29.消えたローラン
ダンテの呼びかけにみんなが集まったのは、それから十分後だった。
メンバーは、ギルバート、オスカー、ダンテ、ヒューイ、リーンの五人に、セシリアを入れて六人だ。アインとツヴァイの双子とジェイドにはローランの様子を見に行ってから来るようにと伝えている。ローランの名前を出した時、マルグリットはわずかにだが反応していた。もしかするとマルグリットがローランに何かするかもしれない、そうセシリアは考えたのだ。
ちなみに、ある程度の事情を説明するために、ローランの素性は集まった直後、
みんなに明かしていた。本当ならば、ローランに承諾を得た方がいいのかもしれないが、首尾よく動くため、この際なりふり構ってられなかったのだ。
ローランがノルトラッハの王族だと知って、ダンテ以外の人間は驚いていた。心配していたアインとツヴァイだが、『弟ってだけなら関係ないだろ』『まぁ、そうだね』と苦笑を浮かべるだけだった。本心かどうかわからないが、少なくとも恐れていた事態にはならないようだった。
セシリアからマルグリット襲来の話を聞いた後、場の空気は一気に重たくなった。
狙われているのが自分たちだと言われているのだから、それも当然である。
そんな話しにくい空気が漂っている中、最初に口を開いたのはギルバートだった。
「マルグリットの話と現在の情報を総合すると、ジャニスは自身の力を使って街の人にこの学院を襲わせる気なのかもしれないですね」
「そう考えると、降神祭は奴にとって予行練習のようなものだったのかもしれないな」
オスカーの発言にギルバートは「そうですね……」と顎を撫でる。
降神祭の規模は五十人程度。
予想した通りに、ジャニスが占いをしながらアーガラムの人たちに障り発芽のきっかけを与えていたとするのならば、数はその十倍以上になるだろう。本気で学院を落としに来るのならば、数はそのさらに倍かもしれない。
「これは、事が起こってから対処するんじゃダメな感じだねー」
「でもどうするんですか? あちらの行方はいぜんとして知れませんよ?」
ダンテの言葉にリーンが厳しい声を出す。
「そんな事、俺に聞かれてもねぇ? 俺、頭を動かす担当じゃないし!」
「とりあえずは、アイツらの寝ぐらを探さなきゃだな」
「マーリンたちには頼んでるわけ?」
「……頼んでるけど、見つけたって話は聞かないぞ」
どうやら最近ではヒューイがマーリンたちへの連絡役を務めているらしく、彼はダンテの問いに緩く首を振った。
そんな彼らのやりとりを見ながら、ギルバートは厳しい顔つきになった。
「でも急がないといけないかもしれないですね」
「どういうことだ?」
「相手はもう俺たちに作戦がばれたことを知っているでしょう。それならば今晩とまではいかないかもしれませんが、確実に作戦を早めてくるでしょう。それこそ俺たちが対処できないような期間で作戦を実行に移してくると思います」
ギルバートの的確な予想にオスカーの声も低くなる。
「それはまずいな……。今回の話だけで兵を動かすにはそれなりの日数がかかるぞ? 警備の兵を増やすぐらいの対処ならばすぐにできるが、それ以上はある程度の証拠が必要だ」
「ま。所詮、たった数人の学生の意見だからねー」
「それでも全くの無視をされないあたり、それなりに考慮はされてるんだろうけどな」
オスカーの言葉に、ダンテとヒューイがそう意見する。
そんな彼らの意見を聞きながら、セシリアの頭の中は別のことでいっぱいになっていた。それは、ローランのことだ。
マルグリットはローランの名前に反応していた。これでマルグリットがローランに何かしていたら、それは失言をしてしまったセシリアのせいである。
事情を話すためにセシリアはここに残らざるを得なかったが、本当はジェイドたちと一緒にローランの安否を確かめに行きたい気持ちでいっぱいだった。
「ねぇ、ジェイドたち遅くない?」
セシリアがそう口にしたのは、ローランを危険な目に晒してしまったかもしれないという罪悪感からではない。本当にジェイドたちが遅いと感じたのだ。
話し合いが始まってもう三十分が経とうとしている。それなのに、部屋に様子を見に行っただけのジェイドたちはまだ帰ってきていなかった。これはさすがに遅すぎる。
「本当だね。どっかで道草食ってるのかな?」
「そんなわけないだろ」
能天気なダンテにヒューイがつっこみを入れたその時だ。
部屋の扉が勢いよく開いて、アインとツヴァイが飛び込んでくる。
「みんな大変!」
「ローランがいない!」
二人の言葉に、そこにいた全員が顔を見合わせる。
セシリアは顔を青くさせてかぶりついた。
「どういうこと!?」
「どういうことって、そのままだよ。ローランが部屋になかったんだ!」
「ジェイドがまだ一人で探してくれてるけど、あの感じは多分いないと思う」
オスカーは口元を押さえた。
「それじゃ、もしかして本当にマルグリットが……?」
「そうとも限らないみたいでさ……」
意味深な言葉を吐いたのはアインだ。彼はまるで内緒話をするように声を潜ませる。
「実は、ローランが一人で外に行くのを見たってやつがいるんだよ」
「え?」
「なんだか焦ってたみたいで、声をかけれなかったって……」
その言葉を聞いて「もしかして……」と呟いたのはリーンだった。視線が集まると、彼女は自分の意見を口にする。
「ローラン様はセシル様とマルグリット様のお話を扉の外で聞いていたのではないですか? それで、ジャニス王子がいそうなところへ向かった……」
「え!? でもローランはジャニスの行方を知らないんじゃ! それに、ジャニスが隠れていそうな場所は、話を聞いてギルが調べたって」
セシリアの視線を受けて、ギルバートは眉間に皺を寄せた。
「もしかしたら、本当に隠れていそうな場所は、俺たちには教えていなかったのかもしれないね」
「どうして!」
「それは、俺たちがジャニスを見つけたら、彼が罰せられるとわかっていたから……」
「つまり、ローランは兄の悪事をある程度知っていて、それで匿っていたということか」
オスカーの言葉にセシリアは青くなった。
つまりローランは今ジャニスの元へ向かっているということだ。
ローランがジャニスを慕う気持ちは本物だが、ジャニスがローランをどう思っているのかはわからない。もしかすると、会った途端に……なんてことも考えられる。
「ま、匿っていたというよりは、可能性のある場所を教えなかったってことでしょうけどね」
「早く探さないと!」
「でも、探すって言ったって……」
渋い声を出したのはヒューイだった。どうやって探すんだということを言いたいらしい。
セシリアだってそんなことわからない。でも一刻も早く探し出さなければ、彼の身が危険にさらされてしまうかもしれないのだ。
焦るメンバーに「あの……」と手を上げたのはツヴァイだった。
「僕に任せてもらえませんか?」
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