第六十三話 オークの真実
「皆様これまでずっと黙っていて申し訳ありませんでした。僕の名前はイベリッコ、皆様のおかげで本当に助かりました。改めてありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げる豚耳と豚鼻を備え持つ少年。
かなり流暢な人語を介し、口調も丁寧なものだ。
しかし、豚の耳と豚の鼻を有した獣人……それだけ聞く分には、つまりただのオークだろう? と思われそうなものだが。
だが布を取り去った彼は、やはり皆が驚くように他のオークとは風貌が明らかに違っていた。
何せ彼は、豚の耳と豚の鼻以外は見た目は人と変わらないのである。
その豚の鼻にしても他のオークのように前に突き出たようなものでもなく、人と同サイズぐらいの見ようによっては中々可愛らしいといえるようなものであり。
更にいえば、彼の見た目は中々整っており、はっきりといえば美少年の類に含まれるものであった。
これを見ては、ナガレとオーク以外の皆が驚くのも無理は無い。
「お、驚いたわね。人語を喋れるだけでも凄いのに、この見た目……ほとんど人間じゃない」
「う、うむ、妾も驚きだ。いや、と言うよりはこれはオークとは別の種族ではないか?」
「いえ、彼はオークですよ」
「は、はい僕もそれは理解してます。育ての親は暫くは隠してましたが、ある日僕がオークである事を教えてくれたので……」
その話に、ピーチとエルフはどこか引っかかるような顔で首を捻るが。
「ふ、ふん! そうざ、ぞいづはオーグ! その、変異種だ!」
突如奴隷商人のポークが騒ぎ立て始める。
「変異種って……魔物じゃあるまいし」
「じ、じがし事実だろう! ぞんなオーグみだごとないだろ? そいつはオーグの中で突如うまでだ、きじょうな種なんだよ! それを売ればどれだけの金がうごぐがわがらない! だがら、どうだ? 俺をがいほうじで、いっじょにひとがぜぎ……」
「全く見苦しい方ですね。私達がそんな話に乗ると本気でお思いですか?」
「全くや。もう二百発ぐらい殴ったろか!」
「……そんなに殴ったら死ぬんじゃないかしら?」
中々過激なエルシャスの発言に、ピーチは呆れ、ポークは肩を震わせた。
「……それに貴方がどう思っているかは知りませんが、彼は変異種などではありませんよ」
悔しそうに唇を噛むポークに向けて、ナガレが伝える。
するとポークだけでなく、ピーチやエルフ達も目を丸くさせた。
「いや、流石にそれは……見た目からして全く違うじゃない」
「私が言うのもなんだけどあんた目大丈夫か?」
ピーチが怪訝な顔で口にし、捕まっているオピスも疑問の声を上げる。
エルフ達も思いは一緒のようだが。
「ナガレよ、妾はお主が根拠なくそんな事を言うとは思えんのじゃが、しかしそれでもそれは無理があると思うのじゃ」
「確かに見た目だけなら皆様の気持ちはわかりますけどね……」
ナガレはそう応えつつ、イベリッコに顔を向け。
「イベリッコさん、一つ質問ですが、貴方は先程育ての親と口にしていた。それは恐らくですが人間ですよね?」
「……はいその通りです。私は小さい頃に森で拾われて、その方に育てられました」
「そういう事だったんだ。育ての親って言い方が妙に引っかかっていたのよね……あ、もしかしてそれで言葉が?」
「はい。その方が色々と教えてくれて、彼は森で狩りなどしてひっそりと暮らしていたのですが、その方に育てられたおかげで人の言葉も覚えました」
「しかし珍しい事もあるもんやね」
イベリッコの話を聞きピーチは得心がいったように頷き、エルシャスも、へぇ、と意外そうに口にした。
「確かに今思えば珍しかったかもしれません。でも僕の事を実の息子のように育ててくれて僕も父さんと慕ってました。ただ成長するにつれ何か父さんと違うなと思い始めて、そこで僕がオークだと知らされたんです。ただ、それでも父さんは気にしてないといってくれました」
「えぇ話やな~」
エルシャスが涙を滲ませる。この手の話には弱いようだ。
「でもそのお父さんは何も思わなかったのかしら? その、容姿に関して」
若干口篭りながら気になった事を口にするピーチ。すると彼は微笑し。
「いえ、それは口にしてました。オークにしては珍しい姿だと。僕も最初はその意味が判らなかったのですが、ここの皆さんに助けてもらって理由が判りました」
「ふむ、助けられたというと――」
そう呟きつつ、エルマールがポークにその目を向けた。
「はい、ご察しのとおりです。実は僕を育ててくれた父さんも他界してしまって……とても悲しかったのですが、死ぬ直前僕のためにと色々旅の資金など工面してくれていて、それで父さんを看取った後森を出る決意をしたのですが、その途中で捕まってしまって……生前から父さんに、変わった見た目をしてるから狙われないよう注意しなさい、とは言われていたのですが……」
耳を垂らししょんぼりするイベリッコ。
そんな彼に、まぁでも逃げ出せたんやろ? とエルシャス。
「つまりそこを助けてくれたのがこのオーク達って事?」
そしてピーチもエルシャスの後を引き継ぐように問いかけるが。
「いえ、彼らと出会ったのは逃げ出してからです。この森まで逃げたまでは良かったのですが、ここがどこかも判らず途方にくれていたところを助けてもらい匿っても頂いたのです」
「ほう、しかしよく逃げ出せたのう」
「父さんから教わっていたことが役に立ちました。罠の設置方法や臭い玉の作り方も教わってましたので」
「あ! じゃあオークを探してた時のあの罠ももしかして!」
「えぇ、教えたのは彼という事でしょうね」
ふたりの話を聞き、大したものではないのですが、と照れくさそうに頭を掻くイベリッコである。
「ふむ、話は判ったのじゃ。じゃが、それでもやはりこのオークが普通と違うのは変わらないと思うがのう?」
『確か皆さんは彼、イベリッコを病気だと思っていたようですがやはりこの見た目からですか?』
『うん、だってこんな見た目のオーク見たことないもの』
『びっくりしちゃったよねぇ』
どうやらオークもイベリッコの事は普通と違うと思ったようだ。
ナガレはそれをエルフ達にも伝える。
ちなみにピーチはオークの言語を既に理解できているので問題ない。
「なんや、やっぱりオーク達も変わってると思うとるやん」
「てか、それならよく彼を同類だと思ったわね……」
「例え見た目が違っても種族間で通じるものがあるようですね。実際彼はオークの言語を習っていなくても喋ることが出来たようですし」
「あ、はい確かにそれはそうですね」
そんな事ありえるのか? と思えそうな話だが、ここはステータスやスキルが存在する異世界である。
そういった不思議な力が働いていてもおかしくはないだろう。
「でもナガレ、これまでの話を総合すると、なんというかやっぱりこのイベリッコはオークの中でも特殊な部類に入るんじゃないの?」
「ぞのどおりだ! ぞいつだはがねになる!」
喚くポークに、煩いわね、といった冷たい視線を送るピーチだが。
『ところで皆さんが彼を病気だと思ったのは見た目だけからですか?』
『ううん、見た目もそうだけどあまり食欲がなかったみたいだしね』
『そうそう全然食べないんだよ』
『本当、どっかで倒れるんじゃないかって心配してたし』
ナガレはエルフ達にもそれを通訳して聞かせるが。
「でもそれは別におかしくないんちゃう?」
「うむ、妾が言うのもあれじゃが、このオークは追われていた身、食欲がなくなっても不思議ではないのじゃ」
「との事ですが、どうですか? 貴方はやはり食欲がなかったのですか?」
オークとエルフの話を聞き、改めてイベリッコにナガレが問いかけるが。
「いえ、実はそれは随分と彼らに心配されたんですが、僕は普通に食べてたつもりなんです。寧ろ皆さん良く食べるなって……」
「――ッ!?」
「? どうしたんだこいつ、急に変な声だして」
イベリッコの発言を耳にした途端驚愕するポーク。
そんな彼に怪訝な目を向けるオピスだが。
「どうやら気がついたようですね。そう、全て逆なのですよ」
「逆? え、何それナガレどういう意味?」
「イベリッコさん、貴方は森で拾われ父と慕う人に育てられた。そして当然ですが森を出るまで食べていた量もその父と一緒だったのですよね?」
「そうですね、父さんと同じ物を食べてました」
「づまりぎさまは人間とおなじものをだべていだという事が!」
「――ッ! は、はいその通りです。食べてる物は一緒でした」
突然叫ぶように発したポークの声に驚きながら、イベリッコはその回答を繰り返す。
「いや、やからそれがなんや言うねん?」
「気がつきませんか? 今私達がオークと言ってる彼らは当然かなりの量を食べます。草食系とはいえ大食漢なのは変わりません。ですが彼、イベリッコは食べる量は人と同じで、このオーク達からすればかなり少ないことになる」
「ぞ、ぞんな! 馬鹿な! ぞんな馬鹿な事が!」
核心に近づくにつれポークの身体は震え、そして狼狽したようにそんな事を一人言い続ける。
「ちょっとナガレ早く教えてよ! もうわかってるんでしょ?」
「えぇ、そうですね。つまりですが、オークという種族は本来であればこのイベリッコのような姿をしているのが普通だったという事です」
「――ッ!?」
「は? はぁ? 何言うとんねん! あり得へんやろ! うちらもオークの事はよう知っとる! オークというのはこの草食系オーク言われとるような見た目の連中や!」
「ですが、彼らが獣人であるという事も周知の事実です。それにオークは身体の構造は人間や他の獣人と変わらない。しっかり髪の毛だって生えています」
「しかしナガレよ。だったらこやつらはなんだというのじゃ? こっちの可愛らしい方が本来のオークならば、こっちが突然変異したものとでもいうつもりなのかのう?」
「いえ、それも違いますよ。重要なのは食べる量です」
「……食べる、量? え? ちょっと待ってそれってつまり――」
「はい、ピーチのご察しの通り。つまり彼らは食べる量の多さから大量に脂肪が付き、今の状態になったと言うだけの事だったのですよ」
『な、なんだってーーーーーー!』
ナガレの発した衝撃の事実に、一様に驚嘆し、その声が森中に広がるのだった――
オークの真実→種族揃って太りすぎ。
髪の毛の事には初めて触れたはず!




