第四六四話 神薙家、捕まる!?
「貴方! 一体どうなっているの! ゼンジンと全く連絡がとれなくなってしまったわ!」
発狂した声を上げているのは明智 聖女であった。彼女は公明の妻であり、三男一女の母親であり、検事長という立場も担っている。
その隣でやれやれ、とげんなりしているのは明智 公明。サトメの夫であり子どもたちにとっての厳格な父でもある。
サトメはここ三日間ゼンジンのことをずっと心配している。ゼンジンも既に立派な大人なのだからいい加減子離れしてほしいものと思うコウメイだが、サトメは末っ子であるマサヨシと次男のゼンジンにはとことん甘かったので仕方ないかも知れない。
尤もただ甘いだけではなく嫉妬深くもあり、ゼンジンが連れてきた彼女が気に入らなけれれば裏で手を回し、一家全員を船に乗せて海外に売り飛ばすぐらいのことは平気でやっていた。
ただ、これはゼンジンもある程度気がついていたようで、そのため、母であるサトメに紹介する時は大抵もう飽き始めた頃だったようだが、どちらにしても多少愛情が度が過ぎているところがあるかもな、と考えるコウメイでもある。
「サトメ、いなくなったと言ってもまだ三日だろう? あいつだってもう大人なんだ。気にすることではないだろう」
それに、今は神薙家に対して直接的な真似は保留にしている。多少ゼンジンがいないところで問題はない。そのかわり、面白い作戦を考えているコウメイでもあり。
「それが、そうでもないかもしれません父上」
だが、そこに口を挟んできたのは明智家が長男、明智 誠実であった。
「そうでもないというと、一体どうしたというのだ?」
「……弟のゼンジンですが、既に亡き物にされている可能性があります」
「な、なんだって!」
「ちょっとセイジツ! いくらなんでもそんなの冗談じゃ済まないわよ!」
「……残念ですが母上、これは事実です。ゼンジンはどうやらこれまでの失敗から、自分自身の手で汚名返上しようと考えたようですが、それが仇となり、逆に始末されることになってしまったようです」
「……ちょっと待て。それはつまり、ゼンジンはあの神薙一族の手によって、殺されたということか?」
「……そうなりますね」
セイジツが静かに答えた。なんとも言えない表情になるコウメイ。そして、このことに最もショックを受けているのは母であるサトメでありガクリと膝が崩れた状態で、プルプルと震えている。
「……サトメ、大丈夫か?」
「――戦争よ」
「え?」
「貴方! 戦争よ! こうなったらもう遠慮なんて必要ないわ! あのド腐れ外道どもが! よりにもよって法の番人である明智家を相手にふざけた真似しやがってええぇええええええぇえええ! 犯罪者集団が! あいつらは国家のダニよ! 掃き溜めよ! ゲロよ! ウジ虫よ! 人の命を平気で踏みにじるクズどもは許しちゃおけないわ! 汚物は滅却よ! 死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑なのよおおぉおおぉぉおお! あああぁああぁ! ごめんねゼンジンぅううぅうううぅん、ああぁああぁあああ! 絶対に絶対に絶対にこの私が、私が、私がぁあああああ、あの犯罪者どもに天誅を、仇を討ってみせるわぁああぁああぁあ!」
慟哭する妻に掛ける言葉が見つからないコウメイである。そしてセイジツに顔を向けるが。
「父上、母上の言うとおりです。このまま何もしないようでは明智家の威厳も地に落ちます。ここまでされたらこちらも打って出るべきでしょう。何より、弟の死は確かに悲しいことですが、それが結果として奴らを追い込むことになります」
「追い込む、お前まさか!」
「はい、その父上の考えているとおりです。それに、父上とて、その手を模索していたのでしょう? ならばこれは逆に利用すべきでしょう。きっとゼンジンだってそれを望んでいます」
「……なるほど、それは確かに面白いかもな。そうなると、まさにサトメの出番だが、出来るか?」
すると、すくりとサトメが立ち上がり、メガネを直しながらふたりを振り向き、暗黒的な微笑を湛えた。
「勿論、なんだってやるわ。あのクソ神薙家を始末できるならね――」
◇◆◇
『え~現場は只今騒然としております。ここ神縫島において地元の人々からも愛され続けてきたという神薙家より逮捕者が出た模様で――』
『神薙家は由緒ある伝統的な一家ということで島民から慕われ、また合気の名手として知る人ぞ知る一族だったようですが、果たしてその一家に何がおきてしまったというのか――』
『情報によりますと殺害されたのは現警視総監の三男とのことで事件の究明が急がれており――』
『こちらの現場の毛利です! え~只今より警視総監である明智 公明自ら緊急記者会見を開くと言うことであり、あ、出てまいりました!』
『この度はお集まり頂き誠にありがとうございます。事件のあらましについては別途資料のとおりとなっており――実行犯はふたり、神薙 崩と神薙 投と、おっと失礼このふたりは被疑者となりますが、親子で、私の、私の愛息子を、うぅ――失礼いたしました。私も妻も今だショックから立ち直れておりませんが、警察の威信にかけて! このような卑劣な犯行は許しておけないと自らの気持ちを奮い立たせ、今この場に立っております。われわれ一丸となって、息子を死に追いやった犯人に正義の鉄槌を下してみせましょう!』
『やってまいりました! ただいま警察車両より降りてきたのは、神薙 崩と神薙 投です! このふたりはどうやら親子で犯行に及んだということで――』
『どうやら神薙家は再開発を巡ってのトラブルがあった模様で、コウメイ氏の息子であるゼンジン氏は不動産事業も手がけており――』
『全くこれはとんでもないことですよ。何せこの再開発事業は正規の手続きを踏んで法に則って進められていたもので、神薙家にも破格の条件が提示されていたのです。にもかかわらず彼らは全く立ち退こうとせず、しかもですよ、立ち退き料は既に貰った後だというから驚きですよ。貰うものだけ貰って、立ち退きには応じないとはこんなの詐欺ですよ詐欺!』
『新たな情報によるとどうやら広大な土地を誇る神薙家では、何やら怪しい研究が行われていたとされており――』
『神薙家について新たな情報が発覚いたしました。どうやらブラックチーターという闇組織に武器を横流しし、テロも企てていたと――』
「もう! なんなのよこれ!」
テレビを見ていたミカが思わず声を荒げた。ミカがここまで怒りを顕にするのは滅多にあることではない。
「落ち着いてミカちゃん」
「これが落ち着いていられるものですか! こんなの全てデタラメじゃない! 神薙家はココロエ先生の実家だし、何よりメクルちゃんの助けが入ったのも全て神薙家のおかげで、この明智家の方がとんでもないというのに!」
「ご、ごめんなさい! やっぱり、全部私が悪いんだ。こうなったら私が、私が警察にいって直接!」
一人居たたまれない表情でいたのはクロイであった。彼女はメクルに助けてもらった後、一時的に神薙家の用意した場所に避難している。実はこれはミカや母親、それに監督とその家族や事務所のカオルやアツコも一緒であった。
明智家と関わった以上、彼らも狙われる可能性は十分にあったからだ。
「どうしてもというなら止めないけど、多分無駄に命を捨てるだけよ? 警察なんていったところで明智家の思うツボなんだし」
「ココロエ先生!」
姿を見せた神薙家長女の姿に、思わず表情が弾けるミカ。しかし一方でクロイの顔色は悪い。
「でも、私、私、このままじゃ」
「……そうね。そこまで反省の気持ちがあるなら、大逆転! 神薙家救出そして明智家転落だいさくせ~ん、に乗る気ある?」
「……え?」
「ココロエ先生、それは、私も協力出来ますか?」
「勿論よ。というより頼む気だったし」
「そ、それなら私にも一枚噛ませてもらえないか? あの明智家という連中には一泡吹かせてやらないと気が済まないのだ!」
これには監督も話に加わりたいと申し出てきた。勿論ココロエとしては願ったり叶ったりであり、そしてクロイに目を向ける彼女であったが。
「……ふふっ、どうやら貴方も覚悟は決まってるようね」
「勿論です。私が撒いた毒の種でもあるのだから、ちゃんと、枯らせないと!」
「えぇ、そうね。それじゃあ、一丁やってあげましょうか――」
◇◆◇
神薙 崩と神薙 投のふたりは存外あっさりと起訴された。そしてあれよあれよと裁判の日程が決まった。突然用意された明らかに捏造された証拠品によりただの殺人ではなく内乱罪まで適用され最高裁でのスタートとなった。
ふたりは別々の法廷で同時に審理を受ける。しかもクズシにはコウメイの妻であるサトメが検事として法廷に立ち、ナゲル側にはその娘の検事である明智 聖愛が立った。
更に明智家お得意の見に覚えのない証拠や証言を並べ立てるという作戦により、ふたりにとって不利な証拠が次々に積み重なっていった。
「以上の証拠から被告人の罪は明確。検察側としては死刑を求刑いたします」
クズシ、ナゲル、両方に死刑が求刑される。勿論これは既に根回しが済んでおり、判決まで行ってしまえば死刑が覆ることはない。
しかも、死刑が決まった後、明智家は普通に始末するつもりなど毛頭なく、それ相応の手はずは整っていた。
明智家からしてみれば、クズシとナゲルさえ排除してしまえば後はどうとでもなるという考えであり、その後は他の家族も纏めて捕らえ、全員仲良く徹底的に甚振った後、死んでもらおうという考えなのである。
「裁判長、一つ弁護側より追加の証拠を示したいと思います」
「……は? え? 今からかね?」
「そうです」
「異議あり! このタイミングでの証拠品の追加など認められるわけがないだろうたわけめ!」
ナゲル側の検事であるマリアが意義を申し立てる。
「意義を認める。大体なぜ今さら証拠品を追加しようなどと思ったのか」
「それは今この場でしか提示できない証拠品だったからです。そして断言いたしましょう。もしここでこの証拠品を認めなければ間違いなく皆様は大恥をかくこととなります。何故ならその証拠品は被告人の無実を証明すると同時に、真犯人とも言える存在を明白にしてくれるわけですから。尤も、検察側がその証拠品をもって裁判をひっくり返されることを恐れると言うなら仕方ないかも知れませんがね」
それは明らかな挑発であった。その時、裁判に立っていたマリア、サトメの両人は考える。自分たちには一切の落ち度はない。
根回しだってすっかりと済んでいる状況だ。それなのに何を恐れることがあるかと。むしろこの場で相手の証拠品を確認した上で跳ね除けることにより自分たちの優秀さが際立つことだろうと。
「……わかりました。そこまで言われるのであれば検察側としてもだまってはいられません。裁判長、こちらとしては問題ありませんので、どうぞ要求を呑んであげてください」
「え? よ、よろしいので?」
「はい。最後の悪あがきかと思いますが、温情の一つぐらい掛けてあげてもいいでしょう」
「わ、わかりました。それでは弁護側の追加の証拠品を認めます」
母娘両方が同じように認めた。これによりクズシ側の法廷と、ナゲル側の法廷に同じように証拠品が運ばれたわけだが。
「は? も、モニター? 一体これはなんなのですかな?」
「フフッ、どうせアリバイを証明するための画像か何かでしょう。ですがそんなものを出されたところで今更!」
「まぁまぁ、とりあえず見てやってくださいよ」
検事の話を最後まで聞くこと無く、弁護士はモニターのスイッチを入れた。
『今日は皆様、神薙 心恵の特別公演にお集まり頂き誠にありがとうございます』
すると画面の中から挨拶をしてきたのはなんと神薙家長女であり、しかもどこかの会場を貸し切り、マスコミ関係者なども大勢集まっている様子であった。
その光景に全く意味がわからず、唖然とした表情を見せる他ないマリアとサトメなのである――
現実の裁判とは当然ですが大きくことなりますのでご了承ください。
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