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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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閑話其の一九 気になる事

「ふぁ!? それお前本気で言ってるのか!」


 山賊の頭が驚きに声を荒げた。鎧騎士が持ってきた仕事の話は、彼にとってはあまりに突拍子のないものだったらしい。


「だ、第一その情報はあてになるのかよ?」

「俺にはこういった情報集めが得意な仲間が沢山いてね。だから間違いない、三日後、帝都からフィーニス領に戻る馬車がある」


 懐疑的な山賊の頭に、サトルは淀みのない口調で答える。

 それは確信に満ちた声であり、頭も、うむぅ、と唸りフルフェイスの向こう側の感情を読み取らんとばかりに、じっと彼の仮面を見据える。


「馬車に乗っているのがかなり高い身分である事は確かだ。それがこの山脈を越える。それを狙い打つ。こいつらを捕まえる事ができればお前たちにとって色々と美味しいだろう?」


「馬鹿言え! お前の言っているのが事実なら、それは第五皇女のカチュアだ間違いない。ユニコーン馬車なんかを使うのは限られてるし、おまけに護衛も含めて全員女なら間違いない」


 頭がそう言って鼻白んだ。それに鎧騎士が腕を組みわざとらしく首を傾げる。


「なぜだ? 相手は女だけの騎士に冒険者だろ? サイゴンを余裕で倒せると豪語していた割に弱気だな」

「アホか! サイゴンなんて比較にならねぇよ。冒険者は知らねぇが囲ってる騎士はヴァルキュリエという騎士団の連中だ。カチュアは辺境伯として領地も任されてるからな。そこで結成された騎士団だが、全員女の癖にめっぽう腕が立つって評判の連中だ。レベルも30後半が当たり前、そもそも護衛されてるカチュアだって姫騎士と称されるぐらいの腕をもってんだ。いくらなんでも分が悪すぎる」


「そういう事か、だがそれなら安心しろ。当日は俺も仲間を呼ぶ。勿論俺も出る。仲間にはかなりの魔法の使い手もいてな、お前たち全員の能力を底上げするぐらいは余裕だ」

「そ、それは支援術式の使い手もいるって事か?」

「ん? 多少は魔法の事も知ってるようだな。あぁそのとおりだ。しかも支援術式だけではなく一通りの術式を使いこなす。それだけでもかなり頼りになると思うが?」


 そう言われ、頭は腕を組み唸った。すると両隣にいる男ふたりも交えて何やらひそひそ話し始める。


 おそらくふたりはこの頭の側近なのだろう。レベルもここの山賊達の中では30そこそこと高い。


「……俺もさっきのあんたの力を見てるから信用はしたいがな。だが、お前に一体何のメリットがある?」

「……俺の狙いは一つだ。今回の護衛の中に三人、異世界から召喚された連中がいる」


 はぁ!? と頭を含めた三人が素っ頓狂な声を上げた。


「おいおいマジかよ! そんな話初耳だぞ? 帝国はあの召喚を試みたってのか?」


 頭は随分と驚いているようだった。だが異なる世界から力をもった者を召喚する術があるという事は知っているようでもある。


「護衛の中に黒髪黒目の奴らが三人いる。そいつらが異世界人だ。黒髪黒目もその特徴の一つだろ?」

「いや、確かにそれは判断材料の一つだが、しかし黒髪黒目が全くいないってわけじゃねぇ。過去の血統で、数は少ないがたまにはそういう連中もいるぜ?」

「それでも間違いない。そもそも俺がそいつらを知っているんだから確かだ」


 その発言で今度は不可解といった表情で三人が顔を見合わせた。

 なので鎧騎士は簡単に三人の特徴を伝え、また自分の正体は伏せた上で、自分がその三人に恨みがある旨と、連中にして欲しい事を伝える。

 そして異世界人とはいえ付け入る隙はあることを、自信の根拠となる作戦と一緒に伝えた。


「な、なるほど。確かにそれなら……それにしても、お前は本当にそんなことでいいのか?」

「問題ない。約束だけ守ってくれるなら後は好きにしろ。それで決心はついたか?」

「う、うむ――」


 頭は再び難しい顔で唸りだした。この仕事は彼らからすれば確かに得るものも大きいようだが、下手に失敗すれば帝国を敵に回しかねない。

 故に悩んでるようでもあるが。


「言っておくが俺もそこまで気が長いわけじゃない。お前たちがさっき俺にしてきたように、俺だってここまで話してただですまそうとは思っていない。もし断るというなら――」


 ガチャリ――と、金属の擦れる音が静かに響き、鎧騎士の手が腰の剣に添えられた。

 

「ま、待て待て! 判った! 乗る、その話乗るぜ! だから物騒な事考えるなって」


 初見の態度とは打って変わって随分と下手に出てきた。

 やはりこの手の連中は相手が上だと知れば変わり身が早い。


「そうか話が纏まってよかった。それじゃあ作戦当日にまた来る」


 話が決まったと思えば、鎧騎士はすぐにその身を翻し、退去の意を示した。

 それを認め三人がほっと胸をなでおろすが。


「一応言っておくぞ。俺は一旦消えるが監視は残しておく。お前たちでは絶対に見つけることのできない監視だ。もし、にも関わらず、約束を反故しようとしたなら――容赦なく殺す」


 一顧し殺気を漲らせる。圧倒的な威圧。それが彼が本気であることを如実に表していた。


「わ、判ってる。寧ろあんたみたいのがついててくれるならこっちは百人力だ。信じてるさ」


 その言葉を耳にし、ふんっ、と鼻を鳴らし、鎧騎士は山賊のアジトを後にした。





『中々様になっていたではないかサトルよ』

「……からかうなよ。まあでも、上手く言って良かった」


 顔を覆っていた仮面を広げサトルが返す。

 悪魔でもありサトルの装備品でもあるカオスフルアーマーは、全身をくまなく覆う鎧であるが、顔の部分に関してはサトルの意志で自由に開閉が出来る。

 盗賊どもと相対している間は顔が見えないよう仮面姿を固持していたが、洞窟の中では少々蒸れる。

 

 そのせいか仮面を開くだけでも外の新鮮な空気が美味しく、開放感に包まれた。

 ただ鎧だけは念のためそのままにしてはある。


 そしてアジトから離れようと山を下るサトルであったが、自然と顎に手を添え物思いにふけてしまう。


『ふむ、あとは決行の日を待つだけであろうが、しかし何か不安でもあるのか?』


 すると悪魔の書がそんな事を尋ねてくる。

 それに目を丸くさせサトルが応じた。


「不安? なんでだ?」

『難しい顔をしておるではないか』

  

 サトルは、あぁ、と口にし更に続ける。


「ちょっと気になっててな。最後にあの屑を殺してから悪魔を使い色々情報を集めたわけだが」

『ふむ、サトルもかなりの悪魔を使いこなせるようになったな。我も嬉しいぞ』


 悪魔の書の言うように、サトルは順調にレベルを上げ悪魔の書を相当に使いこなせるようになっていた。

 そしてその力を利用し、帝都での情報集めのため、悪魔たちを奔走させたのである。

 

 ガーゴイルなどは空からの監視で、ドッペルジェリーには人間に化けてもらい酒場やギルドでの情報集めといった形でである。


「おかげであの屑女三人の事も掴めたしな。だけどな、肝心の情報が全く出てこない。それが少し気になってな」

『肝心の情報?』

「ああ……俺が殺した連中の事だ」

 

 サトルが、そういうと、ふむ、と悪魔の書が返してきた。


「一応俺も脚がつかないよう冒険者ギルドでは偽名使ってるし、眼の色も変えてはいるが――」


 さっきの山賊との話にあったように、黒髪黒目は珍しいが全くいないというわけではない。

 ただ、それでも復讐が終わるまでは出来るだけ目立ちたくなかったサトルは、ギルドに登録する際もドッペルジェリーを上手く利用し眼の色を変えていた。

 

 黒髪黒目は珍しいが黒髪か黒目、どちらかだけというのはそれなりに存在するからである。

 なのでドッペルジェリーをカラーコンタクトに変化させた。

 

 尤もこれはサトルの考えた応用みたいなもので、悪魔の書も驚いていたが。

 なのでサトルもこの世界にいるという事は知られていないとは思うのだが――。


「ただ、だとしても奴らが殺された情報すら出てこないのはおかしいと思ってな……」


 サトルは復讐のために既に五人の生徒と一人の教師を殺している。

 この世界には携帯電話もインターネットもないため、情報が伝わるのは決して速くはない。

 

 ただ、だとしてもサトルが行動を開始してからそれなりの月日は経っている。

 にも関わらず、特に帝都内ですらそういった情報が聞けないことに疑問を抱いてしまう。


『……しかしサトルよ。あの山賊が言っていたであろう? 召喚のことなど知らぬ、と。つまり帝国側も召喚した事実は隠蔽している可能性がある。故に召喚された者に関してもお主と同じ世界から来ている人間である事は公にはされていない可能性が高いであろう』

 

 悪魔の書の言っていることにも一理ある。それであれば例え死んだことが帝国内に知られていたとしても、表立った調査などの行動は控えているのかもしれない。


『さらに言えば、帝国のような国は強者を望むものだ。だからこそ連中を好きに泳がせ、実力をつけさせようとしているのだろう。それは逆にいえば途中で死ぬような者は用済みと考えている可能性もある。つまり帝国側からすればいくら異世界から呼び出した者とはいえ、死んでしまえばそれまで程度の事なのだろう』

「……なるほどな。確かにそう言われてみればそうかもしれないな」


 サトルはそう言ってとりあえず納得を示す。

 勿論完全にそうだと決めつけたわけではなかったが、どちらにしてもサトルがこれからやることに変わりはない。

 

 なのでここでいちいちそんなことを気にしても仕方ないと思った。

 これまで通り悪魔を使って警戒をしつつ、情報集めを任せ、サトル自身はこれからの復讐に専念しようと頭を切り替えた。


『しかし、あいつらは本当に約束を守るであろうか?』

「あれだけ脅しておけば大丈夫だろう。それにあいつらにも言ったが、インビジブルストーカーを監視に付けてある。もし逃げ出そうとか妙な動きを見せたら、二、三人殺して警告すればもうそんな気も起こさないだろうしな」

『くくっ、なるほど。いいではないか。中々容赦の無さが様になってきてるぞ』


 悪魔の書の発言に、そりゃどうも、とにべもなく返し、そしてサトルはアジトから少し離れた位置で作戦結構の日までを過ごした。


 一応途中、インビジブルストーカーを通して賊の様子も確認したが脅しは効果てきめんだったようで、逃げ出そうとするものなど一人もいなかった。

 尤も、旨味のある話と考えを改めた部分も大きいのかもしれないが。


 そして――いよいよその日がやってきた。

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