閑話 其の十一 主犯
復讐回です。
残酷描写注意。
「ははっ! 随分といい姿になったじゃないか」
西島に指定した南の森にいき、倒れたボロボロのそれを見て、サトルは嬉しそうに口にした。
その視線の先では、魔物たちに食われ甚振られ、元の顔の判別がつかないほどに変わり果てた西島の姿。
片耳が千切れ、片目が潰れ、皮膚ごと髪の毛が抜け、体全体はまさに食いかけといった有様。
当然だが両足も足首から先がなくなっているし、手の指が食いちぎられた腕が離れたところで転がっていた。
「ひ、ひぃ! あ、いだい、いだい、ごんな、ばなじが、ちがう……」
唇も千切れ、顎の骨がいくらか見えているほどの状態ではあるが、それでもなんとか西島は言葉を口にする。
喉が潰れかけているのかところどころ声が掠れてしまっているが、とりあえず言っている事はなんとか判る。
「話が違う? おいおい最初から言っておいただろう? 目的は復讐だって」
「ぞ、ぞん、な……」
既に元がどんなだったかも思い出せなくなるほどの酷い有様の顔を歪め、嘆くように西島が言う。
女生徒にキャーキャー言われていたイケメンがすっかり台無しだな、とサトルは愉悦に浸った。
「さて、と。これからどうしてくれるかな」
悪魔のような笑みを浮かべ、思考するサトルを目にし、ヒッ、と西島が情けなく鳴いた。
「も"、も"ぅ、ゆるじ、で……だのむ、ごろざ、ない、で」
すっかり弱気になった彼は、サトルに懇願するように命を乞う。
すると、ふむ、とサトルが一考するように呟き。
「いいぜ、助けてやっても」
「え"?」
西島の目が見開かれた。命が助かるのか? と生まれた希望からか、その顔に若干の明かりを取り戻させる。
「俺の使役するのには回復魔法が使えるのもいる。まぁその情けない姿を見ただけでも満足だしな。もし俺に有益な情報を教えるなら助けてやってもいいぞ?」
西島は首が千切れそうなほどに(状態を考えれば本当に千切れてもおかしくないが)首を動かしサトルの条件に応じる姿勢を見せた。
それほどまでに己の命が惜しかったのだろう。
なので、とりあえず悪魔の力でまともに喋られるぐらいには回復させる。
話を聞くに今の状況は色々と見苦しい。
「あ、本当に回復――」
「どうだ? これで判っただろう? 理解したらさっさと情報を寄越せ。今クラスの連中は全員どこにいるか。奴らの能力やステータスはどの程度か全て答えろ」
西島はスキルとして教授というものを持っている。元が教師というのが影響しているのだろう。
そのスキルがあれば、西島の説明はわかりやすくすっと頭に入ってくるのである。
「――以上だ。これで満足か?」
西島からクラスメート全員分の情報を聞き出しサトルは確かに満足だった。
勿論最後にはブレインジャッカーで情報の正誤性を確認するつもりだが。
「あぁ、おかげでな。まぁ秋葉、大宮、中野の分は必要なかったけどな」
「ど、どういう意味だ?」
「既に俺が殺した」
西島がそれを耳にし黙りこくる。
「くくっ、どうした? 急に静かになったな」
「……ま、まさか情報を手にいれたからって、また俺を殺す気じゃないだろうな?」
「…………」
今度はサトルが沈黙した。だがその目が、西島のこの後の運命を暗に物語っていた。
「や、やっぱり! ま、待てサトル! お前は間違っている! 俺を恨むなんて筋違いだ! お前を虐めるよう働きかけた真犯人は別にいるんだからな!」
サトルの眉がピクリと跳ねた。
「どういう意味だ?」
「き、気になるか? だ、だったらそれを教えたら俺を助けてくれるか?」
「内容次第だ。だが、言わなきゃ今すぐ……」
「ま、待て! 判った言う! 明智だ! あいつが、明智 正義がお前を虐めるように仕向けたんだ! 俺も他の生徒も明智に操られていたようなもんなんだよ」
「……明智、委員長のか。だが、何故あいつが俺にそんな仕打ちをする? 俺はあいつに恨まれるような事は何も」
「誰でもよかったんだよ」
え? とサトルが訝しげに眉を顰めた。
「あ、明智は法に携わる両親や兄弟に育てられた影響でか自分なりの正義を誇っている。ただ……俺からすればそれは少々歪んでいたものかもしれないが……」
「正義、だと? 俺を虐めていたことがか?」
「そ、そうだ。あいつが言うにはクラスの平和を保つためには、生け贄が必要だと。教室という狭い空間で集団生活を円滑にすすめる為にはそれが一番効果的だとあいつは言っていたんだ。クラスの生徒全員に共通の獲物を認識させる事で、感情の捌け口をそこに集中させる。サトルはようは人間ゴミ箱として必要な存在だ、ぐぇ!」
そこまで聞いたところで、サトルはその目に怒りを満たせ、西島の首を掴みギリギリと締めた。
「ぐ、ぐるじぃ、はなじで。俺がじゃない、言ったのは明智……」
「つまり、明智のそんなくだらない歪んだ思想のおかげで俺の妹は犠牲になったというのか?」
「ぐぅ、い、妹さんの事は俺もやり過ぎだとは思った……」
その告白を聞き、サトルは締める手を放した。ドサリと西島が地面に倒れる。
「がはっ、ぐほぉ!」
そして思いっきりその腹を蹴り上げた。西島の呻き声が耳に届くが全く気は晴れない。
「も、もう勘弁してくれ」
「勘弁? よりによって妹を殺した罪を俺に擦り付けておいて、よくそんな寝言を言えたな」
「し、仕方なかったんだ。明智の親だって今回の件に絡んでる。あいつの考え方を両親だって支持していた。中学時代からあいつは似たようなことをやっていたんだ。だけどあいつの中学時代の教師はそれを糾弾したせいで、やってもいない罪を着せられ刑務所にぶちこまれた。あいつの親の影響力は絶大だ。逆らえば何をされるかわかったもんじゃない」
「……だから、お前は見て見ぬふりをし、妹をあんな目に合わせた陸海空も見逃し、俺が死刑になるよう明智に協力もしたってことか。警察にもあることないこと吹き込んでくれたみたいだしな」
西島の肩がガタガタと震える。歯がガチガチとなる。
今の西島は明智にではなくサトルに恐怖を感じている。
「――ブレインジャッカー」
サトルは例の悪魔を召喚し、西島の記憶を探る。
その情報から言っている事に全く嘘がないことが判った。
だが、それが逆に腹立たしかった。
「な、なんだ? 何が?」
「俺は明智が絡んでいる事はなんとなく判っていたさ」
サトルの発言に、え? と西島が間の抜けた声を発する。
「……だが、何故あいつが俺にそんな事をしたのかまでは判らなかった。が、そんな、そんな理由だったなんてな。ははっ、全く……おかげでますます俺の復讐心は強くなった。そういう意味では感謝してるぜ西島ぁ」
唇を歪め、殺意をその瞳に込め、サトルが最後の宣告を行った。
西島は依然諦めきれないのか、土下座し涙し、嗚咽混じりに助けて欲しいと懇願するが関係無かった。
「お、お願いだサトル。命だけはだの、む、ぐぅ!」
口に突っ込まれたそれに西島の瞳が見開かれる。
するとサトルは使役したグレーターデーモンに命じ、西島にそれを無理やり咀嚼させた。
「どうだ? 旨いか? それがお前の最後の晩餐だ。ゆっくり味わえよ。何せお前の大事な彼女の心臓だ」
「――ッ!?」
サトルの言っている意味を理解したのか、西島はその場に嘔吐しかけるが悪魔の腕がそれを許さなかった。
「グェ、ゲホッ、ゲホッ、な、なんでぇええぇえ! ごんな、ギヒィ!」
涙ながらに訴える西島だったが、直後、今度はグレーターデーモンの岩のような拳が西島の顔面を捉えた。
そして、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も殴り続けた。
回復する前よりも更に顔が崩れ、小便と血の混じった臭い溜まりが足元に形成されていく。
それから周囲の魔物に今度は腹いっぱいまで食事を楽しませ、そして――最後にはグレーターデーモンの青い炎で全身をくまなく焼かれ、苦しみ悶えながら西島は最期を迎えた。
『……これでまたひとつ、復讐を遂げたな』
「ふんっ、こんなもの……まだまだ俺の心は満たされねぇよ。特に陸海空と明智 正義……あいつらだけは絶対――」
サトルは目に宿る怨嗟の炎を更に強くさせ、その場を後にした。
断罪すべきクラスメートは残り――二〇。
今回の閑話はここまでです。
サトルの復讐はまだまだ続く――
そして次回より本編新章スタート!




