二十三話 カウルの経歴
ーーーカウル。俺は彼に興味が沸いた。というのも、Aランク相当の実力を持ちながら、万能型の仲間のためにBランクで居続けるというところが何より興味深い。野心が無いのだろうか?そんなはずがない。一度ランクの階段を上がり始めた者は、誰もがその頂点を夢見る。俺だってそうだった。そして、多くのものがそうであるように、いつかは越えられない壁に当たる。そこで踏みとどまるのか、別の階段を上がるのか、それともその壁に挑戦し続けるのかは本人次第だが、彼はそのどれとも違う。仲間のためにそこに居続けているのだ。
そして彼の瞳には、その選択をするとは思えないほどの激情が宿っていた。
あんな奴がいたら、俺は今でも冒険者を続けていたんだろうな。そう思ってしまったのは言うまでもない。
彼を調べてみようと思ったのは、単なる好奇心だった。
ーーーーで、調べてみたのだが。
「こいつは凄いな……いや、凄まじいと言った方が正しいのか?」
彼の経歴は普通じゃなかった。
まず、三年前に冒険者登録。なんと半年でFランクからDランクまで上がっている。これはとんでもない速度である。冒険者としての才能があれば、その人はDランクまでなら上がれるだろう。その平均はだいたい五年。つまり彼は、常人が五年かかるところを、半年で成し得てしまったのだ。ちなみに俺は三ヶ月でした。
そして、Cランクで初めてパーティー結成。その時の仲間の一人が、今でもメンバーであるあの女性だ。名前を『ソフィア』という。当時結成されたメンバー人数は3人。……そしてその一ヶ月後。彼らは二ヶ月間行方不明となっていた。帰ってきたのはカウルとソフィアの二人。もう一人は、ダンジョン探索中に死亡していた。
その後、二人は何度もパーティーを結成しなおしている。その数4回。その度に行方不明となり、救出依頼をギルドから出されていた。そして、帰還するのは必ずあの二人で、他のメンバーは死亡している。
まさか奴等、新メンバーを殺してる訳じゃないよな?……そんな疑惑まで持ちそうになるほどの不幸っぷりだ。その経過途中で、二人はBランクへと上がっていた。
「……なんだか、見てはいけない物を見た気がする。……とりあえず今日の依頼を終わらせよう」
俺は、カウルの経歴書を引き出しの中にしまって、掲示板を見る。毎度ながら多いな。……ん?
その中の一枚は、いつもの未達成依頼書ではなく、伝言用紙だった。
『君のために、血沸き肉踊る歓迎会をやりたい。ぜひ闘技場まで足を運んでくれ』
ビリッ。
なんだか見てはいけない物を見た気がする。
「さて、今日も張り切っていくかな!!」
良い仕事をするには、切り替えが大切だ。今見たものは忘れよう。
一階に降りると、奥の方に着々と新しい受付窓口が出来ていた。冒険者達もそれに気づいているからだろう。見てみると、順番で喧嘩をしている様子がない。問題が改善されると分かったら、人はそれまで辛抱出来るものなのだ。
出口に向かおうとすると、不意にナイフが飛んできたので仕方なく掴む。それからため息をついた。
「これって誰にでもやってるのか?……友達亡くすよ?」
そう、亡くすのである。なにせ、そのナイフは的確にこめかみを狙っているからだ。
振り向くと、やはりそこには、ソカがいた。手を後ろで絡めて、嬉しそうに笑っている。ナイフ投げて嬉しそうとか、こいつマジでヤベェ奴だな。
「誰にでもはしないわ。あなただけよ?」
「それが、別のことだったらドキドキするんだけどな。……ソカは俺を殺したいんだっけ?」
「殺したいわ。でも無理そうだから諦めたの」
諦めてねーだろ!果敢に殺しに来てるじゃねーか!!
「もういいや。で?何かあった?」
「別に。ただ見つけたから、仕事の邪魔してやろうと思っただけ」
こいつは本気で言っているのだろうか?
「……ソカはきっと凄い冒険者になれるよ」
なにせ、躊躇なく人を殺そうとするのだから。性格だけでいえばランクは既にS級である。
「あら、私を試験で落としたくせによく言うわね?」
「自分から降りたのは君だろ?」
「そうだったかしら?」
掴み所のない彼女の言葉に、からかわれているのだと分かっていても、ため息をつかずにはいられなかった。
「あぁ……そういえば、ソカは『カウル』という冒険者を知っている?」
「えぇ、もちろん。『仲間殺しのカウル』でしょ?」
……仲間殺し?そんな二つ名があるのか。
「その二つ名って、ただの表現だよね?」
恐る恐る聞いてみる。
「当たり前でしょ?本当に殺してたら、私が彼を殺してるわ」
あっけらかんと言うソカ。冗談に聞こえないところが恐ろしい。
「なんで仲間が死んでしまうのか知ってるかい?」
「さぁ?運が悪いんじゃない?実際、彼等が厄介な魔物と戦っているのを何度も見てるわ。しかも普段出現しないような魔物ばかり。あれは天性のものね。もう、彼等とパーティーを組む奴はいないんじゃないかしら?」
そうなのか。……本当に運が悪い奴なんだな。
「ねぇ?それよりも私今から昼ごはんなの。一緒に食べない?」
ソカが唐突にそんなことを言い出す。
「あぁ、悪い。今から仕事なんだよ」
「えー。つまんないの。じゃあ、今度行こうね?」
屈託のない笑顔を浮かべるソカ。表情だけならとびきり可愛いんだがなぁ。
「……返事は?」
「あっ……ああ。今度な」
妙な威圧にやられて承諾してしまった。
「絶対よ?じゃね」
そう言って彼女は去っていった。
まったく……あいつはどういうつもりなんだか。
ふと、誰かに見られているような気がして、そちらの方向に目をやる。
そこには、セリエさんが笑顔で受付を行っていた。俺を見ている様子はない。……気のせいか?
気を取り直して俺はギルドを出た。
「さぁ、今日も頑張るかな」
ギルドでの日々にも慣れてきた。問題は多少あるものの、なんとかやっていけそうだ。




