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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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第一二一話 多すぎる報酬

 結局その後は、ギルド長であるハイル・ミシュバーンから今回の件に関わった冒険者全員に労いの言葉が告げられ、その後はナガレなど特に貢献度の高かった面々がギルド長室に呼ばれる事となった。


 ギルド長室に赴いたのは、ナガレにビッチェ、そして鋼の狼牙団のリーダーであるロウ、そして後からギルドにやってきたメルルである。


「何はともあれ皆様お疲れ様でしたね」


 そして改めてハイルからそう言葉を掛けられる四人であったが。


「いえ、私は少し皆様のお手伝いをしただけですから」

「……あれでお手伝いとか言われたら俺の立つ瀬がないけどな。正直ここに呼ばれるのも場違いな気がするし」

「……ロウ、それを言ったら私も同じ」

 

 ナガレの返しを耳にし、自虐的な笑みを浮かべるロウに、ビッチェも同意する。


 そしてメルルに関してはため息混じりに、やれやれ、といった様子でもある。


「……正直私は何故呼ばれたか判ってない」

「いやいや! 当然ナガレ君の活躍で助かったのも確かですが、皆さんの力も無視は出来ませんからね!」


 ギルド長は慌ててそう口にした後、コホンっと咳きし、組んだ腕を机に置いた。


「さて、既に皆さんにはある程度経緯は聞いておりますし、それに関してはマリーンも含めて職員全員で王都のギルド本部への報告書を纏めてもらっているところですが」

「……ギルド長は何もしないのか?」

「しますよ! いやいや別に私暇してるわけじゃないんで! 聞き取りしたりそれに王都まで出向くのは私ですから!」


 メルルが半眼で突っ込むと、ギルド長が慌てて弁解した。

 一応彼は彼なりに忙しいようである。


「とにかくその辺の話は終わったので、今お呼びしたのは昇級や報酬についてです。こちらもこれから精査させて頂きますが、先ず当然ですがナガレやロウに関しては間違いなく昇級や昇格という話にはなると思います」

「そうですか。ところでギルド長、ゲイに関してはどうなりましたでしょうか?」


 ナガレがギルド長に尋ねる。その質問に一瞬難しい顔を見せたが――


「ゲイに関しては、本来難しい立場でもあるのですが、この街を救っていただいたナガレ、それにまあビッチェにあそこまで言われてはね。操られていただけなのは事実ですし、とりあえず不問で今のランクを維持できるよう私も考えています。彼の立場上、私だけの一存で決められる話ではありませんが、まあ恐らくは大丈夫でしょう。私、そういうの得意なので」

 

 ニヤリと狡猾そうな笑みを浮かべてギルド長が答える。

 ナガレはとりあえずは良かったと安堵した。


 事情が事情だけに罪に問われることはないとはいえ、やはり特級冒険者としてみれば今回の件は失態を演じたと言えよう。

 

 その為特級の立場を維持できるか、そして今後の昇格に響かないかがナガレとしても気になっていたところである。

 

 ただ、これまでの功績もある為、それを踏まえた上でギルド長が上手くやってくれそうだ。


「さて、それで報酬の件なのですが、メルルに関しては正規な冒険者ではないのですが、やはりその魔法による力添えは無視できませんので、お金ではなく期間を決めての免税などで報酬の代わりとする事になるかとは思います。勿論どの程度になるかは領主であるレイオン伯と相談の上ではありますが、問題ありませんか?」


 ギルド長の問いかけにメルルはコクコクと頷いた。


「……お金を貰うよりそっちの方が嬉しい」


 魔導具店を経営するメルルとしては寧ろ願ったり叶ったりといったところなのだろう。

 

「それは良かったです。後は……ビッチェに関してはまた別の絡みもあるのでここでは言及を避けますが――」


 ビッチェをちらりと見やり、ギルド長はどこか含みのある言い方をする。

 そしてその視線をロウに移すが、それに気がついた彼が片眉を吊り上げ。


「――俺は報酬はいらない。正直そこまで活躍できたとも思っていないしな。今回の件に関してはナガレに殆どの権利があるだろう」

「いえいえ、それは困りますよ。それに私は最後にほんの少しお手伝いをしただけです。街の被害が押さえられたのもここの皆様やギルドの冒険者の力あってこそですよ」

「……それでもナガレの力は大きかった。とても看過出来るものじゃない」

「ビッチェの言うとおりですね。私自身が貴方の活躍をみておりますし。でもロウだって無報酬というわけにもいきませんよ。とりあえず今回街の為に動いてくれた皆さんには一定の報酬はお約束します。ただ――問題はやはり素材や魔核、それに討伐報酬ですかね」


 顎を擦り思案顔を見せるハイル。

 その姿を見ながらロウが腕を組み。


「それこそ迷う必要が無いだろ。それは全てこいつのもんだ」


 ロウの発言にメルルとビッチェも頷く同意した。


「……他の冒険者だって文句ないと思う」

「う~ん、しかし全てを私が倒したわけではありませんしね」

「まあ、確かにそこがあるのですよね。ただあの状況の最中、自分が倒した魔物を数を覚えているのもおりませんし、それにふたりの言うように今回の件でナガレ君が報酬を受け取る事に異を唱えるものはいないでしょう」


「……そもそも、報酬っていくら?」


 すると、ふとメルルが興味が湧いたのかハイルに尋ねる。

 すると、ハイルは苦笑し。


「流石に細かい金額は出ておりませんが――ざっとで三〇〇億ジェリーぐらいになる計算なんですよね」

 

 ナガレ以外の全員の目が見開かれた。正直彼らにとっては見たことも聞いたこともないといった金額であろう。


 ちなみにナガレは物価などの違いもある以上、貨幣の価値を彼のいた世界と比べることにあまり意味は無いとは考えているが、それでも大まかにいえばこの世界の一ジェリーの価値は大体一〇円程度という認識は持っている。


 つまり今回の報酬はナガレのいた世界でいえば三〇〇〇億円だ。これだけでどれだけとんでもない報酬なのかが判るだろう。


「……そんな金額払えるの?」

「払えるわけないでしょう! 無理です無理です! なのですみません、払うにしても一括ではなく分割でという話に――」


 ハイルがナガレに顔を向け若干下手に出る形で、お願いしてくる。

 何せ金額が金額だ。勿論素材などを売り切れればギルドにも利がある話なのかもしれないが、量が量だけにそう簡単に売りさばくことも出来ないだろう。

 

 故に、支払いを分けたいという話なのだろうとは思うが――


「その前に、紙とペンをお借りしても宜しいでしょうか?」

「……は? いや、それは構いませんが」


 そう言ってハイルは机の上の羽ペンとインク、それに机の中から数枚紙を取り出した。

 ナガレはそれを受け取り、スラスラと何かを記入していく。


「はい、こちらに皆様が倒した魔物の種類や素材の内訳を記入させて頂きました。これをどうぞ参考になさってください」

「え!? いや、内訳って――そんな事が判るのですか?」

「はい。自分の倒した分は覚えてますし、後は倒された魔物を見て判断できましたし記憶力はいいほうなので」


 皆が一様に驚いているが、壱を知り満を知るナガレであればこの程度造作も無いことなのである。


「そ、そうですか、そこまで言われるのでしたら。いや、でもその分を差し引いてもナガレへ支払う額はかなりのものですけどね」


 ハイルがそう口にすると、ナガレは一考し、でしたら、と口にした後言葉を続けた。


「本来私が貰う筈だった金額に関してはとりあえずギルドから頂ける分だけで結構です。ただ、その代わりに私から何か頼みたいことがあるときには尽力して頂けませんか?」


 ナガレの発言にハイルは目を見張った。 

 何せその発言をそのまま受け取るなら、本来受け取る権利のある三〇〇億ジェリーという大金を殆ど放棄するという事である。


「お前、本気か? 三〇〇億だぞ? ギルドだけで払える金額なんて億にも満たないだろう。それでいいって……」

「……ナガレ太っ腹すぎる」


 ロウが信じられないものを見るような目でナガレを見やり、ビッチェも少々呆れたような声

で言ってくるが。


「いえいえそんな事はありませんよ。私は別にただ善意でもうしてるわけではありませんしね。ただ今の私にとってはお金という形で頂くよりは、大きな貸しという形で見てもらったほうが都合がいいというだけの話です」


 ナガレは、相変わらずの柔和な笑みを浮かべながらも、貸しの部分に関しては強調した。

 それにハイルの表情が引き攣る。

 何せ相当な金額を貸しにすると言っているのだから、一体今後どんな要求を言われるのかと気が気ではないのかもしれない。


 とは言え――ハイルも嫌とは言えない様子。

 

「……わ、判りました。不安もありますが、ナガレ君の功績を考えるとね。それに流石にこの金額は分割とはいえどう捻出しようか正直言うと困っていたので、そう言って頂けるなら助かります」

 

 我が意を至りといった様相で微笑むナガレ。ただ、彼とて別にそこまで無茶を言う気などは毛頭ない。

  

 金銭面では正直ナガレ式の使用量なども含めて、相当に潤っており困ってはいないのだ。

 それならばこういった形でギルド長に恩を売っておいたほうが後々何かと役立つこともあるだろうとそういう考えなのである。


「……そういう事か、流石ナガレ。ならばハイル、この件はしっかり書面として残す」

 

 ビッチェに言われ、え? と戸惑い気味に返すハイルであるが、ビッチェに鋭く睨まれ。


「わ、判りました。確かにそうですね。それでは私の方で――」

「……何を言っている? 今回のインキの件は、ナガレがいなかったらこの街だけの問題では済まなかった」

「……確かに、もしナガレの助けなければ、この街壊滅、そして余波は王国全体に」

「確かにそうだな。俺もそこは否定が出来ないぞ」


 う、ぐ、とハイルの顔が青くなり、そこへ更にビッチェが詰め寄った。


「先ずギルド長からしっかりと王都のギルドマスターに報告。ギルドマスターを通じて国王の耳にも届かせる。その上で国としてナガレに何か困った事があった時は、全力で支援することを誓わせる。勿論書面としても残す。それぐらいしなければ吊り合わない」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい。いくらなんでもそこまで」

「……私がそこまで必要と判断した。この意味、判る?」


 妙な迫力を帯びたビッチェがハイルに更に詰め寄る。

 有無を言わさない雰囲気が感じられた。

 あぐ、と喉を詰まらすハイルだが、結局ビッチェの迫力に負け、進言すると誓ってくれた。


 するとビッチェは満足気に鼻を鳴らし、そして皆を振り返る。


「……いや、そもそもお前何者なんだ?」

「――女はミステリアスな方がモテる」

「……ビッチェ、相変わらず」


 怪訝そうに尋ねるロウに、結局答えを示さないビッチェであるが。


「何か気を遣わせてしまったみたいで悪いですねビッチェ」


 ナガレにお礼を言われ照れるビッチェであった。


「さて、報酬の件は以上となります。後は先ほども申し上げたように、昇級と昇格に関してはこれから精査致しますが――ナガレ君に関しては私ではなくまた別の者から近々お話があると思いますので……」


 ハイルはビッチェを気にかけながらも特にナガレに向けてそう述べる。

 

「それと、流石に今はバタバタしているのでもう少し落ち着いてからになりそうというお話ではありますが、ナガレ君も含めて、特に今回活躍された皆さんには、後で領主であるレイオン伯爵より皆様を労う為、屋敷への招待状が届くと思います。私の方から強制するわけにはいきませんが、その際は出来るだけ赴いて頂けるようよろしくお願い致します」


 こうして最後にギルド長であるハイル・ミシュバーンからそう告げられ、とりあえず一様に納得を示した後、全員その場を後にした。





「ええぇえぇええええ! 三〇〇億を断ったのナガレ!」


 ピーチの驚きの声がギルド内にこだました。

 当然だが、その場にいた冒険者がそれを耳にし、一瞬場が騒然となる。


「……ピーチ驚きすぎ」

「ご、ごめんなさい、つい。でも、流石に金額が凄すぎて――」

「凄いです! 流石先生! 中々出来ることじゃありませんよ!」

「金額が大きすぎて頭がくらくらしそうなのです」

「う~ん、そもそも三〇〇億を提示される機会がおいらたちにはないしね」

 

 正直金額が途方もなさすぎて想像することも難しいといった様子ではあるが。


「完全に放棄したというわけではありませんからね。ギルドから三〇〇〇万ジェリーは支払われますし、個人的にはそれ以上に大きな約束を取り付けることが出来ましたので」


 ニコニコと皆に告げるナガレである。


「でも三〇〇億が三〇〇〇万ぐらいで済むならギルドも儲けものよね」

「こらこらピーチ。貴方ちょっと感覚がおかしくなってない? 三〇〇〇万ってとんでもない金額だからね。本当、聞いてると私も何か変になりそうよ」


 呆れ顔でマリーンが言う。確かに三〇〇〇万でも報酬としてみればかなりの金額である。


「ナガレには感謝してるわん。あたしのランクに関しても色々言ってくれたみたいで、本当――このお返しはあたしのボディで!」

「あ、それは遠慮しておきます」

「う~ん、つれないわねん」


 そんな中、近づいてきたゲイがナガレに感謝の気持ちを示してきたが、体で返してもらうのは御免被りたいナガレである。


「……ところでナガレ、ちょっといいか?」


 そんな話をしていると、ビッチェがナガレに誘いの言葉をかけてきた。

 どうやらギルドから離れて話したい様子でもあるが。


「ちょ、ちょっと待ってよビッチェ! ナガレとふたりで何をする気!」

「そうだぜ! お前さては先生をたらし込む気だな!」


 だが、ピーチとフレムが横から口を挟み、ビッチェに詰問する。


「……それは――」

「ビッチェ、ピーチは私の仲間ですし、フレムにも色々協力頂きました。ビッチェが嫌でなければ皆さんも一緒に話を聞いてもらえればと思いますが如何でしょう?」

「……いいのか?」


 それにナガレが、はい、と答え、そしてナガレにピーチ、フレム、カイル、ローザがギルドを出て少し外れた場所まで移動した。


「私達も良かったのでしょうか?」

「そうだね。まさかナガレっち、証人になって欲しいとか?」

「な、なんの証人よ何の!」

「俺の目の黒いうちは先生に指一本触れさせないぜ!」


 何か妙な勘違いをしていそうな皆を目にし一つ息を吐き出しながらもビッチェはナガレを見つめた。


 それにナガレも視線を合わせ。


「な、なんで見つめ合ってるのよ――」

 

 どこか心配そうに呟くピーチであるが。


「……ここまで呼んだのは、私から先ずナガレに確認しなければいけない事があったから」

 

 確認? と全員が疑問符を頭に浮かべる。

 

「どうぞ。私で答えられることなら、なんでも答えますよ」


 そしてナガレもビッチェに応じる姿勢を見せた。

 するとビッチェは一旦瞑目し――そして再びまぶたを開き彼に尋ねた。


「……ナガレ、貴方、もしかしたら異世界から来たのではないか?」


ナガレの回答は……

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