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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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『 釣り大会の結果:後編 』

ドラゴンノベルス様から、3月5日(火曜日)に、

『刹那の風景5 68番目の元勇者と晩夏の宴』が、

発売となります。よろしくお願いいたします。


【 セツナ 】


賑わう周りの様子をぼんやり眺める。

落ち着くまでもう少し時間がかかりそうだ。


ロガンさんとトッシュさんの釣り談義が終わったところで、

僕の耳に、個人戦3位になった剣と盾のアルヴァンさんと、

彼の両親であるレイファさんとクラールさんの、

会話が聞こえてくる。


「アルヴァンは、釣りが得意だったのか?」


「釣りをしている姿なんて、見たことがなかったけど……」


「釣り竿とか持っていなかっただろう?」


クラールさんとレイファさんの疑問に、

アルヴァンさんが、チラリと彼らに視線を向けてから口を開いた。

エレノアさんとアラディスさんは、黙って話を聞いているようだ。


「バルタスが貸してくれていた」


「バルタスが?」


「子どもの頃、剣と盾が依頼にいっている間、

 私は酒肴に預けられていただろう?」


「そうだな」


「退屈そうにしていると、

 当時の六番隊が、私を釣りに連れていってくれた」


「初耳なんだが?」


「六番隊と一緒に釣ってきた魚を、

 バルタス達が料理してくれていた」


クラールさんとアルヴァンさんの話を聞いて、

レイファさんが、エレノアさんに話しかける。


「エレノアは知っていた?」


「……いや、私も知らなかった」


彼女達の会話に、

アルヴァンさんが苦笑して、また話しだす。


「子どもの頃はわからなかったんだが、

 多分、元六番隊は私に釣りを教えたことを、

 エレノアさん達にばれたら、叱られると思っていたようだ。

 だから、私に黙っているようにと口止めしていた」


「……なぜ?」


エレノアさんが首をかしげ、

不思議そうにアルヴァンさんを見た。


「近寄りがたかったからだろう」


「……」


「子どもの私でも、感じ取ることができるほど、

 あのときの剣と盾は……張り詰めた雰囲気を纏っていた」


剣と盾の人達が黙ってアルヴァンさんの話に耳を傾ける。


「ヤトが必死に鍛錬し始めたこと。

 アラディスさんが、あまり笑わなくなったこと。

 泣いている母を父が慰めていたこと……。

 私の知らないところで何かがあったのだと感じていた」


きっと、それはエレノアさんの呪いが発動した頃かもしれない。


「その変化はきっと、皆が気付いていたと思う。

 だけど、その理由を問うことさえ許されない雰囲気が、

 あのときの剣と盾にはあった」


「……」


「それなのに、酒肴の人達は何も聞かず、

 いつも私を気にかけてくれていた。

 元六番隊と七番隊は、エレノア達に怒られるかもしれないと、

 戦々恐々としながらも、私が一人で留守番していると、

 一緒にいてくれたことを覚えている」


レイファさんが、

子どもの頃のアルヴァンさんを想ってだろう、

静かに涙を落とす。


「泣くことなど何もないだろ」


「だって……」


「子どもの頃から、

 私は剣と盾を誇りに思っている。

 それは今も変わることはない。

 確かに、寂しいと思うことはあったが、

 不幸だと思ったことは一度もない」


「そう」


「そうか」


アルヴァンさんが穏やかに笑い、

レイファさんもクラールさんも笑って頷く。


レイファさんが「お礼がいいたい……」と呟くと、

アルヴァンさんが難しい顔をして口を開いた。


「無理だろう。あの頃の剣と盾しか知らない、

 元六番隊と七番隊のメンバーは、

 剣と盾には近づかない」


ここで、酒肴の一番隊の人達が一斉に笑い出した。


「……ブライアス、貴殿は知っていたのか?」


エレノアさんがため息をつきながら問う。


「そりゃ、知っていたさ。

 あの頃の、元六番隊と七番隊は若かったからな、

 よほど怖かったんだろう。

 絶対話すなと口止めされていた」


「……それでも普通は話さないか?」


「釣りを教えていることを、黙っていただけだ。

 まぁ、お前さん達を避けるために、

 気配探知の技術を高めることができたのだから、

 それでいいだろう」


「……」


一番隊のブライアスさんの言い分に、

アルヴァンさん以外の剣と盾の人達が、

疲れたようにため息をついた。


「……ブライアス。

 彼らがリシアに戻ってきたら、

 私達からだとはいわなくていいから、

 好きな酒を飲ませてやってほしい」


「承知した」


そこで話が落ち着きクラールさんが、

雰囲気を変えるように話しだす。

「そうか。アルヴァンの入賞は、

 子どもの頃の経験があったからだな」と……。


だけど、僕とクリスさんは知っていた。


アルヴァンさんは、

子どもの頃の経験がいきたのだというように、

話を持っていっていたが、

彼はクリスさんに助言をもらいながら、

抜かりなく準備をしていたことを……。


僕にどの辺りの海を持ってくるのかと、

聞いてきたことを……。

そして、二番隊と同じように、

大物を狙う素振りをしていたことを……。


(……)


僕は常日頃魚釣りをしているかが、

個人戦と団体戦入賞の鍵だと思っていたけれど、

どうやら違ったようだ。


いや、それもあるのだと思う。

だけどそれ以上に……。


(釣りにかける情熱が違ったのだと、思い知る)


トッシュさんもロガンさんもアルヴァンさんも、

念入りに準備をしてきていた。

それは、クリスさんも二番隊もアルト達も同じだと思う。


釣り大会にかける意気込みが……違ったんだ。

セルユさんの言葉じゃないけれど、

僕とアルトが『釣り大会をする』といった時点から、

勝負はもう始まっていたのだ。


今回の件を踏まえて、

僕も、クリスさん達のように、

どんなことであれ、手を抜くことなく準備することを、

あらためて心に決めた。


ジゲルさん達からもらった贈り物と、

大会入賞者達から学んだことを、忘れることなく、

セリアさんを送る旅に持っていこうと思った。



それからしばらくして、皆が落ち着いてきた頃に、

バルタスさんが注目を集めるように、数回手を叩いた。


「さて、入賞者には、セツナから賞品が贈られるらしいが、

 賞品が何かはわしも知らん!」


彼の言い方に、あちらこちらから笑いがおこる。

皆の期待に満ちた視線が僕に集まったので、

バルタスさんのそばまでいき、机の上に賞品になりそうなものを、

並べていく。


「まず、フェルドワイスの巣蜜。フェルドワイスの結晶。

 それから、色付きのスクリアロークスの鱗。

 あと、好きな物に時の魔法をかける券。

 この中から好きな物を選んでください」


「ちょっと待て。賞品に適さないものがある。

 とりあえず、フェルドワイスの結晶は賞品から除外するように」


オウカさんが目頭をもみながら、そういうと、

セリアさんが、「私の一番のお勧めだったノヨ」と文句を言い出す。


僕もフェルドワイスの結晶は高価すぎると話したのだが、

セリアさんがどうしてもというので、だすことにした。

幻の結晶といわれるほど珍しく、そして美しい物だから、

セリアさんは、子ども達に見せたかったのだと思う。


アルト達はエレノアさんから、

フェルドワイスの結晶の説明を聞いて、

目を丸くして机の上を凝視している。


「フェルドワイスの巣蜜もおかしいわけ……。

 どうやって、あの凶暴な蜂から巣を奪ってきたわけ?」


サフィールさんの呟きに、アギトさんが肩をすくめる。


「フェルドワイスの巣蜜と結晶って、

 確かどこかの王族から、

 無期限で依頼がきていたような……」


ナンシーさんがそうぼそっと呟くと、

ハルマンさんが「でていたはずだ」と同意する。


オウカさんとエリアルさん、オウルさんとマリアさんが、

セリアさんを説得しようと言葉を尽くしていた。


もともと、セリアさんは常識ある人達から、

止められるとわかっていたのだろう。

渋る振りをしながら「しょうがないわネ」と頷いている。

そのあとで、僕に悪戯が成功したような視線を向けていたが、

見なかったことにした。



フェルドワイスの結晶が、

取り下げられることになったとわかっても、

誰も落胆することはなかった。

多分、このまま賞品にしても、

誰も選ばなかったような気がする。


フェルドワイスの巣蜜も高価なものだけど、

僕の鞄の中に大量の蜂蜜が眠っていることを、

知っているからか、結晶よりはましということで、

オウカさん達も賞品にすることを許可してくれた。


ヤトさんの「誰にも話さなければ、

腹の中に消えて何も残らない」という言葉が、

オウカさんが納得する決め手だったと思う。


そんなこんなで、入賞した人達が賞品を選んでいく。

アルトは鱗と巣蜜で悩んでいたようだが巣蜜を選び、

早速食べていた……。


巣蜜はマンホールぐらいの大きさがあるので、

バルタスさんに一口大に切ってもらい、

皆に振る舞っているようだ。


リオウさん達の眉間に少し皺が寄っているのは、

巣蜜の値段を考えているからかもしれない。


全員が賞品を選び終わったところで、

バルタスさんに、何か一言話して締めろといわれる。


特に話すことはなく、まだまだ食事会は続くので、

「引き続き、楽しんでください」と告げると、

オウカさん達からため息をつかれ、

ヤトさんや黒達からは、なぜか温かい眼差しをもらった……。


色々腑に落ちないが、藪をつついて蛇を出すのは嫌なので、

黙っていることを決めた。


なので、エリアルさんの「ジャックならため息をついただけで、

噛みついてきたのに、つまらない」という呟きは、

聞かなかったことにした……。


とりあえず無事、入賞者の発表が終わった。

僕が席に戻ったのを見て、アルトが立ち上がり一目散に、

料理のある場所へと移動する。


きっと、シルキナさんが釣った魔物のお刺身を、

取りにいったのだろう。


それをみて、胃に空きができた人達も足取り軽く、

自分の食べたいものがある場所にいき、

皿に料理を盛り付け始める。


あちらこちらで賑やかに話す声が響き、

入賞者の発表前よりも、どこか砕けたような、

気安いような雰囲気に包まれていた……。


ふと、ケルヴィーという名前を使い、

この拠点で、チームの人達と過ごしていたであろう、

かなでのことが脳裏をよぎる。


かなでも、チームの人達と、

こんな食事会を開いていたのだろうか。


楽しくお酒を飲んでいただろうか。

心から笑っていただろうか。

孤独を覚えることなく、お酒を飲んでいただろうか

そうだったらいいのにと……心から思い、

そして思いなおす。


(きっと、かなでは笑っていたはずだ……)


心の底では、この世界に対する憎しみがあっただろう。

孤独に苛まれた日もあっただろう。


だけど……僕は……。

彼がとても愛されていることを、もう知っていた。


冒険者達に。

この国の民達に。

彼が助けた人達に。

そして花井さんの一族に……。


それは、かなでがその人達に心を向けていたからだ。


庭に置いてある『魔王』と名付けられて使われている魔導具。

その中で話す、かなでの声は文句をいいながらも楽しそうだった。

『ケルヴィー』とかなでを呼んでいた声は、苦情を紡ぎながらも、

親しみが込められていた。


(どうして、かなではこの拠点を僕に勧めたんだろう……)


他にも何件か物件があった、

オウカさん達が管理してくれているものもあった。


なのに、どうしてここを僕に勧めたんだろう……。

その理由を考えようとしたそのとき、

心配そうに僕を呼ぶアルトの声が聞こえた。


「師匠?」


「うん?」


「どうしたの……?

 疲れたの?」


「大丈夫だよ。どうして?」


「師匠、ちょっとぼんやりしてたから」


「ごめんね。プリンのことを考えていたんだよ」


本当のことをいうわけにもいかないので、

理由になりそうなものを考えて答える。


「プリン!」


アルトが嬉しそうに尻尾を振るが、

アルトの手の中にある、

山盛りの料理を食べてからになるだろう。


「プリン……」


「俺、食べれるかな……」


「料理を取ってきたの、失敗だった?」


僕の言葉に、ミッシェル達やセイル達が、

絶望したような表情を浮かべて、

自分達が盛り付けてきた料理を見ていた。


「大丈夫だよ。

 他の人達もまだまだ料理を食べるだろうし、

 今持っているものを食べても、

 食後のお茶がでるころには、

 食べることができるようになっているよ」


アルトと違い、クロージャ達のお皿の上には、

軽く盛り付けられているだけなので、

それを食べても、プリンぐらいなら入ると思う。



ジゲルさん達が気をつかって、

料理を取りにいくといって、アルト達に席を譲ってくれた。

子ども達はトッシュさん達にお礼をいって、

席に座っていくが……。


僕がいてもいいのだろうか?

こう、内々の話とか、僕に聞かれたくないこととか、

あるんじゃないの?


遠回しにそういったことを伝えると、そういう話は、

今日の夜、たき火の前で話すのだと教えてくれた。

ロイール達やミッシェル達の表情から、

僕とも別れがたいと思ってくれているようだと気が付いた。


アルト達が会話に花を咲かせているのを聞きながら、

僕はゆっくりと水を飲む。

本当はお酒を飲みたいのだけど、

アルトの前でお酒を飲むと、眉間に皺が寄るので、

我慢している……。


まぁ、子ども達の前で、

いつものペースで飲むのも、教育に悪いかなと、

思ったのもあるけれど。


だけど、そろそろ水を飲むのも飽きてきた……。

目の前に美味しいお刺身があるのに、

お酒が飲めないのはちょっと辛い。


一杯だけ注いでこようかと考えていると、酒肴の人達の、

「どうして、冒険者になったのか」という会話が聞こえてきた。


それまでアルト達は、僕には共感できない何かを楽しそうに、

話していたのだけど、ピタリと話すことをやめ、

顔をそちらへと向けて、酒肴の人達の話に耳を澄ませる。


楽しそうに語られていく理由は様々だ。

子どもの頃から憧れていたとか、

生きるためだったとか、手っ取り早かったとか、

美味いものが食べたかったとか、友達に誘われたからとか、

一攫千金を狙ったんだとか……。


真面目な理由から、

どう考えても冗談だと思うようなものもあった。


楽しそうに語る彼らの姿に、

周りの人達も感化されたのか、

話がさらに盛り上がっていく。


ここにいるほとんどの人が冒険者なので、

酒肴の人達と同じように、冒険者になった理由を話していたが、

一部、違う職業に就いている人達もいる。


例えば……オウカさんやオウルさんとか……。

そんな彼らに、突撃していったのはセリアさんで、

彼らに「どうして、エリアルとマリアを選んダノ?」と聞き、

オウカさん達が、目を見開いてセリアさんを凝視していた。


オウカさんが言葉に詰まっている間に、

酒肴の女性達が気配を薄くしながら、

彼らの周りにゆっくりと移動している……。


そのことに気付いた、

オウルさんがこちらを見た気がしたが、

僕はそっと視線を戻し、

彼らの話が終わるまで、静かに過ごすことに決めた。


もし、盛り上がって収拾がつかなくなっても、

きっと、バルタスさんとエレノアさんが、

なんとかしてくれるだろう。多分……。


そして、ここでもアルトがセイルに、

「どうして冒険者になろうと思ったの?」と聞いていた。


セイルが冒険者になりたいということは、

皆知っていたようだけど、驚いたことにクロージャ達も、

その理由を聞いたことはないらしい。


孤児院の子ども達は多かれ少なかれ、

一度は「冒険者になる!」と口にするため、

あまりに気にしなかったようだ。


だけど、ワイアットが家族との関係から冒険者を選んだように、

クロージャがアルトと話して、冒険者になる道を見つけたように、

ロイールが鍛冶屋に変わる希望を、冒険者に定めたように、

ミッシェルが新しい味を求めて、冒険者に夢見たように、

セイルにも理由があるんじゃないかと、アルトは考えたらしい。


セイルはそんなアルトの言葉に、

眉根を下げて困ったように笑った。


「セイル?」


「長くなるんだけどいいか?」


「うん。でも、話したくないなら、

 無理に話さなくていいよ」


「大丈夫。

 あまり楽しい話じゃないけど、

 よかったら……聞いてほしい」


真面目に話すセイルの言葉に、アルトは食べるのをやめ、

真剣な面持ちで頷き、セイルと向き合ったのだった。



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