閑話其の二一 狂宴の始まり
復讐回です。
この話は閑話一から続いている話ですのでご注意ください。
ナガレは出ません。
「嫌だ~やめてよ~助けてガルちゃん! ガルちゃん!」
「馬鹿が! いい加減諦めろ! あの狼はもういないんだよ!」
「畜生、なんだよこれ。やめろよ、やめてよぉ……」
「ぎゃはは! 優秀な魔法使い様も魔法が使えなきゃただの雌だな!」
「あ、貴方達何をしているか判ってますの! 私を辱めて、絶対に! 絶対に許しませんわ!」
「お~お~、随分と強気だなおい。だけどなテメェには仲間も何人も殺されてんだ! その分のお返しはしっかりさせてもらうぜ!」
何人もの男たちに囲まれ、あの三人は為す術もなくただ咽び泣く事しか出来なかった。
装備品も剥ぎ取られ、パートナーも失い、魔法も封じられたのだ。
(こうなったらもうあいつらもただの雌だな)
サトルはそんなことを思いながら、上からその様子を俯瞰し続けていた。
サトルを虐め甚振り続けていた三人だが、それと同時に男(明智を除く)をどこか下に見て舐めきっていた節のある女どもだ。
しかしこの件を通して、自分たちが所詮ただの女であるあることを痛感したことであろう。
尤もこんなものはサトルにとっては復讐による手始めの所為に過ぎない。
ただ――
「ひゃっはー! 頭のおこぼれに預かれるとは最高だ!」
「全くだ! 本物の姫騎士様を堪能するぜ!」
「こっちの護衛騎士も上玉揃いだぜ!」
「全くだ最高だぜ!」
あの作戦の後、当然だが三人以外の生き残った女達もアジトまで運び込まれた。
しかし、あの三人はともかく、いくら好きにしていいと言ったとはいえ、他の女達にまで手を出すとはサトルも思っていなかった。
尤も何をしようとサトルにはどうでもいい事ではあったが――。
「しかしまさに獣だな」
狂宴ともいえるその光景をみながら思わずこぼす。
眼下の男どもはあまりに欲望に忠実であった。しかしそれが少しうらやましくもあるサトルでもある。
今のサトルには復讐だけ、それだけが彼の全てなのだから。
「どうですか先生? 少しは気が晴れましたかい?」
ふと、後ろから下卑な男の声が届く。山賊の頭だ。行為を終え、側近のふたりと戻ってきたのである。
「あんなもので満足するわけがないだろう。ま、そっちは随分とすっきりしてるように見えるがな」
サトルは連中を振り返りながらそんな皮肉を言った。
実際戻ってきた三人は、溜まっていたものを全て出しきったような、そんな顔をしている。
「ははっ、なんなら先生も参加されては? どんな女でも今なら選り取りみどりですぜ」
「遠慮しておく。そんな気分じゃないしな。それに俺の気持ちはそんなことじゃ晴らせはしない」
サトルの発言に頭は肩を竦めてみせた。この状況で何もしないのが、彼らにとっては信じられないといったところなのだろう。
「それにしてもあの三人はともかく、他の女にまで手を出すとは思わなかったがな」
「ほう、それはまたどうして?」
「……何をするにしても傷物にしてしまったら、色々不利なんじゃないかと思ってな」
なるほど、と頭は顎を引く。
「それで先生であれば、この後俺たちはあれを使って何をすると考えますか?」
そして唐突にそんな質問をしてくる。
サトルとしては特に答える必要もないのだが、なんとなく相手に合わせて黙考し、思いついた答えを口にした。
「そうだな。相手はあれでも一応は皇女だ。人質にして身代金を要求するといったところか?」
「はははっ、あ、いや失礼」
小馬鹿にしたような笑い声を上げられ、少々ムッとしたサトルであったが、相手もそれを察し詫びの言葉を述べる。
「しかし先生はこういった面はやはり詳しくはないようだな。今先生の言った通りにもし俺たちがしたら――あの姫様もろとも始末されてもおかしくない」
仮面の奥でサトルは眉を顰める。
「何故だ? 彼女は皇族だろ?」
「と言っても所詮は女さ。この国ではな、女は男より圧倒的に下に見られてる。一応外聞が悪くない様、最近は外面だけは整えようと、あの姫様みたいなのに領地を任せたりしてはいるが、本質は変わらないのさ。いざとなったら切り捨てるぐらいは平気でするしな。それよりも俺らみたいな山賊に舐められることの方を嫌うのさ。だから身代金を要求するなんて俺達からしても自殺行為なんですよ」
頭の話を別におかしいとは思わなかった。何故ならサトルとて、一応はギルドに登録し活動していた期間などで帝国の内情にも目を向けてきている。
亜人と蔑視する種族に関してもだが、確かに女に対しての扱いも酷かった。
西島があれだけ無茶をやってもお咎めなしなのは、地球からきた者が一応は優遇されていたというのもあるが、そういった背景も影響しているのだろう。
「話は判ったが、だったらどうするんだ?」
「くくっ、俺達の考えてるのはもっと有意義な事さ。な~に難しい事じゃない。俺は正々堂々とあの姫さんの領地を手に入れる」
領地を? とサトル問い返すと、頭は大きく頷き、そしてどうやって? という疑問を持ったサトルを察してか更に続けた。
「まあ手に入れるといっても事実上のという意味ですがね。別に難しい話じゃない。俺はあの姫騎士と結婚する。そうすればあの土地はもう事実上俺のものみたいなものさ」
「は? 結婚? 何の冗談だそれは?」
「冗談じゃないさ先生。俺はその為に既成事実を作ったんだからな」
思わずサトルは頭の辞典で既成事実の意味を調べ直すが、どう考えてもおかしな話である。
「無理やり行為に及んでおいて既成事実と認められるのか?」
「内容なんて関係ないさ。ついでに子供も孕ませちまえば完璧だしな」
「……あれじゃあもう誰の子だなんて判らないだろう」
「それも問題ない。俺が最初に手を出してるし、後は誰の子でも構わねぇさ。俺からすれば出来る確率を上げるほうが大事だ」
言ってることは屑そのものだが、サトルは自分にそれを非難する資格なんてないことを理解している。
「それにさっきも言った通り、この国じゃ女の権利は低い。平民同士なら例え犯されても国は助けちゃくれないし、貴族が平民の女を犯す分にはやり放題だ。下手に女がその事で文句なんて言おうものなら女のほうが逆に処刑されるほどだしな」
この国の貴族がろくでもない事はサトルも知っている。
それは獣人の扱いなどに特に顕著に表されていたが、平民への態度も決して良くはない。
尤もだからこそサトルは今回のような相手を巻き込んでも何も思うことがないのだが。
「ただ、あの姫さんが国境の領主なのが俺たちにとっても少々厄介だったこともあってな。だから先生には感謝している」
「別に感謝される覚えはないが、しかし今回の場合一応は皇女様だろう? いくら既成事実にしようとしたところで、否定されたり助けを求められたら厄介じゃないのか?」
「勿論それぐらいは俺達も考えているさ。それでだ、ものは相談なんですが先生。随分と腕のたつ魔術師を囲っているようじゃないですかい。だからもう少し協力してくれないかな? な~に相手を洗脳する魔法をちょこちょこっと掛けてくれればいいんですよ」
そういうことか、と仮面の中で嘆息する。
「断る」
「そんなつれないことを。こうして知り合えたわけだし、これも何かの縁と――」
「何か勘違いしているようだが、俺はあくまで自分の目的のためにお前らに話を持ちかけただけだ。それ以外の事では一切協力する気なんてない」
サトルは鋭く冷たい感情を表に出しつつそう告げた。
この手の連中は下手に調子づかせると助長する。
はっきりと態度で示した方がいいだろう。
「……あまりしつこくすると怒らせちまいそうですね。まあならこの件は忘れてください。それならそれで伝はあるのでそっちを頼ります」
「そうしてくれ」
「でも、それでも先生には感謝してますよ。これでうまいこと事が運べば、奴隷の輸出が捗る」
「輸出?」
サトルが思わず尋ね返す。
「はい。さっきもいいましたが、あの女が随分と目を光らせていたせいで、国境越えの密輸が少々厳しくなってたんでね」
「……つまり奴隷を国外で売りさばくということか」
「ご名答。何せ帝国は奴隷の価値がどんどん低くなってますから。それにいくら女の扱いが低いとはいえ、護衛騎士をやってたような女を帝国内で売りさばくわけにもいかない」
「……しかしだとしてもバール王国に売るのか? あそこは奴隷制度が特殊で拐ったような奴隷は扱えないだろう?」
これはサトルが色々と情報を集めたうちに知ったことだ。
バール王国では自由奴隷制度というのが確立しているが、これはサトルからすれば人材派遣みたいなもので帝国の奴隷とは様相を異にしていた。
「それはあくまで表向きの話。勿論あの王国はそういった奴隷の密輸に厳しい国だが、その分旨味もある。何せちょっと前までは他の国のような奴隷制度が浸透していたわけだから、その事を忘れられないような連中が特に貴族なんかに多いのさ。そしてそういった奴らに奴隷を売ると金になる。特に女はね。だけどあの姫様のせいで監視が強まり、中々大きな動きはしにくくなっていた。しかし今回の件で俺があれの夫になればその辺りの自由が効くようになる」
この連中は間違いなく屑だが、屑は屑でそれなりに考えているようだな、とサトルは思った。
「バール王国は奴隷について厳しい分金になるからな。これまでは隙をみて少しずつ密輸するしか手がなかったが、これを期に大きな儲けが期待できるぜ」
「バール王国はこの間の獣人共も高く売れましたからね」
すると、側近の一人が横から口を挟む。
「ああ、確かに、特にあの女は運が良かったな。まだ幼かったとはいえあんな上玉が森で彷徨ってるんだからよ」
「あんときは確かいい装備をした死体も近くで転がってたしな」
「ああそうだ。この武器なんて切れ味も最高だしめっけもんだったぜ」
そう言って頭があの刀を持ち刃を覗かせる。
確かにかなり上等な代物だが――しかしサトルは奴らの言動の方が気になった。
「……その獣人の女というのはどこで見つけたんだ?」
「うん? なんだ先生獣人に興味があるのかい? だったら言ってくれれば……」
「答えろ」
「……あ、ああ。こっから南東に三日ほど進んだ先になる森の中だよ。奴隷集めの為に動きまわってた時の話さ。そこで見つけたのさ」
サトルはその森に心当たりがある。
「……死体は何体あった?」
「は? いやいや結構ぐちゃぐちゃなのも多かったが、獣人のが二体分。それは多分あの幼女の親だと思うがね」
「娘もあれなら母親も美人だったんだろうがな。生きてればそれも高く売れたかもしれないな」
「後は少し離れた位置には父親の死体だったか。尤も首だけはその母親の近くに転がってたが」
「あとは、人間がニ体……ああそういえばその死体の中には黒髪黒目というのがいたな――あれ? もしかしてそれも召喚された連中なんですかね?」
しかし最後の問いかけをサトルは無視し、あの時の事を思いだす。
そして確信した――連中の言っているのがあの時、あの屑三人に捕まっていた獣人の幼女であることを。
あの子牛が揺られて連れて行かれる歌が頭に流れてます。




