第八十三話 最後の仕掛け
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「よっしゃ! へへっ、先輩。俺これでレベル30になったぜ?」
戦闘が終わると、フレムがピーチに向けてそう言った。
自分に親指を向け、得意満面といったところだが。
「……あ、そうなんだ。おめでとう」
しかしピーチの反応は薄い。それに得心のいかないフレムであり、
「ま、まぁ後輩にレベルで抜かれてたら悔しい気持ちもわかりますけどね~」
と更に続けた。
「……いや、私いま、レベル33だし」
「…………」
サラリと言い返したピーチは、素材の回収宜しくね~といい残しつつ、ナガレの近くまで歩いて行った。
その小さな背中を眺めながら、あんぐりと口を半開きにさせて立ち尽くすフレムである。
何せ彼の記憶では、少なくともレベルではピーチを圧倒していたのだから、いつの間にか抜かれていて驚くのも無理はないが。
「ピーチさんレベル33なんて凄い!」
「ふふ~ん、ナガレに色々教えてもらっちゃったからね~」
「流石ナガレ様です!」
キラキラした瞳でローザに尊敬されるナガレ。別に大したことはしてませんよ、と謙遜するが、僅か数日の間にレベル18からレベル33まで向上させたのだからかなりのものであろう。
さすが元最高師範である。
「ま、うちが相手したのも大きいとおもうけどな!」
そしてちゃっかりエルシャスが得意がった。
しかし、確かに彼女の協力も大きかっただろう。
そんな彼らのやり取りの向こう側では、凹むフレムを慰めるカイルの姿もあった。
「でも結局この洞窟ってなんだったのかしら?」
ふとマリーンが疑問の声を上げる。
そしてそれに合わせて女性陣は腕を組みう~ん、と唸った。
「そんなの、適当にあいてた洞窟に魔物が住み着いていただけなんじゃねぇの?」
すると素材回収を終えたフレムが輪に加わり、随分と単純な考えを言う。
「いや、でもフレムっち。これ人工的に作られたものなんでしょ? それに魔素が少ない森で洞窟とはいえ魔物が住み着くというのはおかしくないかな?」
隣に立つカイルの反問は至極当然のものと言えるだろう。
魔素が薄ければそもそも魔物だって生まれないのだ。
「……そうですね。先ず先ほど壁から湧き出てきた魔物から考える必要があります。戦ったみなさんも何か違和感を覚えませんでしたか?」
ナガレがそう敢えて問うように言うと、フレムがさっきまでと違い随分と真剣に考え始め。
「そういえば先生! なんか例えばコボルトなんかも俺がちょっと前に相手したのよりも、少しは手応えがあった気がしますよ! まぁそれでも先生に教えてもらったナガレ式双剣じゅ――」
「そうですね。マリーンとも少し話しましたが、ここの魔物はあの途中であったマモオークもそうですが、限界近くまでレベルが上げられていたようです」
「そっか! だから手強く感じたわけね」
フレムに全て話させる事なく、言葉を被せたナガレ。
それにマリーンは得心を示す。
「う~ん、あと私が思ったのは魔物に統一性が感じられなかった事かな」
「え? 統一性ですか?」
ピーチが顎に指を添えつつ応えると、ローザが頭に疑問符を浮かべ。
「そう。なんかゴブリンなんて本来マモオークやリザードマンと一緒に出てきたりしないじゃない? 勿論コボルトもだけど。大体魔物が出るところって似たようなレベルが固まってるものだし。でもここの魔物って強さもバラバラだったしね」
「フレムもピーチもよく見ていますね。流石です」
ナガレにそう言われ、嬉しそうに照れ笑いを見せるピーチ。
フレムはフレムでよっしゃ先生に褒められた! と感動の涙まで流す始末である。
「確かにフレムとピーチの言うように、ここにいた魔物はあまりに統一感がなく、それでいてレベルは皆最高まで上げられていた――ここからわかるのは洞窟だけではなく、集まった魔物もどこか人為的作用が働いている可能性が高いということです」
え? とマリーンが目を見開く。ナガレの発言は受付嬢としてはとても聞き流せないものなのだろう。
「つまり――魔物自体がここを選んで住み着いていたのではなく、人間の手でここに集められていたって事?」
「その可能性が高そうですね」
「そっか、それで入り口が見えないよう隠蔽してたっちゅうことやな。でも、なんでわざわざエルフの里近くでそんな事するねん?」
エルシャスが眉を顰め不機嫌そうに口にする。確かに自分たちの仲間がいた近くでそのような事をされて気分は良くないであろう。
「それは寧ろエルフの里周辺だったからとも言えるかもしれません。この辺りは魔素が薄く、そもそもエルフの管理区画です。つまり、普段は冒険者などが立ち入ることはない――その何者かが魔物を使って実験をしていたなら、余計な邪魔が入らない分やりやすいともいえるでしょう」
「え? つまりナガレっちは、ここで誰かが魔物を使って実験をしてたといいたいの?」
カイルが狐耳をピコピコと揺らし、そう問いかける。
「はい、そのとおりです。実際ここには先程みなさんで倒した魔物とは別の気配で満ちています。恐らくここで魔物同士を戦わせたのでしょう。かなり多くの魔物がここで死んでいったようですね」
酷い――と、ローザが悲しそうに呟く。例え魔物といえどその慈愛の深さ故、命を無駄に散らさせるような行いを許してはおけないのであろう。
「よくわかんないけど先生! なんかふてぇ野郎みたいですしここで待ち伏せして捕まえてしまいましょう! このフレム! やってやりますよ!」
「それなら私だって勿論捕まえてやるわ!」
フレムとピーチが鼻息を荒くさせる。だが、ナガレは頭を振り。
「残念ですがもうここに戻ってくる事はないでしょう。先ほどの仕掛けにしても、あれで洞窟内の全ての魔物がこちらに向かってくるようになっていたようです。この場所に気がついた物を始末できればいいぐらいの仕掛けですしそれに――」
ナガレがそこまで言うと、突如台座の上の水晶が割れ、再び洞窟が揺れだした。しかも先程より揺れが相当に激しい。
「どうやらここも完全に崩落してしまうようですね」
「崩落って……そ、そんな大変じゃない!」
ふむ、と随分と冷静に話すナガレだが、マリーンにとっては気が気ではないだろう。
「だ、大丈夫よ! きっとナガレならなんとかできるわ!」
「……そうですね。確かにピーチのいうようになんとか出来なくもないですが、しかしこのような洞窟は残してもおいても下手な面倒事を引き起こすだけでしょう。迷い込むものでもいたら大変ですし、エルシャスが構わないなら脱出してこのまま潰してしまったほうがいいと思いますよ」
「うん? まぁそやな……話は大体判ったし、こんなんあっても気持ち悪いわ。勝手に崩れてくれるならそれが一番やな」
「……え? という事は?」
「もしかして……」
ピーチとフレムの額に汗。カイルもそれを聞き思わず苦笑している。
「ローザとマリーンは私の手で一緒に脱出しますので、皆さんも頑張って付いてきてくださいね。恐らく全力疾走で死ぬ気でついてこないと、潰されますよ」
『ええええぇえええええええぇ!』
こうして、ローザとマリーンを両脇に抱えて軽快に先頭を歩くナガレに食らいつこうと必死で走るピーチとフレムである。
ちなみにエルシャスには余裕があったが、一番のとばっちりはカイルであろう。
息も荒く、ついてくるのもかなりギリギリといったところだ。
そして――
――ドゴォオォオォオオオオォオン!
一行が洞窟を出た直後(正確にはカイルが息も絶え絶えに洞窟を出た後)耳をつんざくような轟音を残し、洞窟の口は永遠に閉ざされたのだった。
「カ、カイルお疲れ様……」
「うぅ、なんでおいらまで――」
そしてもう立てないと大の字になって倒れるカイルに、治療魔法を施すローザの姿があるのだった。
「なんや、もう大分陽も傾いてるやん。これは、はよ里に戻ったほうがえぇなぁ」
「そうですね急ぎますか」
「う~んでも折角の休日なのにギルドに持っていく仕事が増えたわ、はぁ」
「こればかりは仕方ないわよねマリーン」
「おいカイル、いつまで寝てるんだよ。先生を待たせるなんて失礼だぞ」
「そ、そうですね! さ、カイル早く!」
「……鬼ぃ」
こうしてフラフラになったカイルを叱咤激励しつつ、里に戻る一行であった――




