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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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閑話其の一六 護衛の三人

ここから暫くサトル絡みの話となります。

ナガレは登場しません。

 馬車と獣車が合わせて三台後塵を上げながら山道をかけ続けていた。

 其の中で一台だけ、雄々しい一本角を生やし、優雅に鬣を靡かせるユニコーン(一角馬)に引かれる馬車があった。

 車体には豪奢な装飾が施され下品にならない程度に金と銀を上手く組み合わせて縁取られている。

 そして御者台のある前面には世界を見立てた輪と、その中心で剣を掲げている荘厳な男の姿が象られた紋章が刻まれている。

  

 残りの二台に関しては箱型の車体であることに変わりはない。ただユニコーンの引く馬車に比べれば装飾もなく地味な印象。ただ車体の要となりそうな場所には鉄板による補強がなされていた。

 馬車の前後に一台ずつ付いており、引いているのは全身が白い毛で覆われた獣である。


 アラウと称されるこの獣は、一応分類は牛の仲間とされているが、毛の色もさることながら、顔も角の形も通常よく目にするタイプの牛とは遥かに形態が異なっている。

 

 アラウの顔は牛というより山羊に近く、ただ目が小さくて丸い。全体的にゴツゴツとしていて山羊に比べると遥かに獰猛そうな顔立ちをしている。

 体格に関しては牛の仲間というだけにどっしりとしており逞しい。大きさも野生の牛より一回りは大きく、頭に二本の捻れた長い角が顔の前に突き出している形だ。

頭に二本の角が生え、捻れていて顔の前に突き出ている。

 

 アラウの特徴はやはりその力の強さであり、馬や牛よりも遥かに力強く、それでいて掛ける速度は馬とそう変わらない。

 その為、険しい山道を越えるにはうってつけとも言える。


 ただアラウはとても気性が荒く攻撃的。その為飼いならすのは困難だ。

 ある程度熟練された獣使いが数名掛かりでようやく一頭捕獲できるかといったところでもある。

 しかもそれでいて餌は馬の数倍必要であり、維持費が嵩む。

 

 なのでそう気軽に扱えるものではなく、アラウが牽引する獣車を使用するのは貴族や一部の有力な商人ぐらいだ。


 そして当然だが、ユニコーンに関してはいえばアラウより更に貴重だ。聖馬とも称されるこの一角馬はそもそもからして人間が目にすることすらまれである。

 ユニコーンは人間の中でも一〇代の生娘の前にしか決して姿を見せず懐かないという希少な馬だ。

 

 なので勿論人間の手によって飼いならされている頭数は非常に少ない。

 しかも諸々の条件から乗る場合にしても御者に関しても一〇代の生娘である必要がある。

 

 それ以外の者であった場合は男は勿論、例え女でも暴れ回りとても馬車馬としては使えない。

 だが相手が一〇代の生娘であれはその様相は一変する。

 柔らかい毛並みによる乗り心地はまるで高級寝具のようであり、一度駆ければ風の如く速く、それでいて乗り手に全く揺れを感じさせない。


 その特性もあってかユニコーンの牽引する馬車もやはり乗り心地は最高だ。

 魔導具も使用してない板バネの馬車であれば、山道の乗り心地は最悪だが、ユニコーン馬車は牽引する車体の揺れも軽減する。

 生物学者の間ではユニコーン特有のスキルか魔法のようなものによる効果だろうともされている。

 

 その為分類としては魔獣と評す学者もいるが、教会の認定によるユニコーンは聖馬とされる。

 この他にも聖獣や神獣と(馬だけは獣ではなく神馬などとされる)と呼ばれる種が存在するが、魔獣との違いは教会が認定するかどうかで決まっている。


 そんな希少なユニコーンは、上流貴族でも中々所持しているものは少なく、ペガサスに並んで王侯貴族が乗るような馬車でしか見られることはない。


 つまり、今現在山道を走るこの豪奢な馬車に乗っている者はそれなりの地位を有したものに限られてくる。


 勿論それだけの馬車故に前後だけではなく、左右も逞しい黒馬に跨った騎士然とした者が付き従っていた。

 

 特筆すべきは御者にしろ騎士にしろ、その全てが女性である事だろう。

 銀色の胸当てや鎧には馬車に刻まれているのと同じ紋章が刻印されている。

 

 山道は馬車と左右に馬が一頭ずつならんで少し余りあるほどの幅であり、地面はやはり平原などに敷かれる街道とは違い舗装などは全くされておらず、所々が凸凹に盛り上がった悪路でもある。

 ユニコーン馬車はその特性で悪路でも中の人間に快適さを約束するが、他の獣車はそうもいかず、なまじ引く力が強いせいか、乗り心地は決して良いとはいえなさそうであった。


「痛ッ! やだ、また舌かんじゃったよ」

「いやだ、スギルったらまた? もうこの道入ってから結構経ってるのに」

「そんな事言われても、こんなガタガタの道慣れるものじゃないよ~」


 そして馬車を挟むように走る獣車。その後方を走る箱車の中には三人の少女と一匹の狼が乗っていた。

 悪路に文句を言うは、犬好 杉瑠(いぬずき すぎる)

 黒髪を後ろで纏めポニーテールにした可愛らしい女の子だ。

 犬のような人懐っこい目をしており、口を開けた時に飛び出る八重歯がチャームポイントでもある。

 獣車に乗っている三人の中で最も小柄であり、動きやすいジャケットにショートパンツといった出で立ちで健康的な太腿を惜しげも無く披露している。


 そんな彼女に言葉を返したのは花愛 瑠乃(はなめで るの)

 若草色のローブに身に纏い、木製の杖を手にしている。

 髪は茶髪のセミロングで、薔薇の髪飾りをし、前髪はおでこが出るぐらいの位置で切り揃えられている。


 中々整った目鼻立ちで容姿は悪くはない。男性うけしそうな顔立ちである。


「全く、スギルは落ち着きがないのよ。本当犬じゃないんだから」

「え~、ナノちゃんってば酷いな~」


 スギルは足をパタパタさせながら口をとがらせて言った。

 

 そんな彼女を見てくすりと上品な笑みをこぼす。

 ナノカと呼ばれた彼女は姫岸 菜乃花(ひめきし なのか)

 三人の中では見目麗しいという言葉が最もしっくりくる美少女で、深窓の令嬢という響きがぴったりとはまる。

 

 美しく柔らかい亜麻色の髪はサイドでゆるく巻かれており顔は小さく、整った顔立ちをしている。

 吊り上がり気味の瞳からは気の強さも感じられるが、全体的な雰囲気からは育ちの良さを感じさせた。

 

 そんな彼女だが、他のふたりに比べると装備は若干物々しく、外で騎乗している騎士にも近い姿。

 ただ素材は彼女の方が良いようで、光沢のある白銀の鎧に腰には鷹の意匠が施された剣を帯びている。


「ま、そんなところもスギルは可愛らしいんだけどね」

「やった~、ねえルノちゃんナノちゃんに褒められちゃったよ~」

「はいはい。全くナノカはスギルには甘いわね」


 そんなタイプのかなり違う三人だが、かなり仲がよくお互い随分と気心の知れた間柄でもある。

 特にナノカはスギルを随分とかわいがっているようだ。

 

「でもナノちゃん、正直いえばあのユニコーンの馬車に乗りたいところなんじゃないの~?」

「……まあ、確かにユニコーンには興味がありますけどね」

「でも向こうは本物の(・・・)姫騎士様だし仕方ないよね」

 

 ルノの発言にナノカの目つきが若干鋭くなる。

 それにルノの顔が引き攣った。


「て、嫌だ気にしてた?」

「……別に。それに確かにルノの言うとおりこっちの世界では向こうの方が格は上ですしね」


 不服そうではあるが、ため息混じりにナノカが答えた。

 するとスギルがニコニコしながら。


「地球ならナノちゃんお嬢様なのにね」


 そんな事を言う。確かにナノカの父親は幾つもの会社を経営する敏腕社長でもある。

 だが、異世界に召喚された彼女達は救世主として期待されてはいるが、過去の地位などは流石に考慮されない。


「地球の事をこの世界で言っても仕方ありませんわ」


 そしてナノカはそれは重々承知しているようでもある。


「まあそうだよね。でも私達としてはこの護衛に参加出来てラッキーだったかもね、第五皇女とはいえ、お姫様だし。恩を売っておいて損はないし」

「え~でもどうせだったら私明智くんと一緒が良かったな~」

「またスギルは余計な事を……」

 

 そう言ってルノはナノカの顔をちらっと覗き見る。


「……私は気にしていませんわ。それに明智様がお決めになられたことですし文句などあるはずがありません。私達は粛々と明智様の為に行動するのみですわ」

「でも、小森のやつは切っちゃったけどね」

「それは仕方ありませんわ。この護衛の任務は女性限定でしたし、……あの男は正直好きになれません。それに皇女と懇意になれる可能性を考えれば、この依頼をこなした方が有意義なのは確かです。明智様も御喜びになるに決まっておりますわ」


 瞑目しつつ、淡々と語る。コモリは明智によって彼女たちのグループに割り振られたが、気に入らないという理由で勝手に置いて三人は出てきてしまった。

 聞かれた時はコモリが勝手に逸れたというつもりではあるようだが、そのおかげでこの護衛任務に参加できたのは確かである。


「……本当ナノカは明智に心酔しきってるよね。話してる時の顔つきも違うし」


 呆れ顔でルノが言う。

 彼女とて明智に多少は好意をもっているが、ナノカほどではない。


 そんな時ふとスギルが口を開き――


「う~ん、でもあの小森を切ったナノちゃんには感謝だよ~、だってあいつなんか暗いしキモいし、どことなくサトルを思い出しちゃうもんね~」


 その言葉に一瞬だけ場の空気が凍りついた。

 馬鹿っ! という目をルノが向ける。

 それにスギルも、しまった、という表情をみせるのだった。

 


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