第一四五話 サトルの先生?
ここからサトル登場です。
「う~ん、確かにこれはかなり速いな」
サトルは手に入れた純白の馬に跨りびゅんびゅんと流れていく景色を認めながら思わず呟く。
『ユニコーンはこの脚の速さが特徴でもあるからのう。大体早馬の四~五倍程度の速度は出るとされておる』
感嘆の声を漏らすサトルへ悪魔の書が補足するように説明した。
なるほど、とサトルは感心したように頷く。やはりこの悪魔の書の知識は頼りになるようだ。
しかし何故サトルがユニコーンなどに乗っているのか――これに関してはあのヒメキシやイヌズキ、ハナメデなどに復讐を遂げた事と関係する。
あの時――サトルはカチュアなどの姫騎士やその護衛たちも殺害、その後は発見を遅らす意味で盗賊のアジトの洞窟を崩落させ遺体ごと埋めてしまう形をとった。
だが、その後周囲を探索した所、恐らく姫騎士が乗っていたであろう馬車やそれを牽引していたアウラとユニコーンが集められ縄で繋がれていたのだ。
恐らくサトルが利用した盗賊達が後々売るか何かするつもりでいたのだろう。車体は幌タイプの物と豪奢な装飾が施された物とがあった。
これらは上手く売り飛ばすことが出来ればそれなりの金になる。
だが――サトルは車体に関してはその場でバラバラに粉砕した。折角洞窟を崩落させてもこれが見つかっては仕方がないからだ。
ただ――アウラやユニコーンに関しては流石に殺すのは躊躇われた。
それに移動手段としてアウラであれば一頭ぐらい利用するのも悪く無いとも考えた。
なのでユニコーンを先ず逃がそうと思ったサトルだったのだが――どういうわけかユニコーンがサトルに擦り寄りなつかれてしまったのである。
『ふむ、これは珍しいな。どうやらこのユニコーン、雌のようであるぞ』
サトルもユニコーンが貴重で生娘以外は決して背中に乗せようとしないことは、これまでの旅で集めた情報で知っていたので不思議に思ったものだが、悪魔の書の話で合点が言った。
雄のユニコーンであれば当然サトルが近づいても暴れまわって手がつけられなかったであろうが、雌のユニコーンであれば別ということなのだろう。
なので結局サトルはアウラを全て逃し、ユニコーンだけを活用することと決めたのである。
『ふむ、しかしこれでサトルがまだ童貞であることが知れてしまったな』
「ほ、ほっとけ! 大体別に隠してない! それより、雌のユニコーンがその、童貞以外乗せないなら、なんであの女達はユニコーンを利用する事ができたんだ?」
次の目的地に向かう途中、悪魔の書に誂われるサトルであったが、なんとなく気になったことを質問する。
『それはそもそもがサトルの勘違いであるな。ユニコーンの雌は雄に比べると温厚であるぞ。勿論童貞以外の雄が近づこうものならその角で尻を破壊するぐらいはしよるが、雌が乗っても特に暴れたりせん』
「いや、尻を破壊するって普通に怖いんだが……」
どうやって破壊するのかは敢えて聞かなかったサトルである。
「でも、だとしてもユニコーンの雄か雌ぐらいは見れば判るんじゃないのか? それなのに誰も判らなかったのか?」
『無理であるな。ユニコーンは普段は性器を隠しており、必要な時にしか出すことはない。故に雄と雌の区別を見た目だけで判断するのは難しい。その上雌のユニコーンが産まれる可能性が極端に低く、人間の中でもユニコーンは雄しか産まないと思っている者は多いであろう』
「なるほどね。でも、それだとユニコーンはどうやって種を存続させているんだ?」
当然の疑問であった。雌がほぼ生まれないのであれば、当然ユニコーンの数は減り続ける一方であろう。
『簡単な話だ。ユニコーンは発情期になると人に化けるのだ。ユニコーンの寿命は一〇〇年程度だが、その間に三~四回発情期が訪れる。その時に雄は人間の一〇代の生娘とまぐわり子を宿させるのだ』
「……なんかユニコーンがとんでもなくスケベな種に思えてきたぞ」
ため息混じりにサトルが言う。だが、その直後ふと今自分が乗っているユニコーンを一瞥し考える。
「……なあ? もしかしてその話で行くと――」
『うむ、お主の思っているとおりであるぞ。このユニコーンはお主を狙っておる』
「マジかよ! いやいやいや! だったらユニコーンの雄を狙えよ!」
『勿論気に入った雄がいればそうするであろうがな。だがユニコーンの雄と雌が邂逅する確率は極めて低いのだ。故に雌とて人を相手にすることが多い。尤も多くの人間は相手がユニコーンだとは気が付かず終わるであろうがな』
どうやら人に化けているときは角が隠されるらしい。その代わりに雄は別の角を生やすらしいが。
「……まさか目的地に着く前に襲ってきたりしないよな?」
『それはそれで面白そうではあるがな』
人事だと思って――と不機嫌な顔を見せるサトルであるが。
『しかしその心配は残念ながらない。ユニコーンの発情期は蒼月の夜と決まっておるからな。少なくとも後三年は発情期がやってこないであろう』
サトルはほっと胸をなでおろす。蒼月の夜といえばこの世界で四年に一度訪れる蒼い満月の夜のことだ。
この夜は普段よりも極端に魔素が濃くなり、魔法使いにとっては恵みの夜とも言われているらしい。ただ魔素が濃くなる分魔物も活発化する為、災いの夜ともされている。
『しかしサトルよ、ユニコーンの人化した姿は雄ではどんな女性であってもひと目で心を奪われるほどの美丈夫となり、当然雌の場合はこの世のものとは思えないほどの絶世の美女の姿で現れると聞く。しかもその性技たるや、身も心も蕩けてしまうほどの快楽を与えてくれるということだ。折角こうして気に入ってくれたのだ、後三年ぐらい我慢して味わってみるのも良いのではないか?』
「……かんべんしてくれ」
目を細めサトルが答える。サトルとて男だ、もし何もなければそういったことに興味も持てたかもしれないが――今はとてもそんなことを考えている余裕など無い。
「ま、ユニコーンのおかげで魔力の消費が抑えられるのはありがたいけどな」
サトルの移動手段としては他にも悪魔を呼び出しそれに騎乗したり、デビルフライヤーで空を飛ぶという方法もあるがやはり目立つ。
悪魔の力を頼り幻術でごまかす方法もあるのだが、悪魔を召喚してる間も魔力は消費し続ける。ただでさえ今はグレーターデーモンなども召喚されたままの状態であり、更に悪魔の装備も常に身に纏っている。
この上で更に長時間の悪魔の召喚は少々厳しいので、ユニコーンという脚を手に入れることが出来たのは僥倖とも言えるだろう――
「はっ!」
掛け声を発しサトルの剣が鎧の騎士に振り下ろされる。黒色の騎士はそれを己が剣で受け止め、素早く腕を返し流れるような動きでサトルの剣を地面に叩きつけた。
「ちっ!」
サトルは素早く飛びのき、相手を中心に時計回りの移動を見せ横を取る。
そこから踏み込み今度は剣を横薙ぎに振るった。しかしそれも黒騎士の手であっさりと受け止められる。サトルはそこから更に二の太刀、三の太刀と剣戟を浴びせていくが、そのどれもが返され、そして黒騎士の突きが喉元に擬する。
「くっ、参った……」
サトルが負けを認めたところで黒騎士――デスナイトが剣を鞘に収めた。
『少しはマシになったと思うが、だがまだまだであるな』
うるさいな、と不機嫌そうに口にしながらもサトルは剣とデスナイトを一旦悪魔の書に戻す。
「サトル様、お食事の準備が整いました」
すると、使役しておいたヘラドンナがサトルに声をかけてきた。
サトルが振り返ると、採ってきた野草や果実をふんだんに使用した料理が並べられている。
ヘラドンナは悪魔でありながらもある程度料理も可能という特徴を持つ。
特に植物や果実を使った料理は得意とのことであった。
「何か悪いな」
「いえ、このようなことで主様のお役に立てるなら」
そう言って恭しく頭を下げる。正直悪魔と言うにはかなりの美女であるため、こう従順な姿勢をとられるとサトルとしてもどうにも戸惑ってしまう。
とは言え、やはり食事は必要だ。その為サトルはありがたくヘラドンナの用意してくれた料理に手をつけていった。
『それにしてもサトルよ、突然どうしたのだ? 剣の練習などを始めて』
「別に、ただ悪魔の力だけに頼ってるといざというときに困るかもしれないしな。それに悪魔の力は大分引き出せるようになってきたけど、それにつれて実践以外だとやることがあまりなくなってきたしな。だったらその分剣の練習に費やしてもいいと思ったのさ」
『ふむ、なるほどな。それでデスナイトを先生にと言うわけか』
「主様は素晴らしいと思います。どれほどの力を手に入れても慢心せず、日々ご自分を磨き上げようとするその姿勢、なかなか出来ることではありません」
ヘラドンナに褒められると妙にむず痒くなるサトルでもある。ニコリと微笑むその容姿は肌の色と植物で出来た髪を除けば人間と遜色が無い。
悪魔の書は人化したユニコーンも美しいと言っていたが、ヘラドンナも十分に綺麗だと感じているサトルでもある。
尤も、だからといって恋愛感情に発展することなどあるはずもないのだが――




