264、バルクライ、答えを見つける 中編
「バル様?」
不思議そうに瞬くモモの無防備な様子に、バルクライはそっと息をつく。枷となる言葉はまだ伝える時ではない。彼女の好意がどの色をしているのかがわからない限りは、焦るべきではないだろう。脅えさせないようにゆっくりと距離をつめ、確実にこの手の中に捕まえるのだ。バルクライは心を定めると、モモに今の約束を求めた。
「誰かを助けるな、とは言わない。しかし、方法は選んでほしい。自分の身の安全をまず考えてくれ。それから、モモが直接動かなければいけないのかを、冷静に判断するんだ」
「……うん。ごめんなさい、バル様。自分の力だけで全部助けられるなんて思っていないの。私のちっちゃい手じゃ、そんなにたくさんのものは抱えられないもん。ジャックさんにも怒られたの。危険なことがわかっているなら、自分だけで判断しなければよかったんだよね? 今は一人ぼっちじゃないんだから、それが出来るんだもん」
「オレがこれ以上言う必要はないようだな」
「今度からはちゃんと相談するの!」
「それでいい」
モモの正直な気持ちから生まれる言葉は、いつもバルクライの中にするりと落ちてくる。嘘や華美な飾りのないそれは心地いいものだ。モモの丸い頭をゆるりと撫でていると、傍で気まずげな声をかけられた。
「あのよぉ、団長がチビスケを溺愛してるのはわかったが、どんなにしっかりして見えてもまだ五歳のガキだろ。もうちょい育つまでは手ぇ出すなよ?」
「…………ディーカル」
バルクライは懸念をぶちまける部下に声を低くする。……なぜ、オレの周りの人間はこうも同じ反応ばかりをするんだ? モモがびくりと反応しているが、この状況で頭を撫でるのは逆効果だろう。幼女趣味という烙印を押されかけているバルクライは、深々とため息をついた。
「馬鹿っ、不敬が過ぎるぞ、ディー!」
「わかってるさ。けど仮にもルーガ騎士団の団長様が、こんなにあからさまじゃあマズイだろ。お前等こそ間違いが起こらないようにしっかり見張っとけよ」
「だから、違うのですよ! ──団長、ディーカルには事情をご説明なさってはいかがですか? このまま勘違いさせておくのは非常に危険だと思います。今後の付き合いに支障が出そうですし……」
「──ディーカル、以前、この子は迷人であると言っただろう? モモは大神官が軍神ガデスの召喚を行おうとした際に巻き込まれてこちらに来た。そのため、このように幼女の姿となっているが、本来の年齢は十六歳だ」
「はぁ!? いやいやいや、ちょっと待て……って、ことはつまり」
「ええ。モモの意識は十六歳なのです。五歳の精神が混ざってはいますがモモがこれほど聞き分けよくいい子なのは、本来の年齢が理性となって働いているからなのですよ」
「やべぇ、混乱してきた。ようするに、チビスケだけどチビじゃねぇってことか?」
ディーカルは額を手で押さえて、見るからに頭が痛そうだ。理解しようとしている努力は見えるが、その理解の仕方があまりにも難解だ。問題をさらに難しくしている気がするが……?
バルクライと同じ疑問を抱いたのか、カイが首を振りながら苦笑する。
「難しく考えすぎだ。簡単にいうと、外見は見た通りに子供だけど、中身は女性なんだよ。まぁ、身体に引っ張られて子供らしい行動をしていることも多いけどね」
モモが執務机の上で身じろぎした。バルクライが抱き上げて下してやると、おずおずとディーカルに近づいて団服のズボンの裾を握りしめる。
「黙っててごめんなさい、ディー。今まで何度も助けてくれて本当にありがとう。ディーのことは頼りになるお兄さんみたいに思ってるんだけど……私のこと、き、嫌いになっちゃった……?」
そう尋ねるモモはよほど勇気を振り絞ったのか、泣くのを我慢した表情で震えている。天井を仰いで唸っていたディーカルはモモの様子に気づくと、目を丸くした。
「あ? そりゃあ混乱はするけどよ、言われてみりゃあ納得する部分もあるぜ。こんな小さな頭で大人の話も理解してるし、オレ達とだって意志の疎通が出来てただろ。賢いガキだとは思っちゃいたが、まさか中身が十六歳とはなぁ。ま、小さかろうが大きかろうが中身が一緒なら、細かいことは気にしねぇぜ。いや、むしろラッキーじゃねぇか? これでガキだって気にせずに書類整理を頼めるわ」
「うん! これからもお手伝いするね!」
ディーカルに受け入れられたことがよほど嬉しかったのか、モモは頬を紅潮させて笑顔で返事を返している。その様子に僅かな苛立ちを覚えたバルクライは、一呼吸でそれを打ち消すと表情を変えることなくキルマージに視線を送る。副団長はそれだけで察したようだ。今後の手伝いを頼もうとしているディーカルに冷えた微笑みを向けて釘を刺す。
「それは自分で処理なさい。──モモもこんな大雑把な男に気を使う必要はありませんよ。団長にもう一つのお話をしなければいけません。そちらの説明もお願い出来ますか?」
「うん。あの、私の説明だけだとどこか飛ばしちゃうかもしれないから、ディーにも補足をお願いしていい?」
「おう、任せろ」
ディーカルからの快い返事にモモは安心したのか、バルクライに向き直りながら口を開く。




