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5.美少女のニセ彼女ができました

 チラチラ見られ続け落ち着かない始業式が終わり、教室に戻ると教壇の上に学年主任の教師と順子さんが居た。どういうことだろう。


「始業式でも言ったが事情により田中先生が辞められることになった。そこで高柳順子先生に担任をお任せする。若い先生だから皆も協力してあげるように。」


 それだけを告げると学年主任の教師は帰っていった。詳しい説明は無いらしい。


 情報通のヒデタカによるとこのクラスの副担任の女性も夏休み前に辞めていたようでセクハラがあったらしい。ひた隠しにされているだろう、そんな極秘情報を何処で掴んでくるんだか。


 順子さんはユウタのところに入り浸っていたから、前の担任よりも俺も含めて生徒たちに顔馴染みだ。直ぐに溶け込めると思ったのだろう。


「担任になった高柳です。このクラスに居るユウタの従姉でもあります。よろしくね。休み時間でもユウタの傍に居るから何でも相談してくださいね。」


 今まで通り入り浸る気なんだ。まあ心強いけど担任としてどうなんだという世界だよな。


 俺と同じように順子さんが入り浸っても問題視されないことを疑問に思っていた生徒も多かったようで頷いている生徒がチラホラ見える。


     ☆


 休み時間になり、周囲に生徒たちが寄って・・・こない。いや一部の女子生徒は寄ってきたのだが、男子生徒は遠巻きにしているばかりだ。


「僕の予想通り、野次馬が減ったな。」


「オレが睨みつけても平気だった奴らも居なくなったな。」


「勝手に俺らのダチ扱いする奴が居なくなったのは大きい。」


 ユウタ、タツヤ、ヒデタカがろくでもない感想を述べる。


「アタシは男除けなの? まさか、そんな理由でプロデュースしたなんて・・・。」


「いやその・・・。」


 ヒデタカは後ろ暗いのか言葉を濁したが、タツヤは俺の肩を叩き、ユウタはとんでもないことを呟く。


「まあ気にすんな!」


「絶対嫌がると思っていたから代案を考えてあったんだが即答だもんな。」


 学年カーストのトップの強制力はハンパ無いんだぞ。


「うっそん。」


 必死に頑張った俺の夏休みを返してくれっ。それでもオネエを続ける俺は偉いよな。後戻り出来ないだけなんだが。


「トモヒロ君。おはよー。」


 その時、隣のクラスから上条さんがやって来た。


「トモトモ。オハヨー。袖のボタンが取れかかっているわよ。アタシに直させて。」


 彼女は着るものに対して無頓着で、母親も同じ性格なのかボタンが解れていることが良くあるので顔を合わせると気をつけるようにしている。


 しかも無頓着すぎて、こちらからお願いしないと放置してしまうのだ。美少女なのに勿体無い。


「チヒロって本当に女子力高いよな。絆創膏ならまだしもソーイングセットを持っている男なんて普通いないぞ。」


 タツヤが呆れた声を出す。前にケガしたときにあげた絆創膏のことを言っているらしい。


 この辺りはオネエを始める前からで妹たちも始終ケガをしたり、服を破いたりしているので身についたのだ。小学校のときに持っていく雑巾も俺が縫った。


「ミシンも使えるわ。トモトモ聞いてよ。タツヤったらヒドイのよ。アタシを男除けにするの。」


「いいじゃない。女の子は沢山いるよ。」


 上条さんが周囲を見回して答える。まあそうなんだけどさ。


「そりゃあトモトモは寄ってくる男が減っていいかもしれないけど。」


 今までのところ、得したことといえば女の子同士のように彼女たちと気安く会話ができるようになったことくらいだ。


「そうでも無いみたいよ。下駄箱の鍵を壊されてラブレターが入っていたもの。どう考えても壊した当人だよね。体育館裏への呼び出し。どうすればいいのよ!」


「鍵を壊さなくても隙間から入れればいいじゃないよね。酷いことするわあ。・・・何よ。その反応?」


 上条さんに睨まれ、他の奴らも怪訝そうな顔をしていた。


「上条の下駄箱といえば、隙間という隙間を全て埋めて手紙を入れられないようになっているんだ。結構有名な話なんだぞ。それどころか机の中はガムテープで塞いである。徹底しているよな。」


「知らないわよ。下駄箱なんてキッタナーイところに可愛い手紙は似合わないもの。どうせなら手渡したいじゃない。」


 いや俺はそれほど汚いと思っているわけでは無い。直接声を掛けられない気持ちも良くわかる。どちらかと言えば上条さんを恋愛対象になんて恐れ多くて近づけなかっただけだ。


「チヒロが一緒に行ってやれよ。」


「えーこわーい。やだー。」


「キモっ。」


 例によってタツヤからツッコミが入る。良い感じだ。


「そこはタツヤが行くところでしょ。その顔を今使わないで何時使うのよ。」


「ウルセーよ。俺が行くと洒落になんなくなるから、ここで睨みを利かせるのが精一杯なんだ。」


 彼が1人だった小学校時代は札付きの悪だと思われていたという。中学時代にユウタと出会い、只のヤンキーとしてプロデュースされ鎮静化していったらしい。今更、元に戻りたくないのだろう。


 だからと言って俺が行ってどうなるというのだ。オネエ姿じゃあ、舐められるだけだと思う。


「タツヤ君はちょっと勘弁して。私もトモヒロ君にお願いしたいの。いっそのこと既に付き合っていることにしよ。」


 上条さんが本気で嫌な顔をする。そして頬を紅色に染め、身を乗り出してくる。まるで告白でもしているみたいだ。


 男らしいタツヤはダメなんだ。なるほど男性恐怖症か。それならばオネエの俺が交際相手でもおかしくはないな。


「はいはい。トモトモの本命の彼氏ができるまでのカモフラージュ役。凄い役得ね。」


 俺がそう言うと周囲から軽蔑の視線が飛んでくる。


「おまえね。」


「大丈夫よ。安心して頂戴。彼女居ない歴は長いけど、そこまでガツガツしてないから、ちゃんとカモフラージュ要員が務められるわ。」


 さらに周囲から溜息が零れてくる。そんなに女に飢えているように見えるのだろうか。初めに女の子が好きなオネエの設定と言ったのが拙かったのかもしれない。


「トモヒロ君。よろしくお願いします。」


 上条さんはそれでも嬉しそうに頭を下げてくれた。少しだけドキッとする。この笑顔を守れたらいいよな。

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