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14.信長様暗殺未遂事件

お待たせいたしました。

三話連続投稿(一話目)です。




 安土城二の丸に曲者が侵入したとの報告はあっという間に城内に広まった。城に詰めていた多くの武士が報告を聞いて二の丸に集まった。

 二の丸に向かう奥座敷の庭に隠れていた男は険しい表情ながらも笑みを浮かべて俺を見た。時折り周囲にさっと視線を移し、状況を把握している。まだ何か諦めていない様子だ。俺は縁側から庭に一歩踏み出し男に声を掛けた。


「何者だ?此処を奥座敷と知っての侵入か?」


 近江小姓たちが俺の動きに合わせるように男ににじり寄る。


「…武田に仕えていた者だ。」


 男は震える声で返事をする。俺は更に睨みつけた。男が一歩後ずさる。怯えているようにも見えるが何か企んでいるようにも見える。

 俺と男が睨み合っていると渡り廊下の方から得物を持った男たちが次々と現れた。男たちは侵入者を取り囲み、得物を構えて立ちふさがった。その様子を見て俺は睨みつけるのを止めて一息ついた。いくら手練れでもこれだけの人数に囲まれれば逃げ場はないだろう。しかし、大騒ぎになったな。さすがにここに集まった者の何人かは俺を見て“池田吉十郎”だと気づかれるであろうな。…野次馬のように集まって来たな。こんなにも城内には人が詰めていたのか。俺は一旦隠れよう。


 周囲が騒がしくなり俺は警戒を解いて周りの者に悟られずに部屋に戻ろうと踵を返した。そして縁側に上がったところで俺は足を止めた。




 此処に、多くの人が集まっている……。




 つまり他のところからは人が減っている……?




 俺は振り返って武士たちに囲まれた男を見た。男は周囲の隙をついて壁をよじ登り小刀を抜いた。周囲に視線をくばり、得物を持つ男たちと距離を取ろうとしている。その動きは前世のテレビで見た忍びのような…。



 この男は囮だ。



 俺はそう結論付け、本命がどこに現れるか考えを巡らせた。安土城にいる重要人物は二人。信長様と御台様。囮の男が此処に居ると言うことは、二の丸におわす御台様とは考えにくい。となれば本命が狙う相手はただ一人!



 俺は無言で走り出した。集まってくる輩をかき分けて渡り廊下から本丸に行き、天守を駆け上った。俺は今信長様が何処におわすかなんて知らない。いちいち考えている間もない。自分の直感を信じ御殿の方には向かわず天守に向かった。

 急な階段を3つばかし駆け上り、六角の煌びやかな間を通り抜け、天守最上へと一気に登った。



「…!!」


 そこにはうずくまる黒い大男と太刀を振り下ろす男、そしてそれを大太刀で受け止めて顔をしかめる信長様がいた。


「信長様!」


 俺は咄嗟に叫び、信長様に駆け寄ろうとした。


「弥助を引き寄せよ!そこで転がっていては邪魔だ!」


 信長様が俺の動きを制し、うずくまる大男を先に救出するよう指示した。俺は迷うことなく弥助に駆け寄り襟首を持って階段へと引きずった。弥助は腹を刺されていた。引きずった床に血が付いていることから傷は深いと思われる。俺は弥助の肩を軽く叩き「take a Rest!」と言うと信長様に刀を向ける男を睨みつけた。


「……何者だ?誰の差し金だ?」


 男は信長様が受け止めている刀を一旦引き、再度構えなおして俺に視線を向けた。


「…これはこれは……“池田吉十郎”殿()にこんなところでお会いできるとは嬉しい限り。織田信長の首を取ったら貴様の首も持って帰らせてもらう。」


 俺は男の顔を凝視した。鼻から下を布で覆い表情が判らないのだが、俺を見て笑っているように思えた。…こ奴は俺を知っていて、恨みを持っている。俺は一歩前に踏み込んだ。同時に男も足を前に出す…信長様に向かって。後2歩進めば信長様に刃が届きそうだ。俺のほうは男まであと4歩ほど必要なうえに丸腰…。


 俺はこの状況を打破する次の一手が見つからず、動けなくなった。その様子を見た男の顔を覆う布が大きくゆがんだ。


「貴様はそこから動かず見ておけぃ!刀身のない大太刀で身を守らんとするこの男を鞘ごと切り伏せてから貴様を討ち取ってくれようぞ!」


 男は叫ぶと同時に更に一歩踏み込んだ。俺もその動きに合わせてもう一歩足を出した。男との距離は3歩になったが信長様との距離は1歩。男が振り上げて振り下ろすと同時に踏み込めば信長様は切られてしまう。

 幸いにも信長様の持っている大太刀には実は刀身があることだ。信長が抜こうとしないから刀身がないと勘違いしているようだが、これを持っていれば一太刀目は何とか防げる。後は俺があの男を一撃で殺す方法を考えれば…。



 駄目だ!たとえ信長様が男の太刀を防いでも返す刀が丸腰の俺を十分に狙える!俺は男が一太刀目を振るう前に男の動きを封じるしかない!だがどうやって!?


「ふはははは!貴様はおとなしく其処で見ておれぃ!すぐに地獄に落としてやるわ!」


 男は高らかに笑い太刀を振り上げた!俺も足を踏み込む!





「…無吉、これは貴様のだ。存分に使え。」





 信長様は後ろに倒れ込みながら持っていた大太刀を俺に投げ渡した。その勢いで大きく後ろにのけ反り、男の振り下ろす刃を寸前で躱した。


 俺の身体は自然に動いた。俺に向かって弧を描いて飛んできた大太刀を左手で受け取り、鞘に仕込まれた接ぎ木を外す。同時に体を回転しながら右手に持ち替え遠心力で大太刀から鞘を抜き払った。


「なんだと!」


 男が大太刀から現れた銀色に輝く太い刀身に驚いた。俺は回転しつつ太刀を振り下ろした状態で固まる男に思いきり振り切った。




 ビュン!




 風を鋭く切り裂く低い音と共に、男の身体が吹っ飛んだ。


 振り下ろした両腕が太刀ごと切断され、その延長で男の身体が胸のあたりから二つに分かれてそれぞれが別の方向に吹き飛ばされた。



「ふぅううううう!」



 大太刀を振り切った俺は呼吸を整えるべく大きく息を吐いた。


「…よくやった、無吉」


 倒れ込んだまま信長様が俺をほめてくれた。俺は大太刀を放り投げ信長様に駆け寄った。


「大殿様!ご無事ですか!」


「儂は大丈夫だ、弥助を助けよ。」


「弥助よりも大殿様のお命です!なんで大太刀を投げ捨てるのですか!」


「儂には抜けぬ代物だお前に渡すほうがよいであろう?それよりも弥助を助けよ。」


「無茶苦茶に御座ります!肝が冷えました!」


「お前の肝などどうでもいいわ!早く弥助を助けよ!」


 俺は怒鳴られグーで殴られた。


「ダ…大丈夫…ニ…ゴザル!」


 階段近くの弥助がカタコトの日本語で答えた。俺は信長様に一礼して弥助に駆け寄り様子を伺った。弥助は俺の手を握り締めてほほ笑んだ。


「g…Good Job! Kichi…jyuroh…」


 俺は弥助の手を握り返し力強く頷いた。





 その後、駆け付けた小姓たちに俺は取り押さえられたが、信長様の大喝を浴びて何とか解放され、弥助も腹を斬られたが何とか手当てが間に合った。

 二の丸に通じる庭に現れた男は逃走しようとして捕えられ地下牢に放り込まれた。信長様を狙った男を斬ったことを伝えると観念して全てを話すと申し出たそうだ。


 俺は一旦奥座敷に戻されていたが、数日経って信長様に呼び出され御殿の小広間に下座した。多くの側近が出張っており、病から回復された丹羽様と池田の親父殿、忠三郎、蘭丸だけが座っていた。更に俺の後に続いて村井源五郎様も下座され、上座に信長様が着座された。


「源五郎、京の報告を。」


 信長様はすぐに報告を促した。源五郎様は村井吉兵衛様の代理として安土に報告に来ていた。京で失火があり、その混乱に乗じて平岩親吉が逃走を謀ったのだが服部半蔵殿の配下に捕らわれ安土まで護送してきたそうだ。半蔵殿も念のため護送されたが、本多弥八郎、酒井忠尚、石川数正などの旧徳川家臣が安土に送還され詰問されていたそうだ。


「平岩は徳川家と連絡を取っておりました。石川は連絡を受けても断り続けていたようですが、旧主への想いもあり、報告しなかったようです。」


「ふん…石川殿も情に厚すぎる男よ。」


 池田の親父殿が失笑する。


「されば此度の罪を許してやることで、その情が織田家に大きく傾くでしょう。石川殿は有能な御仁で三河の安寧にも貢献しており、慕う国人共も多いと聞きます。」


 忠三郎が表情を殺して信長様に進言した。信長様は興味なさげに聞いていたが「忠三郎に任せる」とだけ言って次の報告を促した。


「大殿のお命を奪わんとした男は、柳生厳勝という者だそうです。そして二の丸で捕えた男は、加藤段蔵と名乗っております。」


 ほほう…すごい名が出て来たぞ。


「厳勝…勘九郎から報告があったな。上野の真田昌幸に接触してきたと与兵衛(河尻秀隆のこと)が言っていたわ。…誰だ?」


 信長様が興味ありげに聞き返した。…俺を見ながら。俺は一旦周囲の確認をしてから頭を下げた。


「恐れながら…大和に柳生と名乗る一族がおりました。先の“大和仕置き”の折に当主柳生家厳を討ち果たしております。厳勝という者はその当主の子で御座いましょう。」


 俺の答えに周囲はため息交じりの首肯をした。俺は大和からは恨まれている。だからあの時俺の首を求めたのだ。納得も行く。


「勘九郎様の配下に同じ柳生の者がおります。首実検も兼ねて詰問しては如何でしょうか。」


 俺の意外な提案に信長様は驚いていたが頷いて蘭丸に使者を送るよう指示した。


「加藤と申す者は武田旧臣に顔合わせ致しましょうか。」


 加藤段蔵について源五郎様が進言する。


「加藤…武田に代々仕える忍びの者に“加藤”と名乗る一族がいたそうです。その棟梁は代々“加藤段蔵”の名を継承したと聞いております。」


 俺は口を挟んだ。一同がその情報に驚く中、信長様がニンマリした。俺は嫌な予感がして話を変えた。


「…して、某を呼ばれた理由をお聞かせ下さりませ。」


「儂を襲うた男の首実検にと思うていたが…気が変わった。加藤という者から全てを吐き出させよ。然らば淀城を返してやる。」


 信長様の言葉に一同が再び驚いた。俺は誰かに嵌められて反逆行為を擦り付けられており、それは公になっている。そして金ヶ崎にて幽閉されていることになっているのだ。此度の騒動も偶々城内には信長様の直臣しかいなかった為、俺の存在を何とか抑え込めたそうだが、俺を復帰させるとなると、ある程度諸将が納得するだけの“功績”が必要だ。

 当然今回の信長様暗殺阻止も考慮されるあろうがもうひと働きが必要なんだろう。でもそれが何故加藤段蔵の尋問なんだろうか?




 …………。




 たぶん、一族丸ごと配下にしろ、ということだろうな。




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