290、モモ、審判に挑む~優しくない真実も、誰かの救いになってほしい~中編その二
ユノスさんは王様の前に立つと、胸元に手を当てて片膝をつく。
「騎士のユノス・ガーディと申します。陛下に重大なご報告があり、この場に参じました」
「申してみよ」
「はっ。アニタ様が精神的に不安定になられた背景には、第三者の策略があります。アニタ様の侍女頭がある者と密会している姿をこの娘が目撃しておりました。ですから、この場でこの者が証言に立つご許可をいただきたく存じます」
ユノスさんが発言と共に身体をずらして、背後に不安そうに佇む少女──カメリアを前に立たせた。背後で大きなざわめきが起こる。急展開した事態に驚いたのは桃子だけではなかった。伯爵や側室達も狼狽しており、特に集められた貴族のおじさん達のざわめきが広がっていく。
「いったい誰が……?」
「まさかこれで、側室方の誰かが関わっているとなれば一大事ぞ!」
「陛下のお怒りはいかばかりか」
不穏なざわめきは、王様がタンッと椅子の肘置きを叩いた途端にぴたりと静まる。王様はその場の空気をいつも簡単につかみ取ると、自分に集まる視線をないものとするかのように、判断を下す。
「発言を認めよう。──そこの者、証言に立て。己の立場を明らかにし、偽りなく見聞きしたものを申してみよ」
「は、はい……わたくしは、アニタ様の侍女のカメリアです。わたくしが目撃したのは、人気のない後宮のお庭の奥でルディアナ様がニスカ様にお金を渡している姿です。ルディアナ様はその時、アニタ様に亡くなった王子のことを思い出させてやれとおっしゃっていました。そして、王子様を害したのは王妃様達であるかのように囁くようご命令なさっていました」
「ま、まさか、ルディアナ様がそのようなことをっ!?」
あまりの事実に、伯爵も額に冷や汗を浮かべて愕然としている。予想外な事実にも動じていないのか、王様は静かに事実確認を重ねる。
「アニタよ、今の証言に覚えはあるか?」
「……確かに、侍女頭のニスカと王子の思い出を語り合いましたし、あの者に王子の死に疑問を感じると言われた覚えもございます。加護者様とその女がお会いになられていると教えてくれたのも、ニスカでした。ですが、あの者はずっとわたくしに仕えてくれた侍女でしたのに……」
信頼していた侍女頭の裏切りにショックを受けたのか、アニタ様は青白い顔色をさらに悪くしてぽつりと答える。その証言に、猛反論したのは、烈火の如く怒り出したルディアナ様であった。
「まさか、陛下、加護者様の首を絞めた側室とその侍女ごとき小娘の言葉を鵜呑みになさるのですか? そんな価値がどこにありましょう。──娘、お前覚悟は出来ているのでしょうね!? お前のような弱小貴族の家柄の者が、陛下の側室たるあたくしを謀ろうとは身の程知らずなこと。必ずお前の家を取り潰し、お前の一族もろとも八つ裂きにしてくれる!」
「黙れ、ルディアナ」
「誰を信じるべきかよくお考えください、陛下! この誇り高いあたくしがそのようなことをするはずがないではありませんか!」
「黙らぬか! その娘もまた私の国に生きる民である。側室のそなたに歯向かうことがなにを意味するかわからぬはずもない。しかし、それでも覚悟を持ち、この場に立ったその意味こそ考える価値がある」
王様が低く一喝すると、ルディアナ様が真っ赤な唇を噛んで口を噤む。恐ろしい目が怒りに燃えて、カメリアを睨んでいる。その視線から守るように王妃様が、少女を労わる。
「よくぞ勇気を出して証言してくれたな。他にお前が知ることはあるか? あるのなら、全て話してしまえ」
「……わたくしも、罪を犯しています。ニスカ様に命じられて、加護者様の鉢をわざと壊しました。アニタ様が加護者様と接触するために必要だと言われ、言うことを聞かねば、家族を……っ」
「脅されたか」
カメリアが泣きながら深く頭を下げる。可哀想で胸が痛む。策略に関わったことは罪となるのだろうけど、そんな風に命じられちゃったら、仕える立場としたら逆らいにくいよね。あの時、ユノスさんが心配していたことは見事に的中していたのだ。カメリアがあんなに申し訳なさそうにしていたのは、ずっと心苦しく思っていたからかな?
「アニタ様の侍女頭もすでに拘束してあります。ルディアナ様、証言はすぐにでも取れる。悪あがきはおやめになることです。あなた様はもう逃げられませんよ」
「く……っ」
ユノスさんが重々しく断言すると、ルディアナ様が観念したようにうなだれた。これで、真実は明らかになったのかな? 桃子はその人を見て、考える。これはほとんど勘のようなもので、ユノスさんが示してくれたみたいに、証拠と言えるものは一切ない。けれど、やっぱり心に引っかかったことを見過ごせなくて、桃子はこの場で初めて自分から口を開いた。
「王様、私からルディアナ様にお聞きしたいことがあります。いいですか?」
その発言に再び桃子に視線が集まる。ううっ、そんなに見つめられちゃうと緊張が爆発しそうっ! 王様は桃子をじっと見て、ゆっくりと瞬いた。今の間は考えていたのかなぁ? 一瞬だったから、頭の回転が速いよねぇ。
「許そう。──加護者の質問に偽りなく答えよ」
「……これ以上、なにが知りたいというのよ」
「あなたはアニタ様を側室の座から蹴落とすために、私を害させた。自分の手を汚さず、遠まわしな策を凝らして。だが、その策を練ったのはいつだ?」
「くだらないことを聞くわね? 策を考えたのはあなたが来る前。マデリンが幼い加護者が来ることでアニタが不安定になるのではと心配していたから、それを逆に利用してやろうと思ったのよ」
その証言にはっとしたのは、桃子だけではなかった。バル様が一瞬呼吸を乱し、王様の表情が目に見えて険しくなる。二人も証言の中に隠された矛盾に気づいたのだ。桃子はゆっくりと繰り返す。
「間違いなく、私が城に滞在する前なのだな?」
「いまさら偽ってなんになるというの?」
「今の話で証明が出来る。この策を使ったのはあなたではない。騒動の裏で全てを操っていたのは──王様の第二側室であるマデリン様、あなただ!」
桃子はその人─マデリン様を真っすぐに見据えた。




