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295、モモ、親しむ~レベルはひよこだけど、お尻の殻は取れたはず~中編その二

 紫と白を基調とした壁に金の華が咲いてる。お高そうな気品漂う賓客室の中、テーブルを囲う面々に加わった桃子は、バル様の隣にお子様椅子に腰かけながらも、お尻がもぞもぞ落ち着かない気分でいた。同じ気分を味わっているのは、カメリアだろう。王妃様に椅子をすすめられてものすごく恐縮してたもんね!


 全員が腰を下ろすと、王様が周囲を見回して口を開く。


「先に今日の審判について、この場にいる者達を労おう。中でも証言者として立った侍女カメリアと、真の首謀者を見つけ出し、王の裁きを正当なものにした加護者モモの功績は大きい。よって、それぞれに褒美を与える」


 ご褒美ですと!? 桃子は耳をぴくっと反応させた。バル様の贈り物を体験した身としては、心構えが必要な気がする。ひとまず、お菓子を欲しがる手をグーの形で握っておく。


「父上、侍女カメリアの処遇についてご相談があります。彼女はアニタの侍女でしたので、現在は立場が浮いているのです。彼女は審判の場で証言したことで一部の貴族から厳しい目を向けられることになりかねません。ですから、身を守るために、出来れば義母上様の侍女としてつけていただきたいのです」


「相分かった。お前の意志はどうだ、ナイル?」


「気骨のある女子は好きだからな、構わん。私が引き受けよう。──チェニカ!」


「はい、王妃様」


 王妃様に呼びかけられたのは部屋の隅に控えていた年配の女性だ。見たことあるね! たぶん王妃様の侍女頭なんじゃないかな? 侍女のお姉さんの中で一番綺麗な動作をしていたもんねぇ。チェニカさんはしずしずとこちらに近づいてくると、王妃様の前で頭を下げる。


「お前にこの子の教育を頼みたい。立派な侍女に育ててやれ」


「かしこまりました。──さぁカメリア、こちらにいらっしゃい。本日より王妃様の侍女として学んでもらいますよ」


「あ、ありがとうございます、王妃様! ──それから、あの、モモ様、またお会い出来た時は、私から声をおかけしてもいいですか……?」


「そうしてくれたら嬉しいよ! あ、でも加護者らしくない私のことは他の人には内緒にしておいてね?」


「はいっ。それでは皆様、失礼いたします」


 カメリアは一礼すると、年配の侍女と一緒に退出していった。これから王妃様の侍女としていろいろと教えてもらうんだろうね。王妃様が味方になってくれるなら百人力だよねぇ。これで意地悪貴族からもカメリアを守れるはず! 


「──さて、ここからが本題ぞ」


 王様がすぅっと目を細めた。空気がぐっと重くなる。カメリアを退席させたのは、聞かれたくない話をする為だったようだ。桃子は冷や汗が出そうな気分で、そっと息をひそめる。なにを言われるのかな!? 審判とは違う緊張感に、心がぎゅっと縮んじゃいそう。


「バルクライ、私に報告を遅らせたのはお前の判断だな?」


「そうです。本来なら、すぐにでも父上にご報告するべき事案でした。ですが、万が一にも外に漏れては、ルディアナを追いつめることもカメリアの身の安全を守ることも難しいと判断し、オレがそうするようにとユノスに指示しました」


「ですがっ、バルクライ殿下に従うと決めたのは私自身です。規律違反の罰則は私自身がお受けいたします!」


 頭を下げたまま冷静に当時の状況を説明するバル様を見て、ユノスさんが自分の責任を訴える。桃子も二人の味方になりたくて、腰を上げようとした。けれど、バル様の目に止められた。座っていなさいと言ってる気がする。大丈夫? 本当に大丈夫? そんな風にハラハラしながら座り直すと、バル様は慌てず騒がず口を開いて、びっくりするようなことを言い出した。


「その必要はない。オレもお前も規律違反など犯してはいないのだからな」


「し、しかし、私は報告義務を破り……」


「……ふん。なるほど、よく考えたものよな」


 バル様の断言に、ユノスさんは困惑している。けれど、王様だけは違ったようだ。纏う空気がふっと軽くなり、さっきとは打って変わって満足そうに目を細めている。これはもしかして、バル様のことを試していたのかな? でも一体どうなってるんだろう? さっぱり状況が理解出来ていない桃子は首を傾げるしかない。それは王妃様も一緒だったようで不満そうに腕を組んでいる。どうも理解しているのはバル様と王様だけのようだ。桃子は恐る恐る右手をちょこっと上げてみる。


「あの、バル様、規律違反を犯してないってどういうこと?」


「お前達だけで完結していないで、私達にもわかるように説明してくれ」


「わかりました。ならば、状況をもう一度説明しましょう。オレがユノスに命じたのは報告を遅らせる(・・・・)ことだけです。実際にその報告は審判の間で父上に伝えられました。それは義母上も御覧になられたはず。大事なのは遅れただけであることです。ルーガ騎士団もリグファン親衛隊も王に対する規律は同じです。王に報告義務がある場合、報告をしないことは罰則対象ですが、それが遅れただけならば規律違反には当たらない。──ジオス将軍、そうだろう?」


「その通りです。よくお気づきになられましたね」


「あの場で考え得る最善の方法だ」


「おおっ、わしにもようやく話の筋が飲み込めましたぞ。これはバルクライ殿下の采配が当たりましたな。そういうことならば、その者は罰則を受ける対象ではない」


「そうなりますね。──こちらも助かりました。規律は守るべきものです。ですが、このことでバルクライ殿下が罰則を受けることとなれば、おそらくルーガ騎士団とリグファン親衛隊の間にさらなる深い溝を作ることとなったでしょう。私達もそれは避けたいところでしたから」


「とはいえ、法の穴を突く方法だ。けして褒められることではないな」


 称賛を向けられても、バル様は淡々と答えるばかりだ。たぶんこの方法を使うことは本意ではなかったんだろうね。


「お前がそれをわかっているのならばよい。バルクライが掴んだ証拠は、審判を行う上で重要な物であった。故に、王に報告する義務は生じる。だが実際お前の判断があったからこそ、首謀者をあぶり出せたのもまた事実。規律内で行ったことならば、私は咎めはせぬ。だが、二度は使えぬぞ?」


「はい、わかっております」


 よかったよぅ。バル様の機転で誰も罰を受けずに済んだみたい。それにしても、王様を見ているとすごいなぁって思う。だって、公平さを保つのって心が強くないと難しいことだよね? 私が王様だったら、きっとなんとかしてみんなを許したくなっちゃうもん。






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