第一〇〇話 魔物を随えしもの
本日で記載上の話数が一〇〇話達成!
そして今後の事について後書きにてご報告が。
よろしければご確認頂けますと幸いです。
「……くっ」
変異種の大群に囲まれ、思わずビッチェが歯噛みした。
先程からかなりの数のグレイトゴブリンなどの変異種を仕留め続けているが、さっぱり数が減らない。
しかも相当数の街へ向けての浸出を許してしまった。
先ほど一顧した限りでは、メルルが踏ん張ってくれているようでもあるが、分が悪い状況に変わりはないだろう。
「――狼爪飛斬!」
しかし、それでも諦めるわけにはいかない。
それはロウとて同じであった。
一度はマウンテンゴブリンの攻撃を受けたロウであったが、すぐに戦線へ戻り、戦いを繰り広げている。
爪を振るうと、爪形のカマイタチが魔物たちを切り刻んだ。
しかし正直相手が悪い。グレイトゴブリンはともかくマウンテンゴブリンに関してはただデカイだけではなく、HPもこの変異種の群れの中では最高だ。
ロウも連続して特技を繰り出すが、決定打にはなっていない。
相当に厄介な相手だ。
唯一救いなのは動きが鈍重なところだろう。
おかげで何体かが既に街に向けて動き始めているが、ジェロニモ達が戦いを演じる場に到達するにはもう少し掛かりそうだ。
しかし、かといって彼らの援護に向かう余裕などないのも事実。
魔物は倒す度に変異種と化していく。
だが、倒さなければ街への接近を無駄に許すだけだ。
正直、街に接近してから衛兵などに倒され変異種として再生される方が遥かに厄介である。
「……仕方ねぇ。【化獣転狼】!」
ロウが声を張り上げ、スキルを発動。
すると、彼の姿が一変、体毛が伸びフサフサとなった毛並みとそして狼の如き様相――
その姿はまさに人狼。
爪も装備品ではなく、自前の爪を伸ばしマウンテンゴブリンに襲いかかる。
「狼爪嵐武!」
旋回しながら爪を振るい、マウンテンゴブリンの足元から頭まで、全身を切り刻みながら跳躍した。
ここにきてアビリティの重畳の効果も生きてきている。このアビリティは自動で攻撃に攻撃を重ねてくれる。
つまり手数が倍になる。
そしてマウンテンゴブリンの頭上まで飛び上がったロウは、そのまま目標を見下ろし、天を蹴りとどめとばかりにスピンしながら今度は逆に頭蓋から股下までを突き抜けた。
「螺旋狼牙爪――」
着地し両腕を交差させ、静かに呟く。
重苦しい音が彼の背後から鳴り響き、そしてマウンテンゴブリンが地面に倒れた。
「……あいつ、やる。なら、私も、【アバターリベレイション】――」
ロウの戦いぶりを認めつつ、ビッチェがスキルを使用。
すると、彼女の身体が四体に分かれた。
つまり分身である。
しかし――
「……スネークハンティング」
「……スネークモールランス」
「……スネークバインドミキサー」
「……スネークチェインライトニング」
四人それぞれの放った技が、別々の変異種へと繰り出された。
伸長した刃がデュアルホーンライトニングの身を引き裂き、地面から飛び出した刃がクリムゾンドーベルを串刺しにし、巻き付いた刃がグレイトゴブリンの身をズタズタにし、電撃の宿った刃はマウンテンゴブリンを感電させる。
そう、この分身は幻によるものではなく、実態を持った分身を生み出すスキル。
そして分身は本体と殆ど能力は変わらない。
このロウの人狼化とビッチェの分身で変異種との戦いにも変化。
マウンテンゴブリンも数体が倒れ、グレイトゴブリンの数も次々と減っていくが――
「はははっ、いやいや見事なものだね。まさかたったふたりでここまでやるとは思わなかったよ。驚き驚き」
突如、声と拍手がふたりの耳に触れる。
その話しぶりは、言葉では彼らを称えているようでありながら、滲みでている空気は嘲るような小馬鹿にするような、そんな感情。
四人に分身したビッチェの一人、本体である彼女は、弾かれたように声の主に目を向けた。
そこに立っていたのは、毒々しい染色のされた外套とフードを目深に被った人物。
ただ、様相ははっきりとしないが声の感じから男性である事は理解できる。
「……お前、何者。人じゃ、ない?」
すぐさま身構え、警戒心を露わにするビッチェ。
すると男は、くくくくっ、とうす気味の悪い忍び笑いを見せた。
「いやいや、僕は見ての通りれっきとした人間さ」
「……冗談。お前の気配、明らかに魔物のそれ」
「なるなる。まあそうだろうね。一応は下僕達の中で身を潜めていたし、気配変化で魔物に合わせていたのさ。だからほら――」
「――!?」
男が両手を広げるとビッチェの眼の色が変わった。
そしてマジマジと男をみやり。
「……気配が人間に変わった」
「そういうこと。それも僕の完璧なアビリティの一つさ」
「……魔物使い?」
「ご名答。ただ、それじゃあ足りないな。僕はこの世界最強で究極の魔物使いだ」
ニヤリと口角が吊り上がる。フードではっきりと顔は見えないが、口元だけは確認ができた。
「……随分と大きく出たな。でも、これで判った。お前がこの魔物の群れを集めた、黒幕――」
「パンパカパーーーーーーン!」
ビッチェが何かを確信したように口を開く。
だが、その上から重ねるようにフードの男が愉快そうに叫び上げる。
「ご名答! いやいや流石変異種を相手取る冒険者様だ。いやはやお見事!」
「……お前、一体何を――」
「さぁ! ここに本日の主宰と賓客が出揃いました! この豪華絢爛な宴を取り仕切るはこの私、かつての英雄の魂を受け継ぎし最強で究極の魔物使いインキ・クズレスでございます!」
英雄? と怪訝そうに呟くビッチェだが、気にもとめずなおインキと名乗るその男は言葉を続ける。
「そしてご来賓の皆様を楽しませるは我が最強の魔物軍! 倒れても変異種として蘇る究極の戦士達でございます。さあさあ宴も盛り上がってまいりました。ハンマの街を守りしグリンウッド騎士団に冒険者ギルドの皆々様、そして街の中で震える住人たち、皆様は此度の大事な賓客にて大事な生け贄。ですがご安心下さい。皆々様には――」
――グシャ。
愉悦に浸り、まるで自分がこの場の主人公だと言わんばかりの口上。
しかしその途中、ロウの拳がインキの顔面を捉え、外套に包まれたその身が吹き飛び地面に叩きつけられ粉塵を撒き散らした。
「……容赦無い」
「……つか、こいつ誰だ?」
「……判らずにやったの?」
「何かむかついた」
「……納得、そしてこの魔物どもの主、魔物使い」
そこまで語り合うと、ロウは、ふ~ん、と口にし。
「だったらこれで魔物どもは動きをとめるのか?」
「……だったらいいけど、でも、それ以前に――」
「まだ僕は死んでなかったりするんだよねぇ~本当ひどい話だよ。普通主役が語っているときは黙って聞いておくものでしょう。それなのに攻撃だなんてね」
パンパンと外套の埃を払いながら、なんてことがないようにふたりの前に戻るインキ。
確かにロウの一撃を受け、吹っ飛んでもいたのだが、彼にダメージを負った様子は感じられない。
「……しぶとい奴だ」
「いやいや、君が弱いだけでしょう。噛ませ犬、いや、噛ませ狼君」
くすくすと嘲笑し人狼姿の彼に顔を向ける。
その瞬間には、ロウが肉薄しその爪を振るっていた。
「【狼爪十字斬】!」
狼と化したロウの爪が十字を描くようにインキを切り裂く。が――
「なん、だ、と?」
そこには平気な顔で直立しているインキの姿。
今度は吹き飛ぶこともなく、平然とロウに顔を向けている。
「だから言ったろう? お前は、噛ませ狼だって!」
拳――それはまるで子供のように小さな手だが、しかしどれほどまでに鍛え上げられた槍よりも鋭かった。
インキの一突きが、ロウの脇腹にめり込む。
「ゴフォ!?」
呻き声を上げ、くの字になって今度は己が吹き飛ぶロウ。唾液を撒き散らしながら、大地をゴロゴロと転がった。
「う~ん? キャンキャン言わなかったな。犬のくせに、あ、狼か」
そんな軽口を叩くインキであったが、そこへ三本の刃鞭が迫り、そしてインキの身を雁字搦めにした。
ギリギリと絞め付ける三人のビッチェより振るわれたチェインスネークソード。
だが、本来これだけでもかなりの痛みを伴うにも関わらず、インキの口元は緩い。
「……お前、油断しすぎ。傲慢も甚だしい」
本体であるビッチェは、分身に縛り上げられるインキを眺めながらそう言った。
だが、やはりあまり効いているようにも思えず。
「油断? ははっ、違うね。これは余裕さ!」
ブチンっ! インキが声を張り上げると同時に、三本の刃鞭は弾けるように千切れた。
それに驚き目を丸くさせる四人のビッチェ。
「……そんな、特注の武器、分身でも強度は変わらないはず、それなのに――」
「残念だったね。ふふっ、でも仕方ないさ。僕は君たちとはそもそも格が違うんだ。何せこの場において最強の、主役は、この僕だからね!」
声を上げ、同時にその身から電撃が迸り、周囲にいた三人のビッチェを射抜いた。
悲鳴を上げ、分身たちが姿を消す。
「ん? なんだこの程度で、随分と脆いんだな」
くっ、と歯噛みするビッチェ。彼女のスキル、アバターリベレイションで生み出した分身は確かにその能力はその時の本人の装備品やステータスに準ずる。
だが、生命力だけは別。そもそも分身は気と生命力を組み合わせて作られている。
そのため、使用者本人も含め、生命力に関しては本体と分身で分割される。
つまり、分身含めて四人となったビッチェに関して言えば、生命力はそれぞれ四分の一にまで減少していた。
「全く張り合いがないね。わざわざ魔物の動きを止めてまで、相手してやってるというのに」
そう言って、癇に障る笑い声を上げる。
しかし、確かにインキが姿を見せてから、周囲の魔物は攻撃を加えてこようとしない。
「全く、こんな事じゃせっかく用意したアレも――」
「……舐めるなよ」
そこに口を挟むは、立ち上がりインキへと脚を進める冒険者ロウ。
顔を向け、ロウの姿を認めると、インキは薄い笑みを浮かべ。
「へぇ、中々やるじゃないか。手加減したとはいえ、あれだけ派手にやられて立ち上がるなんてね」
「あの程度で、調子に乗るな。ビッチェ、お前は黙っていろ、こいつは俺が――」
「その前に、丁度良かったよ。おかげで君たちにもお披露目できる。何せ僕は確かに主役だけど、主役を引き立てる仲間が必要だからね」
「……何を言ってる?」
ビッチェが怪訝そうに眉を顰める。
それを耳にしながら、何かを企んでいるような不気味な声で笑い。
「さぁ! 出番だぞ! ゲイ・マキシアム!」
刹那――ロウの足元の地面が爆散し、筋肉の鎧に身を包まれたソレが、人狼の脚を掴んだ。
「な!? 貴様、何を!」
「うぉおおぉおおおぉおおぉお!」
インキに呼び出された男、ゲイ・マキシアムは、ロウの脚を取るなり片手でブンブンと振り回し、そしてそのまま投げ飛ばした。
くっ! と歯噛みし、だが持ち前の身軽さでくるりと回転しながら地面に着地。
しかし勢いはころしきれず、ズザザザッ、と地面を滑り後方へと流されていった。
「……チッ、ゲイ・マキシアム――聖なる男姫のリーダーか……」
いきなりの筋肉による洗礼を受けたロウであったが、改めて彼をみやり思い出したように口にした。
「……ゲイ、聖なる男姫――じゃあ、彼が、でも、どういう事?」
ビッチェがゲイに目をやり、疑問げに呟く。
彼女はゲイの情報はある程度聞いていたが、目にするのは初めてだった。
「ははっ、察しの通り、その下僕は元はハンマの街の冒険者さ。いやあそいつは中々の掘り出し物でね。僕が育てた魔物たちの実力を測るために泳がしておいた森に、のこのこやってきた連中のひとりでね。折角だからバックニートに寄生させてみたんだけど、これが中々の潜在能力を秘めていてね。本当僕としては中々使える駒が手に入って嬉しい限り。でも折角の駒は使ってみたいし、だったらどうせならちょっとは強そうな奴に戦わせたいでしょ? だからお前たちみたいのは中々うってつけさ」
「……つまり、グリーンとボークをあんな目に合わせたのも、お前か――」
ビッチェは憎々しげな瞳をインキに向ける。
亡骸を見つけるまでは会ったこともなかったようなふたりだが、それでもこんな男に殺されたとあっては浮かばれないと、そう思った。
「グリーン? ボーク? あぁ、そういえばいたな。典型的な雑魚キャラが。一人は威勢がいいだけの雑魚、もうひとりは多少は頭が切れたみたいだけど結局ただの引き立て役にしか過ぎなかった雑魚。どっちもあっさり下僕やこの僕にやられてくれたよ」
くくっ、と肩を揺らせ死者を嘲笑う。
「……ふん、どうやらどうしようもないクズ野郎のようだが――この男を倒さないと先には進めないようだ。仕方無い、お前に恨みはないが、殺るぞ」
既にゲイと戦いを演じているロウが、ゲイに向けて宣告する。
「……待って。ロウ、この屑を屠ればまだ助かる可能性がある――」
だが、ビッチェはハンターの如き鋭い瞳をインキに向けつつそう言った。
ロウに考えを改めてもらおうと思っての事。
そしてゲイに寄生したのが、このインキの操る魔物ならば、この男を倒せば元に戻るのでは? そう考えてもいるようだが。
「ざ~んねん! それは無理なんだな。確かに僕を殺せば、僕のアビリティの効果は失われる。だけども、別に魔物が消えるわけじゃない。バックニートは元々相手に寄生して身体を乗っ取るタイプの魔物だ。例え僕が死んでもそれは変わらない。むしろ僕が死んだら命じるものがいない分、人間らしさはすっかりなくなるかもね」
「…………」
得々と語るインキに、嫌悪感のみが湧き上がる。
ビッチェはチェインスネークソードを振るい、インキの顔を狙うが、おっと、と発し軌道を見切るように飛び退かれた。
「いきなり顔を狙うなんて怖い女だな」
「……どうせ醜い顔をしているんだろう。傷が増えたって変わらない」
「いいねぇ! 強気な女は嫌いじゃないよ。そういうのを屈服させるのも、主役の務めだしね」
「……全くわけのわからない事をベラベラと。だが、そういう事ならもう遠慮はしない。この男を倒した後、お前を殺す――」
ロウの言葉を耳にし、ビッチェが強く歯噛みした。
ビッチェもSランク、しかも特級の冒険者である以上、罪を犯した冒険者を粛清した事も数知れず。
だから元は同じ冒険者だからと躊躇う女ではない。
しかし、今回はこれまでのとは事情が違う。
殺される理由のある者を処するのと、ただ操られているだけの仲間を死に追いやるのとではやはり意味が違ってくる。
だが――
「……ビッチェ、これがこの男の為だ。このまま魔物の一部として生きながらえさせるぐらいなら、ここでトドメを――刺すべきだ、狼爪十字斬!」
ロウの鋭利な爪が、ゲイの身に大きな十字を刻んだ。
人狼化したロウのこの技は、グレイトゴブリンですら一撃で屠る。
だが、しかし――
「フゥ……フゥ、フゥ――」
荒息奏でるその様相に驚愕するロウ。その変貌に目を見開いたまま視線を止め、馬鹿、な――と声を震わせた。
ビッチェも同じように驚き目を見張っている。
ゲイの身が、その筋肉が、突然膨張し、体中に野太い血管が浮かび上がり、鬼神の如き様相に変化していたからだ。
「これは、増筋の効果か? いや、しかし――」
やはり戸惑いを隠し切れないロウ。
増筋は、使用すると筋肉を暫くの間増強させるスキルだが、通常はその増加率はプラス五〇パーセント程度。
しかし今のゲイの姿を見るに優に三倍は超えるほどに膨張しており、筋肉という名の重装鎧を着込んでいるような、そんな様相。
「あのさ。なんか勝手に僕の下僕を倒せるものだと決めつけていたようだけど、さっきもいったけどそいつ潜在能力は高かったから、寄生したソレのおかげで完全に能力が開放されているんだよ。つまり――」
インキが全てを言う前に、ロウの身が弾け飛んだ。
ゲイのバトルハンマーが横薙ぎに振るわれたのである
しかも、動体視力に優れたロウにも捉えきれないほどの速度で。
「ぐっ! くそ!」
片膝をつき、立ち上がろうとするロウ。しかし今の一撃で膝が笑ってしまい、思うように力が入らない。
かと思えば、ゲイが天高く跳躍し、両手でバトルハンマーを振り上げ高速落下。
「おっと、もうアレを使っちゃうとはね」
ゲイとロウが戦いを演じている間も、攻撃を加えてくるビッチェの刃鞭を避けつつ、インキが言い。
「――ビューティフルストーン・フラワー・デンジャラス!」
叫びあげ地面に叩きつけられたハンマーを中心に、岩で出来た大輪の花が周囲に咲き乱れた。
そのあまりの衝撃に地面が大きく揺れ、超大な威力に大地が大きく陥没した。
「……いやいや中々のものだね。でも、まさかふたりともここでダウンとはね。う~ん、やっぱり僕を引き立てるには実力が――」
陥没した穴の中、土砂に埋もれたまま岩の花々に囲まれるふたりを認めつつ、インキがどこか残念そうに口にする。
だが、その途中で、ぐっ、あ、と呻きながらもその身を起こすビッチェ。
そして、振り向きざまに得物を振るい、獲物を狙う。
刃の尖端が、インキの身に迫るが――フンッ! とゲイの腕が伸び、チェインスネークソードの刃を掴みその一撃を防いだ。
「ふむ、中々に優秀だねこの下僕は。まあ助けてくれなくても全然大丈夫だったけど。でも、いいよそのしぶとさ! しかも見た目にも美しい女。やっぱこうでなきゃね。さ、ゲイ」
インキが命じるように言うと、掴んでいた刃を大きく引き上げ、ビッチェの身を釣り上げた。
そしておもいっきり反対側の地面に叩きつける。
か細い呻き声がインキの嗜虐心を震わせた。
「……ぐ、ぅ、絶対に、絶対にお前は、私が――」
うつ伏せに倒れながら、己を見下ろすインキを強く強く睨みつける。
「まだまだ元気だね。それにその銀色の瞳。いい感じに生意気で、本当に気持ちが滾るよ。さて、どうしようかな、このままただ始末するのも味気ないし」
顎に指を添え、黙考するインキ。かと思えば、ポンッと手を打ち、そして醜悪な笑みを口元に宿らせる。
「いいことを思いついた。おいゲイ、お前がこいつを犯せ」
な!? とビッチェの目が見開かれる。
そしてゲイは、命じられるままにビッチェに脚を進め。
「……来るな、正気になれ!」
「無駄だって。さあゲイ、先ずはその邪魔な上を剥ぎ取っちゃえよ」
するとゲイはビッチェの肩を強く押さえ、そして彼女の上の布地に手を掛ける。
「や、やめ――」
抵抗を試みるビッチェだが、今のゲイの力はあまりに強く、そしてビリッ! と彼女の胸部を支えていた紐が千切られ、そして剥ぎ取られた。
「――くっ! どうして、こんな」
「どうしてって? ははっ、お前は知らないのかな? そのゲイっていうのは男しか愛せない性癖の持ち主のようでね。本来は女にこんな行動はしないんだろうけど、今は僕の操り人形だから、女でもやれちゃうってわけ。それってさ、愉快だろ? 本当ならこの男も女とだなんて死んでも嫌だとか思ってるんだろうけど、それがさ、僕の命令一つで強制的に出来ちゃうんだ。凄い、ザマア無いよね~」
ニヤニヤとこぼした笑みは、男の性格の悪さを物語っていた。
そして、更に男は言葉を重ね。
「そしてついでにお前だよ。お前は、本来男しか愛せないような奴に、これからやられるのさ。しかもその意識を奪った張本人の目の前で。それって凄い惨めだろ? 情けないだろ?」
「……くっ!」
顕になった胸を両腕で隠し、睨めつける彼女の目には薄っすらと涙の膜が張られていた。
「いいねぇその顔! 気丈に見えて、肩を震わせてさ。ねぇ今どんな気持ち? 悔しい? ねぇ悔しい?」
「……」
ビッチェは何も言わず、しかし強気にインキを睨み続ける。
「う~ん、でもまだまだちょっと屈し方が足りないかな。おいゲイ、もうちょっと痛めつけろ」
インキの命令で、ゲイの腕がビッチェの銀色の髪に伸び、無理やり髪を引っ張り上体を起こし、殴りつけ、腹を膝で蹴り上げた。
地面を転がり、ゲホゲホッと咳き込む。
その美しかった身は砂と土に汚れ既に満身創痍といった様相。
「うん、いい感じに大人しくなったかな。まあこれからまた悲鳴を上げる事になるんだろうけど。あぁそうだ、ゲイとの交尾が終わったら、ここの魔物にも味あわせてやろう。特にグレイトゴブリンはゴブリンの性質が残っているからね。それだとマウンテンゴブリンもか、あ、でも流石にあんなのにやられたら死んじゃうか! でもどうせやることやったら殺すけどね!」
そしてケラケラと、嘲るような笑みをビッチェの耳に残す。
しかしビッチェにはもう、剣を握る力も残っていない。
「さて、それじゃあそろそろいいかな。おい、ゲイ。せいぜいその女を、愉しませてやれ」
インキの命で、ゲイが再び動き出し、そしてビッチェに一歩また一歩と近づいていく。
その後姿と倒れるビッチェを交互に見やりながら、何かを期待するように口元を歪めるインキであったが。
――ドゴオォオォオオォオオオン!
突如、鳴り響く轟音。
なんだ!? とインキが思わず振り返る。
音は東門側から聞こえてきた。
そして、インキは呆気にとられたように口を半開きにさせ、その光景を目にする。
天より、大量の何かが振ってきていた。
雨? と一瞬思ったであろうが、天気の崩れは感じられず、更に言えば、雨にしては一粒一粒が異様に大きく――
かと思えば、引き続き響き渡る轟音。
今度は南門からだ。同じように天から降り注ぐ何か――しかし今度はインキにもその正体が掴めた。
「僕の、下僕達?」
そう、それはインキの従える大量の魔物。しかも全てが変異種と化しているにも関わらず、空から落下しているそれらは全て事切れていた。
「……なんだ? どうなってる? どうして僕の下僕が――」
「……ふふっ、そう、来てくれたんだ。インキ、あんたも終わり。これで絶対に――」
「くっ!」
弾けたようにインキがビッチェへ顔を向け直し、そして憎々しげにその姿をみやり。
「よくわからないけど、お前の仲間なのか? 僕の下僕をあんなに、許せない! ゲイ! 予定変更だ! その女の顔をハンマーでグチャグチャに砕いてしまえ! この僕に歯向かったらどうなるか思い知らせてやる!」
叫びあげる。するとゲイがハンマーを持つ手に力を込め、そしてビッチェを目の前にして、大きく振り上げた。
ゲイの瞳に生気は感じられない。まさに操り人形。
そして、彼の容赦のない狂気がビッチェへと振り下ろされる。
すると、彼女はすっと両目を閉じた。だが、その口元には笑み。
(……これで終わり。でも彼ならきっと――)
ビッチェは死を覚悟していた。
だから、後のことは彼に任せようと思った。
だが――いつまで待っても死は訪れず、その変化に、ビッチェはゆっくりと瞼を開けた。
その視界に飛び込むは、小さくても、誰よりも大きい、頼りがいのある背中――
「……少し待たせてしまいましたね。ですが、ここから先は、私にお任せ下さい」
ナガレ達の戦いはこれからだーーーー!
これからのナガレの活躍にご期待ください。
というわけで突然ではありますが、レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!は
書 籍 化 し ま す
はい、そうです。書籍版の発売が決定いたしましたのでご報告です!
え?打ち切り?いやいやそんな!まだまだナガレの活躍はこれからですよ!それをやめるなんてとんでもない!
実は自分でも正直驚いているのですが、詳細は活動報告でも載せていきますので、よろしければ覗いていただけると光栄ですm(__)m




