274、モモ、驚き返しを計画する~お子様には協力者と準備とタイミングが重要だよ~前編
ドレスからお子様スカートに着替えた桃子は、夕方になるまでバル様にくっついて回らせてもらっていた。おかげで、お子様心もひっじょーに満足している。離れていた間のお話をたくさん出来たことも大きい理由かな?
桃子はお城ですんごいお世話になったユノスさんのことや、優しくしてくれた王妃様達のこと、それに魔法の使い方を教えてくれたパーカーさんのことを、バル様にしっかりと伝えた。パーカーさんが桃子が作った折り鶴の件で、いずれ訪ねてくるかもしれないってことも。まだまだ話したいことがいっぱいある。でも、今日からはまた一緒だもん! ちょっとずつ話していけばいいよね? それに、まだ言ってないこともあるけど、それは……もうちょっとだけ秘密にしとくの!
今はバル様がお手紙の返事を書いてるのを邪魔しないように、レリーナさんが持ち込んでくれた丸テーブルで、ジャムを溶かした紅茶をいただいているところである。膝の上のバルチョ様も桃子の体温がうつってぽかぽかしている。トーマがくれたジャムはさっぱりしていて紅茶にとっても合うの! これは人におすすめしたい一品だよ。美味しいマフィンがますます美味しく食べられちゃったもん。
紅茶の減ったカップを置いて、バルチョ様の頭を撫でる。いい肌触りです! 心なしか、バルチョ様のお顔も満足そうだ。どうでしょう? 上手になでなで出来てますか? ああ、いい感じだ。バルチョ様なでなで試験三級に合格! 一級になったらプロフェッショナルを名乗る権利も手に入るかも。そんな風に遊んでいると、ぎしりと椅子が軋む音がした。ぱっと顔を上げれば、バル様が立ち上がったところだった。
お手紙を書き終わったの? もうくっついてもいい? いいかなっ? 心が跳ねてしまう。バル様の様子を窺っていると、こちらに来てくれる。バルチョ様を自分の膝に乗せてお行儀よく待っていると、隣に座ったバル様にひょいっと抱き上げられてお膝に乗せられる。これぞ、お子様必殺技、三段団子ならぬ、三段お膝!
バル様のお膝には桃子が、その桃子のお膝にはバルチョ様がいる。きっと傍からみたら面白い光景になってるね! レリーナさんかジャックさんが通りかかってくれないかなぁ? 見てほしいの。そんな思いからドアをちらっと見ていたら、バル様の声が頭に落ちてきた。
「……気になっていたんだが、その人形はどうした?」
「レリーナさん達が作ってくれたんだよ。バル様と似てるでしょ?」
「オレはここまで柔らかくはないが……?」
ふよふよとバルチョ様のお腹をつつきながら、バル様が無表情に首を傾げる。冗談とも本気ともとれない仕草に、桃子は笑う。
「柔らかさじゃなくて、表情とか髪の方なの。ジュノ様も似てるって言ってたんだよ? だから、この子の名前をつける時にバル様からちょっと名前を分けてもらっちゃった」
「どんな名前にしたんだ?」
「えっとね……バルチョ様! バル様がいなかった間はバルチョ様が一緒にいてくれたから、寂しい時も我慢できてたの」
名前の理由を話すことにはちょっぴり照れちゃったけど、桃子はバル様にバルチョ様を差し出した。二人が見つめ合っている。バル様の落ち着いた瞳と、バルチョ様の円らな瞳が見つめ合っている。あの、もしかして視線だけでおしゃべりしてたりする? 不思議で面白い光景に桃子はにこにこしてしまう。保護者様が一緒の嬉しさにやっぱり浮かれちゃってるねぇ。
「──オレがいない間はお前もモモを守ってくれていたようだな。礼を言おう」
バル様がバルチョ様にそんな言葉をかけた。気にするな。これからはオレも仲間だ、ってバルチョ様が見上げてる。桃子は五歳児の悪戯心をくすぐられて、バルチョ様のもふもふの小さな手を、バル様に差し出した。握手を求める仕草に、バル様が応じてくれる。おおっ、ここに新たな友情が誕生したよ! 心がおおいに盛り上がっていると、バル様は握手したまま桃子の手からひょいっとバルチョ様を抜き取ってしまう。突然のことにびっくりしていると、バル様はバルチョ様をベッドまで運んで枕元に座らせた。
「今はオレがいるからな。バルチョにはベッドの守りを任せたい。モモ、それでもいいか?」
「うんっ、いいよ。バルチョ様にはずっと付き合ってもらってたから、休憩しててもらうね。ところでバル様、そろそろキルマとカイが来る頃かな?」
桃子がそう聞いた時、バル様が窓に顔を向けた。なにかを感じ取ってるの? じっと探るように動きを止めていたバル様がゆっくりと桃子を振り返る。
「ちょうど来たようだ。一緒に出迎えに行くか?」
「行きたい!」
桃子は椅子から降りると、バル様の隣に立つ。抱っこするか? ってその目に聞かれた気がしたので、首を振ったら頷かれた。合ってたみたいだねぇ。私も日々成長しているってことかな? だといいなぁ。身長はちっとも伸びてないけどね!
二人は室内から廊下へと出ると、一階に向かうためにその場所にやってきた。足元にあるものを見て、桃子の中に軍神様バージョンが降臨する。うむ、余の階段があるぞ! 桃子はわくわくしながらそぅーっと右足を出した。下り階段、記念すべき一段目! ……ぺたっ。足がついた瞬間、嬉しくて笑顔が抑えられなかった。顔が輝いている自覚があるよ。




