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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第一五一話 冒険者としての心得

「どうですか? 初めて魔物を相手に狩りをした感想は?」


 ナガレが意気消沈のブルーに向けて質問を投げかけた。すると言葉を返すことなく恨めしそうな瞳で蒼髪の少年がナガレを見やる。


 聞かなくても判るだろ? とその眼で訴えていた。これ以上恥をかかせないでよ、とも言いたそうである。


「おい! 先生の質問に答えろよ!」


 するとフレムの激が飛んだ。フレムはナガレのこととなると例え子供でも容赦無い。


「フレムっち、抑えて抑えて」

 

 そしてカイルが苦笑しながらもブルーに対して憤慨しているフレムを宥めた。

 

「全く、あんたの顔が怖すぎるからブルーってば余計萎縮しちゃったじゃない」

「は? はあ? いやいや、俺はこいつの先輩としてきっちり礼儀を教えようとな――」

「ふ、フレムが礼儀なんて言葉にするなんてちょっとびっくりかも……」


 ピーチに突っ込まれ反論したフレムであったが、その言いぶりにローザが驚き目を丸くさせた。

 ローザの中では今でも以前のフレムの印象が強いのだろう。


「でも、言い方はともかく黙ってても何もわからないわよ」


 フレムからブルーに視線を移動させ、やれやれ、といった様相でピーチが口にする。幼い子に教えるような口調だった。


「なんだよ、おっぱいのお姉ちゃんまで」

「ピーチよ! いい加減人のこと()で捉えるのやめてよね!」

 

 ピーチが怒った。同時に大きな果実がプルンっと揺れる。カイルの目が思わずそこに釘付けになった。


「先輩だって短気おこしてんじゃねぇか」

「いや、だってこれは――」

「なんだよみんなして僕を馬鹿にして!」


 ピーチがたじろいていると、そこでブルーが癇癪を起こし叫びだした。

 その様子に全員がきょとんとした顔を見せたが、ナガレがブルーへと近づき言葉を返す。


「ブルー、誰も貴方のことを馬鹿になどしていませんよ」

「嘘だ! ホーンラビット程度も倒せないなんて情けないって心のなかで笑ってるんだどうせ!」


 どうにもやけっぱちな印象なブルーである。どう見ても逆ギレであり、この辺りに成熟しきれていない幼さが見て取れた。


「ふむ、ホーンラビット程度ですか」

「そうだよ! ギルドでも楽勝って言われてたホーンラビットなんかにあんな醜態……恥ずかしいよ」

「いやいや、ちょっと待ってよブルーっち。おいらだって――」

「少し待って貰えますか」


 ブルーの発言にカイルは何か思うところがあったようだが、一旦それはナガレがその先を制した。


「フレム、先ほど貴方はホーンラビットを倒しましたが、これからギルドに戻ってそのことを他の冒険者に話して聴かせるつもりはありますか?」


 そして今度はフレムに顔を向けそんな質問をする。

 それに、へ? と目を丸くさせフレムは頬を掻きながら答えた。


「い、いや流石に先生、俺もわざわざそんなことを言って周りはしませんよ」

「う~んそうよね。確かにわざわざ他の冒険者に話すようなことでもないもんね」


 フレムに乗っかるようにピーチも言葉を加えた。それにナガレは一つ頷いてみせるが、ブルーは一体何がいいたいのか? と怪訝な表情を見せている。


「判りませんか? つまりホーンラビットという魔物は今のフレムやピーチが言っているようにある程度のランクにある冒険者にとっては取り立てて話すような魔物ではないということです」

「いや、だからそれはホーンラビットが弱いということでしょ?」

「ふむ、ですがブルーはギルドに顔を出していた時他の冒険者がホーンラビットを楽に倒したと語っていたのを聞いてますよね。今のように大したことのない相手であればわざわざ話すことはない筈です」

「あ……」

 

 ブルーが短く声を発し軽く首を傾げる。少しはそのことに疑問を覚えたようだ。


「さて、カイルは先程何かを言いかけてましたが、あれは?」


 ナガレは改めてカイルにその時の先を話すように促す。すると、あ、うん、と頷きそのまま続けた。


「おいらも最初の頃はホーンラビットを狩るのにも苦労したということを言いたかったんだよね~だからそこまで気にすることもないんじゃないかなって」

「なるほど――でしたら初めて倒せた時はそれは嬉しかったんじゃないですか?」

「勿論さ。つい知り合いにも大きなことを――あ、なるほどそういうことなんだね~」


 カイルがポンッと手をうち納得した様子で笑みをこぼした。

 ただそれを聞いていたブルーは目をパチクリさせている。いったい今ので何が納得できたのか判らないようだ。


「つまりブルーの前でホーンラビットのことを話していた冒険者は、実際は楽なんてことはなく、かなり苦労してようやく仕留めた可能性が高いということです」

「え!? そうなの! じゃあ嘘だったということ?」

「嘘ともまた違いますね。人は時折大きなことを言いたくなってしまうものなんですよ。特に冒険者はその傾向が強いのです。本当は雛鳥ぐらいの大きさの魔物が相手だったにも関わらずドラゴンのような魔物を倒したと語ってみたり、そういう風に話を大げさに言うことはよくあるのです」

「そ、そうだったんだ……」

「ええ、ですからホーンラビットが弱いなんてことは決してないのですよ。勿論話すほどのことではないと言えるほど明らかな実力差があれば別ですが、少なくとも冒険者として活動し始めたばかりであれば、決して侮って良い相手ではありません」

「う~ん言われてみれば確かに、ホーンラビットって初心者キラーという呼び名もあったりするしね」

「はい、私が回復した中にもホーンラビットの角によって思わぬ怪我を負ってしまった方もいらっしゃいました」


 ナガレの説明にピーチが同意し、ローザも過去の出来事を思い出しながら口にする。

 その話を聞くだけでもホーンラビットに対する印象が変わることだろう。


「おいらも最初は苦労したわけだしね」

「ま、俺はホーンラビット如きに苦戦したことはないけどな」

「……今の話でいくとフレム、先輩は大げさに話しているってこと?」

「そうです、しっかり理解されたようですね」

「そ、そんな! 今のは本当ですよ先生!」


 必死に弁解するフレムである。しかしブルーの気持ちに変化が表れていたのは、彼に対して先輩とつけたことから察することが出来る。


「……でもやっぱり情けないよね僕。こんなことじゃ折角お姉ちゃんが僕のためにナガレ先生にお願いしてくれたのに意味が無いよ――」


 しょんぼりしながらそんなことを吐露する。ナガレの事を先生と呼んだり随分と殊勝になったものであり、皆もその変化に目を丸くさせているが。


「いえ、意味は十分ありましたよ。先ずブルー、貴方の意識が変わりました」

「え? 意識?」

「そうです。正直ホーンラビットと戦うまでは少々狩りを甘く見すぎておりましたので。カイルがリラックスしてると感じたにも関わらず不安を感じたのは貴方に危機感が足りなかったからです。慢心が過ぎた為に警戒心も薄れてしまっていた。しかし今回のことで油断は大敵であることを身に沁みて感じ取った筈です」


 ナガレに言われ、罰が悪そうに顎を掻きながらも、ま、まぁ、と納得を示す。


「それに得たものもありましたしね」

「え? 得たって……」


 一体何を得たというのか? とブルーが眉を顰めた。


「恐怖心ですよ」

「恐怖心?」

「はい。先ほどの戦いはヘタすれば貴方はあの角に貫かれ死んでいた可能性があります。それは自身が一番よく判ってますよね?」


 ナガレの問いかけにブルーの肩がブルりと震えた。顔も少し青ざめてきている。

 ナガレの言葉で先程の戦いが想起されたようだ。改めて死の恐怖を感じ取っているのだろう。


「……そ、そんなの、無いほうが、いいじゃないか……」


 震えた声でブルーが返す。恐怖する心など邪魔でしか無いのでは? と考えているようだ。


「そんなことはありませんよ。むしろ大事なことです。恐怖心もなく無手っ法に行動していてはいくら命があっても足りませんからね。恐怖心があるからこそ人は物事に対して慎重になれる。それは戦いにおいてとても大事なことなのですよ」

「慎重に……」


 ブルーはナガレの言葉を復唱し考えこんだ。自分の行動を省みているのだろう。そしてその真剣な表情をみるに反省すべき点はしっかり理解している様子。


 彼が、冒険者になる為に毎日剣を振り練習を積み重ねていたのは嘘ではない。少々調子に乗りやすく小生意気なところもあるブルーだが根が真面目なのは確かだと思われる。


「ですから早い段階で恐怖心が備わったのは良かったでしょう。何より今貴方は生きている。冒険者にとって命は何よりも大事です。死んでしまっては何もなりませんからね」

「確かにそうね。無茶をして命を落としてしまったら何もならないし」

「でも先生、時には死を覚悟してでも行動しなければいけないこともあると思うのですが……」


 ピーチはナガレの話に同意するが、フレムに関しては珍しくナガレに意見した。


「確かに場合によってはそういうこともあるでしょう。ですがそのような状況においてもやはり常に生き残る術を考えて行動すべきだと私は思います。例え絶望的な状況に追い込まれたとしても生を諦めなければ細い糸のような希望でも掴めることだってあります。しかし早々に諦めてはその可能性も失うでしょう」

「な、なるほど。確かにその通りです! 流石先生! 俺一生ついていきます!」

「一生って……それは流石にナガレに迷惑でしょう」

「迷惑にならないように一生ついていくぜ!」


 その回答にダメだこりゃ、という目を見せるピーチである。


「でも確かに諦めないのは大事だよね~」

「そうですね。でもフレムはちょっと無茶がすぎるしまさに無手っ法なところもあるからそこは反省しないとね」


 うぐぅ! とローザの言葉にフレムが身じろいだ。彼にも思い当たる節が多いのだろう。


「ところでブルー、先ほどローザが冒険者は華やかな仕事ばかりではなく地味な仕事も多いと言いました。ですがそれともう一つ忘れてはいけない大事なことがあります」

「え? 大事なこと?」


 ナガレが改めてブルーに告げるとブルーが反問した。その顔付きは最初に比べるとかなり真剣なものに変化している。


「はい、それは冒険者は常に死と隣合わせだということです。今手伝ってもらっていた薬草採取にしてもホーンラビットのような魔物に襲われることだって別に珍しいことではない。ピーチだって私と出会った時は採取の途中だったようですが、多くのゴブリンに囲まれておりました」

「う、うぅ、あの時は本当に私も色々とピンチだったわね――」


 今度はピーチの顔から血の気が失せていく。ゴブリンの場合、単純に命だけの問題というわけではないので忌避する気持ちもより高いのだろう。


「そう、どんなに地味に見える内容でも冒険者の仕事には常に危険がついてまわります。薬草採取一つとっても調子に乗ってあまり奥に進み過ぎると思いがけない凶悪な魔物に遭遇することもありえますし、お弁当一つ届けるにしても絶対に安全だということはありません。そのこともしっかり肝に銘じておいてくださいね」

「……は、はい! 判りましたナガレ先生!」


 顔を上げ男の子から男に変化した表情ではっきりと返事した。

 

「さて、じゃあこれでブルーの冒険者初体験は終了かしら?」

「初体験ってちょっとエッチだよね」

「……カイルのこういうところ軽蔑してしまうわね」

 

 ピーチがナガレに問いかけると即座にカイルが反応した。そしてローザがジト目でカイルを見やる。本人は全く気にしてない様子だが。


「いえ、まだ時間はありますし、折角の機会ですからブルーにはもう一つ踏み込んだところまで見せてもらいましょうか」

「え? みせる?」


 ナガレがそう発すると、ブルーが目を丸くさせて疑問の言葉を投げかけた。するとナガレが顎を引き話を続ける。


「はい、そうですね、ではフレムと一度戦って貰うとしましょう」


 


 

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