283、モモ、その願いを知る~優しい未来はひとりじゃなくてみんなで手に入れよう~中編その二
「ルイスさんのこと、信じるよ!」
「ありがとな、モモちゃん。──さて、こっちの警備は手筈通りか?」
「はい、ぬかりなく。こちらの神官を至る場所に配置しています」
「そこまでしてくれたの!?」
なんだか重要人物扱いされてるけど、その相手が自分なことに申し訳なさが顔を出す。だって外見五歳児、中身十六歳の普通な女の子だよ?
字は練習の甲斐あってミミズが痙攣することは減ったけど、相変わらず下手から片足だけ脱出した程度の上達振りしかしていないし、毎日楽しいことを探すように生きちゃってるから、精神面では五歳児との引っ張りっこが激しいの。そのうえ、最近はバル様に対して想うことが増えちゃって頭の中が花吹雪になってることもあるんだよ? 自分を見つめ返した桃子は、心の中で反省する。私の実態と肩書のギャップがますますすんごいことになっちゃってるよねぇ。
「モモ様を守るためには、過ぎるということはありません。ルイスさんのお心遣いに専属護衛である我々も少しばかり安堵いたしました」
レリーナさんがにっこりと微笑んだ。だけど、その目が笑っていない。言葉はお礼を伝えているけれど、ちくちくした棘が感じられる。なんか怒っちゃってる? それは、桃子の気のせいではなかったようだ。ルイスさんが頭を掻きながら気まずそうに苦笑した。
「悪いな、お嬢さん。無駄に警戒させたくなくて最初にあえて行き先を告げなかったんだ。守りは万全にしたから、許してくれ」
「あら、私は少しも怒ってなんていませんよ?」
「と、お嬢さんは言ってるが、お前はどう思う、ジャック?」
「そりゃ怒るよ。レリーナさんはモモちゃんのことを大事に思ってるんだからさ。これはオレだってどうかと思うぜ」
「本当に悪かったと思ってる。だが、正直に伝えたところでお前さん達は素直について来てくれたかい?」
「いいえ、警戒したと思います」
「まぁな、確かにそうしただろうけどさ……」
「うんっ、おいちゃんについて行ったと思う!」
……あれぇ? 意見が分かれたねぇ? 桃子は目を剥く二人を不思議な気持ちで見上げた。心の準備は必要だったと思うけど、ルイスさんが大丈夫って言うならどっちにしてもついて行っちゃった気がする。心配したジャックさん達には逆に桃子の方が止められていたかもしれない。
「モ、モモ様、いいお返事ですがそれはいけません!」
「そこは素直について行っちゃダメなとこだろ!?」
「ははははっ、そうか! 最初から、モモちゃんに正直に頼めばよかったんだな」
レリーナさんとジャックさんに真剣に詰め寄られた桃子は、驚き顔で目をぱちくりさせた。そんな三人の様子を見て、ルイスさんが大笑いしている。そして、わしわしと頭を撫でられた。
笑われちゃったけど、重い空気が消えたから、よかったぁ! 神殿は怖い所って印象が強くて緊張するんだもん。シリアスされちゃうと余計に落ち着かないよぅ。せめて、ルイスさんやレリーナさん達とは軽い空気でお話しをしたいの。
「見ろよ、モモちゃん。このおっさんまったく反省してないぞ?」
「そんなことないさ。お前が思うよりよっぽど反省してる。モモちゃんに騙しうちじみた真似をしちまったことをな。──ごめんな、こんなおいちゃんを許してくれるかい?」
両膝に両手をついて視線を近付けてくれるルイスさんは、心底すまなそうな顔をしていた。目には力が戻り、後ろぐらいことがない人の目をしている。桃子はのんびりと頷く。
「いいよー」
「返事が軽いな!? そんなにあっさり許しちゃっていいの?」
「いいの! おいちゃんには、そうまでして私をここに連れてきたい事情があるんだよね? なんの理由もなくそういうことをする人じゃないって知ってるもん。だから、もういいよ。それに、実際は騙されたわけじゃないからね」
にぱっと笑う桃子に、今度はレリーナさんとジャックさんが驚いたように身を乗り出してきた。
「モモ様、それはいったいどういうことですか?」
「いや、だって、ルイスさんは自分が騙したことを認めているんだぜ?」
「違うよ。おいちゃんは、私を連れて行く先が神殿だってことを言わなかっただけ。言わないだけなら、嘘にはならないよね?」
「あっ! 言われてみれば、確かにそうだ」
「ね? だから、おいちゃんは嘘をついてないの。それに、私もびっくりはしたけど怒ってないから、このお話はお終いにしよう。はいっ、仲直りの握手!」
おいちゃんの右手を両手で捕まえて、上下に振る。喧嘩してたわけじゃないから、これでいいよね?
「モモちゃん……」
「おいちゃんがどうして神殿に来たのか、教えてくれるよね?」
「ああ、オレの頼みも含めて、全部教えるよ。──長い話になる。中で話そうか」
くしゃりと表情を歪めたルイスさんが、震えた喉元に心を落とし込むように僅かに間を置いて、口を開いた。固い声には強い気持ちを感じる。ついておいでと促されて、桃子は大きな背中を追いかけていく。
神殿敷地内にいながら警備のためかぽつぽつと立っている神官服のお兄さんやお姉さんが桃子達に頭を下げてくれる。加護者として頭を下げてはいけないので、目でお礼を伝えておく。ありがとう、ご苦労様です! そうやって辿りついた先は、大きな扉に守られた建物だった。円形の建物は見慣れないものだけど、おそらくは神聖な場所だろう。扉の前にはタオがおり、桃子達を見つけると駆け寄ってくる。




