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64.オネエは悲鳴をあげたようです

お読み頂きましてありがとうございます。

「お待ちどうさま。」


 先付け、八寸、御造り、煮物、焼き物、箸休め、揚げ物、幾重にも重ねられた重箱の中から可愛らしい器が次々と出てくる。


「可愛いっ。」


 俺は偽オネエだが今の姿に合わせて黄色い声をあげてみる。前の2人も笑顔になっていく。こういうの好きだよね大人の女性って。持ってきた女中さんがひとつひとつ説明を加えていく。


 どれもこれも地元京都近郊で獲れる季節のものばかりだ。


「日本料理はこうではなくてはいけない。時々日本近海で取れない本鮪をお刺身として出して日本料理と称することがあるが苦笑するしか無いのだよ。京都は日本海にも太平洋にも近く豊富な種類の魚が揃っている。なにも遠洋まで出て行って獲った魚を出さなくても良いと思うのだがね。」


 ウンチクはウザイが代金を持ってくれるなら気にならないよな。


「確かにそうですね。」


 流石にそこまで考えたことは無かったが外国産の魚や肉、野菜を使った日本料理は外国で食べるものだけで十分だと思う。日本に居るのに日本で獲れた魚や肉、野菜を使わずに高級という理由だけで日本料理として外国産の本鮪が出されるのであれば本末転倒もいいところだ。


 まあ俺みたいに高級な日本料理を口にしない人々にとっては結構どうでも良いことだけど、純粋に日本の日本料理を楽しみたい人々にとって外国産本鮪は邪魔な存在なのだろう。


 どうしても本鮪の刺身が食べたければハロウズのような高級スーパーに行って買って食べればいいのだ。


 本鮪は1匹丸ごと買い取れないのが普通だ。


 目利きの料理人でも常に良い材料を仕入れられるとは限らない。下手なものを仕入れれば店の看板が傷付く。だから本鮪は仕入れないのだろう。


「ついついアタシのような庶民は材料の値段勘定をしてしまいがちですけど、どの料理を見ても細かく手を加えたあとがあって料理人たちの調理技術を食べていることが解りますものね。」


 そもそもどんな高級な料理でも原価は2割から3割くらいだ。そこに料理人やサービスを行う方々の人件費がプラスされて成り立っている。


「トモヒロ君は料理もするんだな。良いお嫁さんになれそうだ。」


 ああこの人も俺が女性になりたくてこんな格好をしていると決め付けているようだ。ややセクシャルハラスメント気味だったが我慢できる範囲だ。まあ世間の認識なんてこれくらいだったら良いほうなのだ。


      ☆


「ごちそうさまでした。ちょっとはばかりますね。」


 普段女装しているときは、トイレの問題があるので水分は極力摂らないようにしているのだが、とても美味しくてそれを伝えたいという感謝の気持ちから全て平らげてしまった。


「ここのトイレは突き当たりの右手が男性用、左手が女性用ですが着物姿の方のために全て個室になっているので、男女区別無く何処に入ってもいいのですよ。」


 おお至れり尽くせりだ。特にトランスジェンダーには有り難いシステムだ。そうは言っても男性用が有って入るのが問題無ければそちらを使いたいものだ。


「熱いお茶を用意しました。お連れ様はこちらの部屋でお待ちです。」


 トイレから出てくると女中さんが奥の部屋に案内してくれた。なんだろう。お腹が冷えたと思われたのかな。


「少し酔いを冷ましてもいいかな。お嬢さんたちは別の部屋に案内しておいたよ。彼女たちもほんのり色付いていたから今頃、羽を伸ばしているんじゃないかな。」


 結構飲んでいたものな。まだまだ時間はあるんだし少しくらいならいいか。


 そう思って温かそうなお茶が注がれた湯のみの前に少し膝を崩して座ったときだった。突然、男に押し倒されてしまう。


「何をなさるんですかっ。」


「私にこうされたかったのでしょう。」


 訳が解らないことを言って更に圧し掛かってくる。手足を固められていて身動きが取れない。さらに相手の手がモゾモゾと身体を這い回る。


「誤解ですっ。」


「解っています貴女は私の前に女性として現れた。キスをしてもいいでしょうか。」


 えっ・・・そういえば、この人の前で女装したのは初めてだった。だからって俺が相手を好きだと思うのは極論だろ。


 男に抱かれたくて女装するという理屈は世間で普通でもトランスジェンダーのコミュニティーでは非常識だ。俺のように性的にストレートの人間も居れば、好きな男性にしか抱かれたくないという人間が大半なんだ。


 刻一刻と相手の顔が近付いてくる。


『イヤーっ。ヤメテーっ。アタシはストレートなのーっ!』


 思いのほか大きな声が響き渡る。


 遠くのほうから足音が近付いてくる。


 ミックスボイスの発声訓練を積んでいおいて良かった。女性と変わりない高さの声だからこそ部屋の外にまで聞こえたのだろう。


 まず現れたのは順子さんだ。圧し掛かっている男に向って殴り掛かるが身体を翻した男に止められてしまった。俺は慌てて男の下から逃げ出す。


「私の秘蔵っ子に何するのよ!」


 バッチーン!


 続けて入ってきた志保さんの右手が男の顔にヒットして相手の身体が吹っ飛んだと思ったら順子さんの蹴りが股間に・・・。


「ダメ順子さん。ダメ何もされてないから・・・ね・・・大丈夫だから。」


 俺は彼女の身体を羽交い絞めにして押し留める。これ以上はダメだ。問題が大きくなってしまう。


世間の勝手なステロタイプでは男性に抱かれるために女装する認識のようですが

ストレートの女装さんもいれば、好きな男性にしか抱かれたくないというゲイやバイの女装さんが大半を占めています。

この間違った認識は女装さんの理解者的存在の人々の中にも蔓延っているので皆さん困ってらっしゃいました。自分に当てはめてみれば直ぐに間違いだと気付きそうなんですがねえ。

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