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7.再び痴漢されてしまいました

「順子先生。おはようございます。」


 乗り換え駅でメイクを済ませ、約束通りの時刻と車両に乗り込んでいくと順子さんが居た。周囲を伺うが痴漢は居ないようだ。


「・・・チーちゃん。おはよう。」


 今一瞬、顔をジッと見つめられ全身を見られた気がする。昨日と同じ制服姿のはずだが何処か変だろうか。


「ちょっ。何をするんですか?」


 順子さんがいきなり抱きついてきたのだ。胸の柔らかな感触が伝わり、凄くヤバイ。何か胸を押し付けてきている気がする。


「だって勝てるところと言えば、この胸しかないもの。」


「勘弁してください。先生は女性なんですから、そんなことはしてはいけません。」


 俺は力ずくで身体を引き離す。まさかの痴女行為に何を言えばいいのだろう。これをモテるとは絶対に言わないよな。


 結局、あのあと直ぐに帰るという約束で全員バイト先に付いてきてしまったのだ。


 俺の着替えとメイクが終わり、皆の前に恐る恐る出ると絶句されてしまい。蜘蛛の子を散らすように居なくなってしまったのだ。


「何、極めてんのよ! もう女としてのプライドがズタズタよ。」


 道理で何も聞かずに消えてしまったわけだ。俺的には助かったけど。


 実はあの店。客が注文した飲み物を出した後、10分ほど向かいの席に座りお喋りをするルール。その間に自分の飲み物も注文して貰うと時給がプラスアルファされると共に更に座っている時間が長くなるシステムなのだ。


 いかがわしい店じゃないかと問い詰められたときに内心汗を掻いていたのだ。


 そのときに順子さんがそんなことを考えているとは思いもしなかったのである。全然、教師らしくないよな。この人。


「そんなことないわよ。脛毛はそのままだし。」


 チラリと制服のズボンをたくしあげてみせる。色は薄いが確かに生えているのだ。


「そんなあるか無いか解らないもの。」


「ヒドイわ。これでも気にしているのよ。言葉使いもオネエ丸出しだし。」


 これは店で逆にウケているから直さないのだけど。


「高い声も出せるじゃない。」


「まあね。でも声帯をイジっているわけじゃないから。」


「えっ。声帯をイジると高くなるの?」


「結構居るよ。そもそも女性として育てられたという設定なのよ。男子高校生の制服だからオネエに見えるくらいにしておかないと単なるギャグじゃない。だから頑張ったの。偉いでしょ。」


 無理に高い声を出そうとすると痛々しくて全然女らしくないので好きなじゃないのだ。それならハスキーボイスのほうがマシである。


 男の娘といっても声帯とか脱毛とか、その殆どが何処か身体を改造済みだったりする。ただニューハーフと違って豊胸手術や性転換手術を受けないためホルモン治療をしない人が多いだけだ。


「頑張る方向性が間違っているわよ。」


「でも先生に調べて貰った通り、アタシには校則という制限があるじゃない。その殆どが守られていないとしても順守する形でオネエをしたかったの。だから女性らしく出来る範囲を増やしたかっただけなんですよ。」


 女子高生たちは殆ど守ってないが、アイラインはエンピツやペンタイプ限定とかファンデーションは薄目に使うのなら良いとか口紅はダメでも色付きリップなら良いとか細かく校則が決まっているのである。


「そうなの?」


「そうなんですよ。それにアタシは女性が好きなオネエなんですから順子先生のライバルには絶対になりません。安心してください。」


「そうね。ライバルには絶対ならないわね。」


 やはり順子さんには彼氏が居るらしい。悔しいけどオネエ姿じゃあ俺の敗北は決定済みだ。素直にオネエとして紹介されるのが波風立たなくていいのかもしれない。


     ☆


 学校の最寄り駅に着き、ユウタたちと合流する。


「優子さん、昨日はありがとう。お小遣い大丈夫だった?」


 昨日、蜘蛛の子を散らすようにいなくなったあとに唯一残ってくれたのが優子さんだったのだ。その後、バイトが終るまでお客様として居てくれたのだ。それも時折ドリンクや食べ物まで頼んでくれたから、殆ど一緒にお喋りをして過ごしたのである。


「大丈夫です。これでも結構いいところのお嬢様なんですよ。」


「ということはタツヤはいいところのボンボン?」


「何故、疑問形なんだチヒロ!」


 隣でタツヤが抗議の声をあげるが目を合わせてくれない。


「まあそうですね。そうは見えないけど。」


「何で断言なんだよ優子。」


 タツヤの拗ねた表情が可愛いがそう言うともっと拗ねそうだしなあ。


「タツヤも何でアタシと目を合わそうとしないのよ。もう怖がったりはしないから、こっちに来てちゃんと話そ。」


「違うんだ。俺はチヒロがあんなに綺麗になるとは・・・あわわ。」


「へえ。アタシに惚れちゃったの? そういえば前から抱きつくと赤くなるもんね。そっかぁ。」


 タツヤに擦り寄っていくと視線を逸らしたまま動けないでいる。俺とは別の意味で硬直しているようだ。どう扱っていいか解らないのだろう。バカだなあ。


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