿を探していた。ここは前に桃子がカイに御馳走になったお店だ。絶品のケーキの味を思い浮かべていると、先に待ち合わせ場所に来ていた三人にバル様が近づく。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「いや、オレ達も来たばかりで……えっ、バルクライ様!?」
「おやまぁ、一瞬どなたかと思いましたよ。珍しいお姿ですね。ああ、もしや意識してそのような格好をなさっておいでですか?」
驚いた顔をしたのはお洒落な格好をしたカイとキルマだった。二人とも今日は私服だけど、しっかり帯剣してる。
カイは髪をうなじでしばって、赤いシャツに黒のジャケットと黒いズボンをはいている。ホストなお兄さんの雰囲気が増しているよ!
キルマは膝丈まで長さがある白い上着と淡い色の青いズボン。中性的な服装が似合うね。儚い美貌が輝いちゃってる。
「ああ、このような服は着たことがないからな。印象にない格好ならば、ひと目でオレとはわからないだろう」
「私も一緒に変装中なの」
「モモは可愛く変装したね。服を選んだのは、レリーナ達かな? モモの魅力をよくわかって選んでるね。そのキャスケットにこれを足すと……ほら、これでもっと可愛くなったよ」
カイがカーネーションのような黄色い花を桃子のキャスケットの上につけてくれる。どうかなぁ、変じゃない? お花をもらった桃子は笑顔でバル様を振り返る。
「表情が明るく見えるな。──これは幸福の花か?」
「そうです。さっき、キルマと一緒に手に入れたんですよ」
カイとバル様の会話の中に初めて聞く言葉を見つけて、桃子はぱちりと瞬いた。
「幸福の花? それがこのお花の名前?」
「いや、その花はユートピュラっていう花なんだ。幸福の花っていうのは、さっきドラゴンに乗った騎士が空から花を降らせていた花全体のことを指すんだよ。あの花を上手に受け止められた人には幸福が訪れると言われているんだ」
カイの説明を聞いて桃子は耳元の花に指先を触れる。だからみんな、空から降ってくる花に笑顔で手を伸ばしていたんだね。縁起のいいお花ってことかな。
にこにこしている桃子に、バル様がさらにいいことを教えてくれる。
「その花を大事な相手に贈ることで、相手の幸福を祈るという意味もある」
「そうなの? 素敵な風習だねぇ。──ありがとう。カイのおかげで、もう幸せになれちゃった」
可愛いお花を装備したから、これで女子力もアップしたよ! よしっ、今日の内緒の目標は決まったね。春祭りでバル様をメロメロに……ううん、それはちょっと欲張り過ぎだから、ちょっぴりどきっとさせちゃおう! 頑張るぞ!
心の中の五歳児が小さな目標を旗印のように掲げていると、カイがホストな色気を纏って柔らかく笑った。
「花のように小さな幸せで満足しちゃうの? モモはもっと欲張りになるべきだね。──せっかくだから、レリーナもつけないかい? モモと色違いがあるよ。ほら、リジーもつけてるんだ」
「カイが三つも取ってくれたの?」
桃子の頭の中では、軽やかに飛んだ忍者のようなカイが、シュバッと空中で花をキャッチしている姿が浮かんでいた。カイなら出来る気がする。
「いや、リジーの分はこいつが取ったんだよ。なっ、キルマ?」
「私は別に、頼んだわけじゃないし……」
「たまたま手元に落ちて来たので、あげただけです。私が持っていても仕方ありませんしね」
もごもごと否定するリジーの耳元にも青い花が咲いている。キルマは澄まし顔をしてるけど、きっとリジーの為に取ってあげたんだろうねぇ。リジーももっと仲良くしたいって言ってたし、これなら上手くいきそうだね?
「みんなでお揃いだねぇ」
「うふふっ、嬉しゅうございます」
「レリーナさん、すげぇ綺麗だ……」
花を受け取ったレリーナさんは、右耳の上にそっとピンクの花をつけた。その美しさにポワーッと見惚れたジャックさんが呟く。美人さん+可愛さ=ジャックさんの赤面、である。この方程式はテストに出ますか? 桃子の問いかけに頭の中でタヌキの先生が両手で丸を作った。恋愛テストなんてものがあったら、出るかもしれない。ジャックさんは首まで赤くなってる。思わず本音が漏れちゃったんだろうね。
「あの、バルクライ様、今日は私まで仲間にいれてくださってありがとうございます」
微笑ましい片想いに笑顔になっていると、リジーがキルマの後ろからずずいと緊張した面持ちで前に出てきた。春祭りだからか、リジーの服はおへそが見えそうな淡い黄色のキャミソールとその上に薄い上着を重ねて着ていて、下は茶色の短パンに黒いタイツとブーツという可愛いものだった。たくさん動けそうな格好だねぇ。
声をかけられたバル様は、リジーの様子を見てどこか不思議そうに答える。
「オレに礼を言う必要ないが、せっかくの春祭りだ。楽しむといい」
「はっ、はいっ!」
声が裏返りそうになりながら、リジーまで顔を赤くしている。バル様は美形さんだから、女の子がこの反応になっちゃうのも仕方ないよねぇ。前とはどきどきの種類は違うかもしれないけど、私もバル様と話してると時々顔が熱くなっちゃうもん。
「さて、どこから回りましょう? モモ、行きたいところはありますか?」
「掘り出し物を探したいの」
「でしたら露店ですね。途中で気になるお店があったら誰でもおっしゃってください。──このような形でよろしいですか、バルクライ様?」
「露店や商店について、オレはよく知らないからな。今日はお前達に任せていいか?」
バル様が周囲を見回す。春祭り初体験の桃子とこれまで興味がなかったらしいバル様以外なら、きっとお店についても詳しいはずだ。
「ええ、喜んでお引き受けいたしますよ。では、さっそく向かいましょうか。露店市場は中央広場から裏路地まで陣取っています。人ごみの中の移動ですからはぐれないように気をつけてください」
「ほらリジー、キルマと手をつながなくていいのか?」
「ちょっと、私は子供じゃないんだから!」
「いてっ、冗談だよ。──だけど、モモはしっかりバルクライ様にしがみついているんだぞ?」
リジーに背中をベシッと拳で叩かれたカイが痛がりながら笑うという器用な表情をして、桃子に念を押す。
「うん、了解なの!」
桃子はそう返事を返すと、バル様の手の代わりに胸元の服を確認するように、きゅっと握らせてもらう。こちらの準備はOKです! にこーと見上げると、バル様が目で笑った。
「安心していい。モモの手が緩んでもオレが放さない」
ううっ、私の方がどきどきさせられちゃいそう。顔を熱くした桃子は恥ずかしくなってバル様の胸元に額を埋めた。




