四十三話 結果と評価
「私は…昔からやりたいことだけをやってきました」
しばらくすると、ローブ野郎はそう話始めた。
「親はどちらも王都で魔法の研究をする研究者です。幼い頃から魔道具に囲まれて育った私が、親と同じ道を歩むことになんの疑問もありませんでしたよ。それに…周りの人達も皆そうだったのです。身内に研究者がいる人達ばかりでした。そんな中で私は……まぁ、自分で言うのはアレですけど優秀な方の部類の人間だったと思います」
彼は両手の指を絡ませて、両の人差し指だけを忙しなく動かした。
「これは後から気づいた事ですが、研究者もいくつかの分類に分けられるんです。……やりたいことをしていたら成果に繋がった者と、やりたいことが全く成果に繋がらない者。私は後者だったのですが、その差はなんだと…思います?」
そう言って、ローブ野郎は俺の方に体を向ける。
「さぁ、わかりませんね。俺は研究者ではないですから」
言いながら、俺は全く別の事を考えていた。こいつ、人見知りなだけで話すのは苦手じゃないだろ、と。
「そう…ですね。私が出した答えは『所詮評価は他人だ』ということです。私が特殊魔法を専攻していたことは話したと思います。その中で発見した成果で、契約をしていない魔物の召喚を成功させたのです。しかし、それは例え過去に例のない研究成果だったとしても、世間が受け入れなければ意味がなかったのですよ」
言われてみれば、確かにローブ野郎が闘技場で行った召喚魔法は、契約を行っていない魔物の召喚だ。俺は召喚魔法を使えるが、さすがに契約していなければ召喚することなど出来ない。え?……それって結構すごいことなんじゃないのか?
「受け入れられなかった。……なぜですか?」
「危険と……されたからです」
「…危険」
「特殊魔法研究の意義は、魔力を多く消費し、失われつつある特殊魔法を、魔方陣や魔道具によって実現させることにあります。そのために魔法の解明を行っていくのですが、私はその意に沿ぐわない成果をだしてしまったのですよ……クックッ」
自虐的(?)に笑うローブ野郎。笑いかたが全て一緒のせいで、何に笑っているのか判別しづらい。
「俺にはすごいことだと思いますがね。まぁ、危険とされた理由も、分からなくはないですけど」
召喚した魔物は契約者に従順だ。それは、双方で信頼関係を築いているからである。そしてそれが出来る魔物は少ない。なぜなら自我を持つ魔物は少ないのだ。つまり、契約していない魔物は、見境なく人を襲う普通の魔物と変わらないと判断できる。
「クックッ…今回もそれと一緒ですよ。私がいくらやりたいことをしようとしても、周りがそれを許してはくれないのです。分かってはいましたが、昔の自分に比べたら……もしかしたら……他人に、自分のやってきた事を認めさせる事が出来るかもしれない……そんな淡い期待をもってました」
だからあんなに暴走……頑張っていたのか。
「もしも今回の件、地下施設を造ってしまう前に提案していたなら、結果は多少違ったと思いますよ?」
その言葉に彼は首を振った。
「そしたら、その時点で却下されていましたよ。……私に出来ることは、成果をあげたうえで、それを認めさせる事だと思います。今回は魔水の件もあって都合が良かった。それに、有能な協力者もいました。あとは私が素晴らしい説得をすれば完璧だったのです」
「俺的には完璧だったと思いますよ?」
もう、別の意味で。
「クックッ…お世辞はやめてください。結果に繋がってないことが何よりの証です」
言いながらも彼は、ローブ越しに頭をかいた。
「確かに、『所詮評価は他人だ』という考え方はあると思います。実は俺もそうでしたから」
「……テプトさんもですか?」
かなりビックリしたような彼の声に、俺は笑ってしまった。
「じゃないと、あそこまで根回しなんてしませんよ。他人の評価を重要視したからこそです。まぁ、これは信じなくても良いですが、実はーー」
それから、俺は今から自分が言おうとしていることに気づいてハッとした。何を言おうとしてんだよ。
「実は?」
ローブ野郎が、後を促してくる。一瞬考えたが、彼なら話しても大丈夫だろうと結論付ける。
「ーー実は俺は異世界からきた人間なんです」
「異世界?…クックッ……それはまたぶっ飛んだ話ですね?」
彼は、一瞬呆けたようだったが、すぐにニヤリと笑ってくれた。
「はい。そしてこの世界の神に、何でも出来る能力を授かりました。だから、俺はこの世界で大きな事を成し遂げられると信じて生きてきました」
「クックッ…本気で言っているなら、かなりの妄言ですね」
「妄言かもしれない。事実、俺は何も出来なかったわけですから。まぁ、やり方を知らなかっただけというのもあります。あの頃の俺は、自分だけの力でこの世界に認められる事を夢みてました。でも、そのために大切にしなくてはいけないことを大きく勘違いしてたんです。成し遂げることの大きさばかりに気をとられ、他人に認めてもらうことの重要性をなにも理解しちゃいなかった。もしも、俺がドラゴンをひとりで倒せると言ったら信じますか?」
「クックッ…信じませんよ。ドラゴンはダンジョン50階層以上に出てくるとされるSランク冒険者達の獲物じゃないですか。一人では無理ですよ」
「じゃあ、実際に俺が倒す所を見たら?」
「…信じましょう」
「でも、それは出来ませんよね?なぜなら50階層以上にはSランク冒険者パーティーしか入れませんから。例え俺がドラゴンを倒したとしても、少なからず勝手に50階層に入ったことを非難されるでしょう。あの頃の俺は、正攻法というのに拘っていました。今でもその考えは間違っていないと思いますけど、俺は拘りすぎていたんです」
「拘りすぎていた?」
「そうです。正しく手順をこなしてこそ、他人に認められる価値があると信じていました。だから、それが無理だと知ったとき、呆気なく俺の心は折れました。やり方なんていくらでもあったはずなのに、一つの道を閉ざされただけで、俺は全てを諦めたんですよ。もしもあの頃の俺が、そんなことを気にするような人間じゃなかったら、今ではもっと別の生き方をしていたように思います。だから、あなたの言った、所詮評価は他人という考え方には共感できますよ」
「……その言い方だと、今では違うと言いたいのですか?」
「まぁ、そう思い始めたのは最近ですがね?別に、認めてもらえなくても良いと思いはじめました。俺がやることを他人がどれだけ理解出来るのか分からないからです。自分が成し遂げたことは、他人から評価されなければ意味がない、だから『所詮評価は他人』というのは共感できます。けど、評価されない偉大なことも、この世界には沢山あると思うんです。言い換えると、『評価は所詮他人』なんです。自分が正しいと思ったことをやればいいんですよ。評価があって結果があるわけじゃない。結果があるから評価されるんです。俺はその評価を、結果として繋げるために利用しているにすぎないんですよ」
俺が元いた世界と、今の世界、人々の生き方には大きく違いがある。だが、根本的な所は一緒らしい。他人が認めてくれるから、自分が存在している。もしも、世界でたった一人なら、そいつは間違いなく幽霊だ。
誰に気づかれるわけでもなく、ただ一人でさまよう……でも、幽霊にだってやり方はある。怨念だったり、呪いだったり、ポルターガイスト現象をおこしたり…それらは忌み嫌われ、時には誰かを傷つけてしまうかもしれない。でも、そんな幽霊を非難できても、その幽霊の気持ちは誰にもわからない。ただ、分かろうとすることは出来る。
「……テプトさんの話は少し難しいですね」
「すいません、上手く説明できなくて。ただ言いたいのは、俺はあなたのやろうとしていたことに対して、否定的な意見はもってなかったということです」
「…クックッ…そんな事を言うために、妄言めいた事を言ったんですか?」
「いや、全部事実なんですけど」
「クックッ…そういう事にしておきましょう」
ローブ野郎の笑いかたはとても分かりにくいのだが、その時の笑いかたは、何故だか心底おかしそうに見えた。




