ヴァレンタイン特別編
思いついて書いちゃいました。
もうとっくに過ぎてますけどね……
そして自分は今年も貰えませんでしたけどね!
ちなみに本編との繋がりは一切ないおまけ話です
この世界に於いて絶対神と呼ばれる者は、唯一創造神たる創神デアソフォスだけである。
さらにこの世界中に存在する教会は全て(一部の邪教を除けば)創神デアソフォスを崇めしソフォス教に属している。
だが、それとは別に、絶対神の下に存在するという副神の存在も人々に認知されている。
例えばこの世界に知識ある種族が生まれた際に、彼らに貨幣を伝え、その使い方を教え、そして商売とは何かという基本的な事を伝えたとされる商神トルネーコ。
人々に戦い方を教え、スキルやアビリティを与えたとされる戦神アントニオス。
魔法について基本的な事を教えて、その学習方法などを伝えたとされる法神サスオニ――
こういった神々に商人であれば商売繁盛を商神に願い、冒険者は戦いの勝利を戦神に誓い、魔術師であれば新たな才知を授かれるよう法神に祈った。
そしてそんな中、この日、そう毎年二月一四日に女性から特に祈られる神がいた。
愛神ヴァレンタイン――人々に愛の素晴らしさを教授したとされる女神だ。
そしてこのヴァレンタインが愛を語った日がこの二月一四日とされており、元々は女神ヴァレンタインが好んだとされる甘味をこの日に捧げる事で想い人と結ばれたというのが始まりである。
だが、いつしかどこぞの菓子職人がチョコレートなる菓子を作り上げ、そしてそれを少しでも多く売るためにヴァレンタインの名前を利用、もとい借り受けたことから、二月一四日は女神に捧げ清めたチョコレートを想い人に捧げる事で恋が成就するという噂が広まったのだという。
そして、今、とある魔導具店に於いて、このヴァレンタインを巡った一つの戦いが始まろうとしていたわけだが――
◇◆◇
「というわけでメルル~~~~! チョコレートの作り方教えてよ~~~~!」
ピーチが店に入るなり、そんな事を叫びあげた。
すると奥から紫がかった黒髪を靡かせ、相変わらずの蠱惑的なプロポーションを誇るメルルがその姿を見せた。
「……チョコレート? ピーチも、ナガレに贈る?」
「な!? な、なんで判るのよ! いや、そうじゃなくて! これはほら、あれよあれ、最近流行りのお礼チョコ? 日頃のお礼にね。だ、だからこ、恋とか愛とか、そ、そんなの関係ないんだからね! て、え? 私、も?」
両手を振り、サイドで纏めた桃色髪を振り回しながら、必死にごまかそうとするピーチ。
しかし、自分以外にも誰かいるのか? と問いかけ怪訝な顔を見せると、コクコクとメルルが頷いた。
「……ピーチも教わりに来たのか」
「て! ビッチェ! 貴方も来ていたの!?」
「……いや、あの、実は私もなんだよね……」
「マリーンまで! そもそもなんでここ知ってるのよ!?」
「前ピーチに彼女がお菓子作りが得意だと聞いてたし、それにたまに依頼してくれてるのよ。ビッチェさんとは初めてあったけど……」
そういいつつマリーンはビッチェの胸に着目し、自分の胸を揉んで見る。
「私が小さいんじゃない……彼女とピーチが大きすぎるのよ……私だって美乳とか言われてるんだから――」
ぶつぶつと悔しそうに呟くマリーンである。
「あ、あの実は私も――」
「ローザ!? え? まさかローザ……」
「あ、はい……前に助けてもらったお礼もありますし」
「フレムに贈るのね!」
「いや、それは全然」
真顔できっぱり言われるのだった。
「……奥にエルミールもいる」
「エルミールも! あ、そういえばエルミールにもお菓子分けたんだっけ……」
スイートビーの蜜でお菓子作りした際、焼き菓子を届けた事を思い出すピーチである。
そしてその時にメルルの事も教えたのだ。
「……で、どうする?」
「決まってるじゃない! 私もチョコレート作るわよ!」
「……メルルの家のキッチン広い。全然大丈夫」
「それにみんなで作ったほうが楽しそうですもんね」
「まあ、そうね。でもピーチ料理なんて出来るの?」
「あ、マリーン馬鹿にしてるでしょ? こうみえてメルルのお菓子作り手伝ったこともあるんだからね! まあ見てなさい!」
というわけで全員でキッチンに向かった。
「わあ、皆さんもチョコレート作りを教わりにきたのですね~」
「ま、まあね。でも驚いたわね。エルミールもチョコレートとか作るんだ」
「はい。といっても初めてですが――来てくれたお客様に配ろうと思って」
ニコニコと相変わらずの人懐っこい笑顔を浮かべながらエルミールが応える。
「ふむふむ、て、事は、その、ナ、ナガレにというわけではないのね!」
「ナガレさんですか? あ、でもそうですね。折角ですので――」
しまった! という感情が見事に顔に出たピーチである。
ライバルが増えたと思ったのだ。
「……ところでエルミールはスチールには渡すの?」
「あ、はいスチールさんもよく来てくれますので」
「へえ……それはやっぱり少しは、そ、そういう気持ちとかあるの?」
「え? そういう気持ちってなんですか?」
首を傾げて本気で判ってないエルミール。
その姿に、可哀想に、とスチールを憐れむピーチであった。
「ところでマリーンは誰に渡す気なの?」
「え? あ、うんナガレにだけど、で、でも他意はないわよ。ま、まあせっかく知り合えたわけだしね」
そんなマリーンを怪しいといった目で見やるピーチである。
「な、何よ! べ、別にいいでしょ! こういう日なんだし」
ピーチはマリーンにも負けられない! と執念を燃やした。
「……私はナガレに私を贈る」
「ビッチェ何言ってるの!?」
思わず目を見張るピーチ。しかしビッチェは既に自分の身体にチョコレートを塗り始めていた。
「仕事はや! いや、てかなんで身体にチョコ塗ってるのよ!」
「……特精のビッチェチョコレート」
「特精じゃないわよ! 発音もなんかおかしいし! だいたい贈るなら食べられるものを贈りなさいよ!」
「……私を食べて」
「そういう意味じゃなーーーーーーい!」
指を加えて嫌らしく口にするビッチェにピーチの突っ込みが激しさをました。
「はあ、はあ、と、とにかく全身チョコは駄目よ! 第一どうやってナガレの下まで届けるつもりだったのよ全く」
「……ちぇっ」
本気で悔しがるビッチェである。
「それで、ロ、ローザは?」
「あ、はい私は普通に。お世話になってる気持ちですよ。安心して下さいね」
「え? い、いやだ! 私だってそういうのよ! お世話になってる、気持ちというか! と、とにかく作るわよ!」
こうしてそれぞれがそれぞれの想い人(主にナガレ)に向けて手作りチョコに取り掛かり――
「……出来た」
「へえ、ビッチェ早いわね」
感心しながらビッチェのお手製チョコを覗き込むピーチだが――
「いや、これなに?」
「……特精おっぱいチョコレート」
それはまさにビッチェの胸をそのまま象ったような見事なチョコレートであった。
食感がプルンプルンになる材料も加えたことで、ビッチェの大きく、そして美しく、形の整った、魅惑的な弾力性のある胸が再現されている。
「て、なんでそっち方面にしか行かないのよ~~~~!」
「……テヘッ」
「てへじゃない!」
ビッチェに対する突っ込みでかなり疲れたピーチである。
しかし完成してしまったものは仕方ないので作りなおさせる事は諦めた。
「それでマリーンはどうなの?」
「私はこれね。貝型チョコレートよ」
「……なんかハート形に見えるわね」
「き、気のせいよ! 貝殻よ貝殻!」
あくまで貝殻だと言いはるのだった。
「でもマリーン。お世話になってるというなら他の冒険者には渡さなくていいの?」
「は? なんであんなギラギラした連中に渡さないと行けないのよ。ただでさえしつこいのに」
マリーンは心底嫌そうに語った。ゴッフォあたりの所為を思い出せばそれも致し方無いかといったところでもある。
「ローザは、あ、ケーキにしたんだ」
「はい。こういったのもいいかなと思って」
「へえ~そうなんだ……」
ローザの作ったケーキを眺めながらよだれを滴らせるピーチである。
「あ、味見します?」
「本当に!? ありがとうローザ!」
「……本当ピーチは食いしん坊ね」
そんなピーチに呆れ顔のマリーンなのであった。
「私も出来ました~」
嬉しそうに言うエルミールにピーチが反応し。
「そういえば先に来ていたのにエルミールってば結構掛かってたわね。もしかしてかなりの力作?」
「あ、いえ初めて作ったからちょっと手間取ってしまいました」
「へえ……」
そういいつつもつい眉を顰めてしまったピーチ。
何故なら、チョコレートは配りやすさを考えて一口サイズに統一されているのだが――凄く、緑なのだ。
しかもかなり毒々しい緑なのだ。
「……ねえエルミール。これ、材料何使ってるの?」
「はい、食べる方の健康を考えて特別に調合したアオジールなどのお薬を加えてみたんです!」
弾けたような笑顔で語るエルミールに顔が引きつるピーチ。
まさかチョコレートに薬を入れるとは思いもしなかったのだろう。
「あ、よかったらおひとついかがですか?」
「……え?」
思わず額に汗が伝うピーチだが、直前にローザのを試食してるだけに嫌とも言えない雰囲気である。
「じゃ、じゃあ一つだけ……」
仕方ない、と覚悟を決め、ピーチがエルミールのチョコを摘み、そして、あ~ん、と口の中に放り込み――
「ゲふぅ!」
わりとリアルな拒絶反応を示した。
口元を押さえ、床に蹲り目に涙が溜まっている。
だが! 頑張って飲み込んだ!
「……ピーチ偉い」
「はあ、はあ、はあ――」
そんな中、肩で息をするピーチに近づき。
「あの……もしかしておいしくなかったですか?」
耳を垂らし、悲しそうな顔を見せるエルミール。
その姿に心が傷むピーチであり。
「お、美味しかったわ!」
「わあ! 良かったです!」
結局真実を伝えることが出来ず、心のなかでスチールに謝るピーチであった。
「ところでピーチは出来たの?」
「勿論よ! ほら!」
言って自信満々にチョコの乗ったトレイを見せるピーチだが。
「……ピーチも意外と大胆」
メルルにそう言われ、はい? と不思議そうな顔を見せるピーチであり。
「貴方ビッチェにあれだけ言っておいて自分はお尻をチョコにするなんて――」
「はあ!? ち、違うわよ! これは桃よ! 桃なのよ!」
ちなみにこの世界にも普通に桃はある。そして、ピーチが作ったチョコレートは桃っぽさを出すために膨らみを強調した立体感ある作りなのだが――
「で、でも確かにおしりに見えますね」
「お、おし、おし、おししいし」
「……私のお尻をナガレに上げる? ピーチ流石」
「だ、だから違うんだってば~~~~!」
そんなわけで色々ありながらもチョコレートを作りあげた女性陣。
エルミールはお店があるため、ナガレの分だけをピーチが預かり(どうしようと悩むピーチだが)マリーンは休みという事もありローザやビッチェも一緒に宿に戻ったのだが――
「ナ、ナガレいる~~?」
ナガレの部屋をノックしながら問いかけるが反応がない。
どうやらいないようだ。ピーチも今日はヴァレンタインのことがあり別行動だった為、ナガレはどこかに出ているようである。
「う~んどうしようかな」
「だったら少し時間つぶしに行く? この時期だけ限定のスイーツ出してるお店私知ってるし」
「行く! 絶対行く!」
「……問題ない」
「あ、じゃあチョコレートはどうしましょうか?」
「え~と、あ、じゃあローザの部屋で預かってもらっていい?」
「はい大丈夫ですよ~」
と、いうわけでローザの部屋にチョコを置かしてもらう事になり。
「あ、そういえばフレムとカイルは?」
「カイルは弓の調整に、フレムはナガレ様に教わった事を元に技を試したいって狩りに言ってるんです」
「へえ~」
そんな会話をしながらもマリーンオススメの店に向かう一行であった。
「お~いローザいるか? て、留守か……鍵も掛けないで不用心だな、て、うん?」
「ご、ごめんなさい! 鍵をかけ忘れるなんて!」
「し、仕方ないわよ。それより急ぎましょう!」
「まあ、チョコレートなんてわざわざ盗む人もいないだろうけどね」
「……盗まれてたら切る」
期間限定スイーツを食べ終えた直後にローザが鍵をかけ忘れたことに気がつき大慌てで宿に戻る四人である。
そして――
「おおローザ戻ってきたのか、て、なんだよぞろぞろと」
「あ、ゴメンねフレム、今、それ、どころ、じゃ……」
「あん? なんだ急いでんのか。いや、それよりお前! なんだよこのチョコレート! 胸とか尻とか、そりゃお前がスタイルに自信がないのもわかるけどよ。ま、まあ全部美味かったけどな」
そういいながらチョコレートを一人で頬張るフレムの姿がそこにあったのだが――
「さて、と」
「……コロス」
「ナイフを持参していて良かったわね」
ピーチが杖を素振りし、ビッチェがスラリと剣を抜き、マリーンはスカートの中からナイフを取り出し。
「え? あ、あれ? な、なんだよおい――」
冷や汗がダラダラと流れ落ちるフレム。
そんな彼にローザがニコリとほほ笑み宣告した。
「さようならフレム」
その日を堺にフレムの姿をみたものはいない――(三日ほど)
流石のフレムも緑色の毒々しいチョコには手を出してなかったようです。




