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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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第一一〇話 袖振り合うも多生の縁

 西門前では暫しざわめきが止まなかった。

 一時は突然の化物の出現に、絶叫し、震え、この世の終わりがやってきたかのごとく、兵士達の表情が絶望に満ちていたものだが――


 だが、その直後、突如化物の目の前に何者かが飛び上がり、かと思えば何か腕のようなものが、にょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょき、背中から生え、かと思えば一瞬で、それこそ兵士たちが瞬きしてる間に、パーーーーン! という快音が重畳し、広がり、そして化物の姿が視界から消え失せてしまっていた。


 その様相に、一体何が起きたのか? とあちらこちらから憶測が飛び交う。

 

「何者かの魔法ではないか?」

「いやきっとあれは超すごいSランク冒険者の所為だ!」

「いやいやあれはもう神の天罰だ! それ以外考えられない!」


 そんな中、壁際で腰を落とし、身体を休めているメルルに一人の若い兵士が駆け寄り、大丈夫ですか? と飲水の入った木製のコップを差し出す。

 年の頃は一六か一七か、まだまだ幼さの残る兵士に手渡されたコップをメルルは受け取り、ありがとう、と告げコップに口をつけた。


 こくこくと喉を鳴らす姿に、若い兵士は思わず赤面しその様子に見惚れてしまう。


 声の抑揚も少なく、表情の変化も乏しい彼女だが、一つ一つの所作はビッチェに負けないぐらいに艶めかしく、情欲を掻き立てるものである。


 そんな彼女と接するには、色々と経験の浅い若い兵士には少々刺激が強すぎると言える。


 すると中の水を飲み干したメルルの目が、兵士に向けられた。

 口元からこぼれ落ちる水滴がなんともいやらしくも思えるが、兵士は何かを気取られるのを恐れたのか、慌てて目を逸らしごまかすように言った。


「そ、それにしてもすごかったですね。空を腕が覆うとか初めてみましたよ。い、一体なんだったんでしょうかあれは?」

「……彼よ」


 すると、兵士の言葉に反応し、メルルが遠くを見るような目で呟いた。

 彼? と若い兵士は反問する。


「……冒険者よ。そのおかげで、この街は救われた」

「え? という事はやっぱりSランク冒険者があそこに?」


 すると、メルルは若い兵士に顔を向け、わずかに口元を緩ませ答える。


「……Sランクではないし、彼、レベル0、らしいわ」


 いっ!? と驚嘆する兵士。冒険者の間ではレベル0の凄い少年がいると囁かれ、中々に有名な彼であるが、兵士にはまだ知らないものも多く、特にこの若い兵士のような新人では、初めて耳にしたとしてもおかしくない。


「そ、それ冗談ですよね?」

「……信じる信じないは自由よ。これ、ありがとう」


 メルルは改めてお礼を述べ、コップを兵士に返した。

 それを受け取った彼は、メルルの口がついた部分に思わず視線を落とし、頬を赤く染めるが。


「おい! いつまでやってるんだ! 早く戻ってこい!」


 背後からの先輩らしき兵士の声にビクンッ! と肩が上下し、それを認めたメルルが、

「……もう大丈夫、落ち着いたから」

と彼に告げた。

 

 すると、では何かあったらまた気軽にお呼びください! と若い兵士が伝え、そして先輩の下へ戻っていく。


 その背中を見送った後、メルルは再びナガレがいるであろう方向に目を向け、……流石ね、と呟いた。


 そして――当然ではあるが、若き兵士によって持ち帰られたコップを巡って、衛兵たちが熾烈な争いを繰り広げることとなったのは言うまでもない。





「――これ、生きているのか?」


 ロウがインキの成れの果てを見下ろしながら、疑問の声を発した。

 実はこのロウ、インキとナガレが戦い始めた時には既に意識を取り戻していたのだが、そのあまりの戦いぶりに圧巻され、瞬きすることすら忘れ、ふたりの戦いに見入ってしまっていた。

  

 そして――戦いが終わり暫く呆けた後、ようやく正気に戻り、インキの様子を見に来たわけだが。


「生きておりますよ。彼にはこれからしっかり罰を受けてもらう事になるとは思いますが、それはこの国の仕事でしょうしね」

「……いや、生きているといっても死んだ方がマシじゃないのかこれ?」


 既に原型を留めていないインキを眺めながら、ロウは憐れむような顔で言った。

 やってきたことは屑そのものだったインキだが、ここまでの状態となると少しは同情心も湧いてしまったのかもしれない。

 そして、これだけやられてしまっては、聖導門による治療魔法でも回復しきれないだろう。


 一応国も、尋問などを行うためある程度は回復させようとするだろうが、それにしても死ぬほどの激痛に苦しみ続けなければいけないし、それで多少でも口が聞ける程度まで治っても、間違いなく死刑だ。

 

 尤もそれは自業自得言えるわけだが。


「ビッチェ、その、大丈夫ですか?」


 そしてナガレは直ぐ側に立つビッチェを気にし声を掛ける。

 ただ、ナガレの道着にも守られていたし、魔核を吸収された魔物も当然事切れているため、戦ってる間の事は心配ない。


 とは言え、ゲイとの対戦によるダメージがまだ残っているかもしれないので、無理は出来ないとは思うのだが……。


「……うん、この匂い、癒される」


 ビッチェはナガレの道着をクンカクンカしながら、どこか幸せそうに応える。

 そしてナガレの大丈夫の意味は、匂いをかぎ続けるビッチェを心配しての事でもあるが。


「……とんだ変態だな。それにしても――上には上がいるものだ。今日ほど俺は、自分の未熟さを痛感した日はない」

「……というかロウ。いつまで人狼化してる?」

「おっと、そうだったな。ナガレといったか? 一応言っておくが、俺は今はこんな姿だが、人間だからな」

「ええ、存じてますよ」


 壱を知り満を知るナガレだ。当然ロウの今の姿がスキルによるものだと判っている。

 彼の持つ化獣転狼は、いわゆる自己暗示によって自らの姿を人狼に変化させるスキルである。

 

 そしてロウはスキルを解き、その姿がみるみるうちに人間に戻っていく。

 ナガレもこれは中々面白そうだなと興味深くその変化を眺めていた。

 尤もナガレであれば、やろうと思えば人竜にだってなれるだろうが。


「ふう、やっと楽になった。あの姿はステータスは向上するが、その分体力の消費が激しいのが欠点だな――」


 肩を揉み、コキコキと首を鳴らしながら多少の不満を口にする。

 ただ、その能力のおかげで、ナガレがくるまである程度魔物を食い止めることが出来たわけだが。

 

「う、う~ん、あら? あたし一体どうして――あ! そういえばあのゲス野郎! くっ! どこよ! どこにいるの!?」


 すると、ようやくゲイも気を取り戻したようで、蹶然し、キョロキョロとあたりを見回す。

 どうやら前後の記憶があまりはっきりしていないようだが。


「ゲイ、目覚めましたか。ダメージもあまり残っていないようで良かったです」


 ナガレが安堵の笑みを浮かべゲイに告げる。

 尤もゲイを倒したのはナガレ自身なので、その辺りも当然考慮していたわけだが。


「あら? 嫌だ、なんでナガレここに? と、いうか、ここは一体どこかしらん?」


 すると、不可解といった顔で声を発するゲイであり、ナガレ達は事の顛末を彼に教えてあげた。


「……なるほどね。じゃあここに転がってるのが、あたしに魔物を寄生させたインキってわけねん」


 顎を擦り、変わり果てたインキを見下ろしながら言う。

 そして片眉を吊り上げ、ふぅ、と僅かに息を吐き出した後。


「それにしても凄いわねん。全く、なんならあたしも五、六〇発これで殴ってやろうかと思ったけど、流石にこの姿を見るとそんな気はおきないわん」

「……そんな槌で殴ったら、色々砕ける」

「そうね、大事なものだけでも砕いちゃおうかしら」

「……それはそれで死ぬと思うぞ――」


 とりあえずゲイはハンマーをやめて、脚で踏み潰すぐらいで留めたようだ。

 ただ、実はそれはもう既に砕け済みだが。

 

「でもナガレ、あたしもうすっごく感動しちゃったわん。まさか、ナガレがそこまで、あ・た・し、の事を思っているだなんてねん」


 両腕を後頭部に回し、くねくねと腰を動かしながら、濡れた瞳でナガレを見やるゲイ。

 回答次第ではすぐに抱きついてきそうだが。


「袖振り合うも多生の縁といいますしね。放ってはおけませんよ」


 ナガレがそう応えると、袖すり……? と頭にクエスチョンマークを浮かべるゲイである。

 わりとナガレのいた地球にも通じる言葉が多いこの世界ではあるが、それでもやはりことわざまではわからないようだ。


「……ナガレ、どういう意味?」


 首を捻るゲイを他所に、ビッチェがナガレの腕を掴みつつ言葉の意味を尋ねた。

 なので、ナガレは素直に教えてあげるが。


「……素敵、凄く、いい言葉――」

 

 何かが心の琴線に触れたのか、ビッチェは濡れた瞳でナガレを見つめそう口にする。


「……盛るんだったら事態の収拾が完全についてからにしてくれ」


 すると横からロウが呆れ顔で口を挟んだ。


「そうですね。インキは倒しましたが、街の住人も不安がっているでしょうし、早めに知らせた方がいいでしょう。騎士団や兵たちも色々忙しくなるでしょうしね」


「あらん、だったらあたしの聖なる男姫のメンバーも呼んで手伝ってもらわないとねん」

 

 ナガレの発言に、ゲイが誰かを思い浮かべるようにして口にするが。


「いえ、ゲイ、聖なる男姫のメンバーは別の依頼で今はアロン鉱山に向かってますよ。インキの話を聞く限りはそれも彼が企てた事のようですが」

「……そういえば俺の鋼の狼牙団もそっちに向かってるが、まさかこいつの作戦だったとはな」

「……ナガレ、いかなくて大丈夫?」


 ビッチェが少し心配そうに彼に尋ねる。

 彼女はピーチが傍にいないことから、何かを察したようだが。


「ええ、大丈夫ですよ。それに私が信じると言って託してきましたからね――」


 アロン鉱山に身体を向け、ナガレが言う。

 それは不安など微塵も感じていない、信頼しきった表情であった――

インキとの戦いは決着がつきましたが鉱山の方はさて……

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