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8.一人で遠征



 ~~~~~~~~~~~~~~


 1582年3月11日-

 越前国勝山城が襲撃される。城主柴田勝安討死。


 1582年3月14日-

 前田越前守利家、一万五千の兵を率いて勝山城へ進軍。一揆首謀者の長景連は能登へと逃亡。


 1582年3月18日-

 加賀国で三度一向宗が挙兵。首謀者は鈴木重泰で瞬く間に北部2郡を勢力下に置く。


 1582年3月24日-

 新発田重家率いる揚北衆が挙兵。


 1582年3月30日-

 上杉景勝、一万の兵を率いて越後を北上。


 1582年4月2日-

 根来衆が紀伊遠征中の三好義継の軍を襲撃。三好軍は一時大和に撤退。


 1582年4月4日-

 上杉景勝、揚北衆の反乱を鎮圧。新発田重家他10数名を斬首。


 1582年4月5日-

 三好義継、紀伊の根来衆を攻撃しこれを撃破する。三好軍は紀伊を南下し残党狩りへ。


 1582年4月6日-

 前田利家、能登に潜伏する長景連を討伐。


 1582年4月9日-

 前田利家、加賀国を再平定。鈴木重泰は自害。


 1582年4月20日-

 北陸の再平定に貢献した前田、上杉両名および紀伊討伐に貢献した三好を賞すべく三人を近江に呼び寄せる。その饗応役に明智光秀が抜擢される。


 1582年5月3日-

 安土にて前田、上杉、三好を労う宴を開催。しかし、宴で出された膳の内容に腹を立てた織田信長が

明智光秀を折檻す。宴は中断。饗応役を堀秀政に変更して翌日実施。


 1582年5月5日-

 明智光秀に備中攻略の応援に向かうよう命が下される。明智光秀、坂本に戻り出陣の準備に取り掛かる。

 1582年5月7日-

 織田信長、信忠は帝に拝謁するために京へと出発する。


 1582年5月9日-

 織田信長、本能寺に到着。同日に信忠、妙覚寺に到着。公家衆を呼び宴を催す。


 1582年5月10日未明-

 突如、明智軍が京の街に押し入り、本能寺と妙覚寺を包囲する。各々で戦となり、火の手が上がる。



 …私はこの時、本能寺にいた。


 そして、信長様を亡き者にせんとする明智様と会うていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~




 1582年1月15日 越前国北ノ庄城-


 雪の積もる真冬の越前を俺は訪れた。


 寒い。



 もう一度言うが、寒いのだ。


 この時代、冬に軍事行動を起こすのは死と同義である。動くとすれば雪解ける春先と予想して、冬の間に前田様にお会いするためにやってきたのだ。



 それにしても寒い。


 待たされている部屋も底冷えしていて足も痺れている。


 それでも我慢して待っていると、白髪交じりの男がやってきた。前田様だ。


「吉十郎殿お待たせした。」


 そう言うと一旦上座に座る。挨拶を済ませるとさっと俺の横に座りなおした。


「儂は吉十郎殿とは対等でありたいと思うとる。悪いがこうさせてくれ。」


「は、はあ…」


 戸惑いながらも俺はここへ来た理由を説明した。


「儂の領内で一揆が起こる?」


「はい。現時点では首謀者も場所もわかりません。ですが必ず起きます。」


「…目的は?」


 俺は簡潔に説明した。一揆が起これば前田様は軍を動かす。規模にもよるが直ぐに鎮圧されるだろう。そうすれば前田様に功がつく。そうなればその功を労うために信長様が近江に呼び寄せる。


「…つまり一時的に儂と儂の軍を引き離す目的で?…にわかには信じられぬが。」


「信長様はこのことをご承知しております。」


「ん?つまり大殿は誰かの企みに敢えて乗ろうとされているのか?」


 俺は自分の考えを説明した。


「…相分かった。だがこの企み…儂だけではないのであろう?」


「恐らく越後、甲斐、上野、大和でも同じことが起こると見ております。」


「大掛かりじゃな…だが、そうだな……なるほど、明智殿と羽柴殿か…」


 このお方は鋭い。俺はこれ以上の言葉は不要と小さく頷いて見せた。


「わかった。気を付けておこう。それから上杉殿にも伝えておこう。直江兼続という男がおってな。なかなか話の通じる男なのじゃ。あ奴ならば今の話を秘密裏に進めることもできよう。」


 直江兼続…今や上杉家の筆頭家老の地位か。直江様なら大丈夫であろう。


 それから俺は前田様といくつか他愛もない会話をして、北ノ庄を辞し若狭へと向かった。



 1582年1月11日 美濃国岐阜城-


 真田源次郎から小さく折りたたまれた手紙を渡された信忠は、何気ない仕草で開封し中身を読んだ。小さな文字でびっしりと書かれている。一字一句余すことなく読みあえると源次郎を見た。


「お前はこの手紙を読んだか?」


「…いえ。」


「読め。」


 信忠は紙を源次郎に渡した。恐る恐る源次郎は手紙を読み、そして驚愕の表情を見せた。


「誰にも言うでないぞ。お前の父にもだ。」


「は、はは!」


 源次郎は慌てて平伏する。


「そう畏まるものではない。……それにしても無吉のやつ、途方もない考えを打ち出してきおったな…。我が奉行衆が見れば逆鱗に触れそうなくらいよ。…されば私と源次郎だけの秘密にしておくべきか。」


 独り言のように呟き、信忠は紙を丸めて炭火で燃やしてしまった。源次郎は知ってしまった秘密の大きさにただ口をパクパクさせるだけであった。




 1582年1月18日 越前国金ヶ崎城-


 若狭に入る前に俺は義兄弟のもとを訪ねた。金ヶ崎には顔見知りが多く、俺が顔を隠して裏門に行くと事情を察した小姓が手早く俺を別の間に引き入れた。寒い中暫く待っていると同じく顔を隠した男が入ってきた。


「いやはや、いつの間に我が城にも家臣を潜り込ませておったのじゃ無吉?」


「私のことを良く思って頂いているだけです。帯刀様に忠誠を誓っております。」


「わかっておる。それにしてもこちらは城から出られず退屈しておったのだが、お前は何をしている?」


 俺の来訪ににこにこしていた帯刀様だが、俺の話を聞いていくうちに表情が段々と変わっていった。


「…大それた策略だな。普通は誰も気づかぬぞ。言っても誰も理解できぬぞ。」


「敵はもっと大それた策略でこちらを攻めております。」


「儂は来月には京に戻って最後の仕上げに取り掛かるが、その後はどうすればいい?」


「原田様と安芸に向かって頂きたく。できれば四国周りでお願いいたします。」


「原田殿と?鉄甲船を使えという意味か?」


「いえ、舟はできるだけ目立たずに安芸に上陸頂きたいのです。」


「…さっきから難しいことばかりだぞ。村上家に見つからずに瀬戸内を渡れるとは思いませぬ。」


「はい、だから最後は村上家にお願いをするのです。…これは蒲生様からの情報ですが、以前蒲生様が四国に渡られたときに来栖村上家と接触しております。彼らは条件次第で織田家に従属することを了としております。」


「何?…なぜ内大臣様に報告されていない?何故お前が知っている?」


「私の家臣、多賀勝兵衛という者が蒲生様に随伴しておりました。その者を通じて蒲生様からこの件伺っております。」


「なぜ黙っていた?」


「毛利との戦において切り札となると考えたからです。」


「…此度の件はその切り札を使っても良い内容…ということか?」


 俺は手短に過去の話も交えて説明した。帯刀様は絶句されていた。


「…し、しかし皇位の継承権となると、誠仁(さねひと)親王よりも下になるぞ。どうやって?」


「帝は弟君に負い目を感じておいでです。」


「なるほど。何かあればその親王の存在を明かして帝からの停戦命令を引き出させるわけか。」


「我らはその前に親王を奪還し、毛利家を悪逆と誹ります。」


 俺は更に細かく段取りを説明し詳細を詰めていった。それから若狭の動向について確認する。若狭は小浜(おばま)津という大きな湊があるが、長束利兵衛という者が取り仕切っており、彼の者の動向を探ることとなった。俺の前世では五奉行の一人として豊臣秀吉に仕えていた者だ。この世界の羽柴様と何らかの接点があるかもしれない。



 1582年1月21日 美濃国岐阜城-


「殿!」


 のんびりと午後の日向ぼっこを松姫と楽しんでいた信忠のもとに平手汎秀が急ぎ足でやってきた。松姫は汎秀に一礼して部屋を去っていく。途端に信秀の表情が険しくなった。


「平手、松とのゆっくりとした時間を奪っておいてどうでもいい話であればその首切るぞ!」


「なんとでも。金ヶ崎の帯刀殿より九鬼の舟を何艘か借用の話が来ております。帯刀殿が南側の海の舟を利用する目的が我等では見当たりませぬ。殿は何かご存じでは御座りませぬか。」


 平手汎秀の話を聞いて信忠は一瞬表情を変えた。そして小声で返事した。


「断れ。…断ったうえで密かに長島に舟を準備させろ。」


 汎秀は一瞬間をおいて頷いたのち主君を睨みつけた。


「はぁ?意味が分かりませぬ!殿の我儘な命に従うことはできませぬ。帯刀殿の依頼はお断りさせて頂きます!」


 大声で怒鳴るように言い返すと怒りを表現するかのようにどんどんと足を鳴らして部屋を出ていった。

 静かになった部屋を松姫がそっと覗き込んだ。


「松、中に入れ。」


「……その、よろしいのですか?」


「構わぬ。平手は常に私には怒っているから。」


 だが松姫は聡かった。


「今のやり取り…何か平手様と内密なお話をされたようですが…。」


 松姫の言葉に信忠は苦笑する。


「無吉の仕業だ。私と帯刀の兄上との仲が悪いと流布しておるのだ。」


「まあ…でその先には何が?」


「見ておくがよい。あ奴の計略は壮大すぎる。全貌が見えるのはもう少し先よ。」


 顔を綻ばせながら話す信忠に松姫は少々妬いた。夫の中での生駒吉十郎は自分以上の存在なのだと改めて理解したからだった。




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