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19.傍目が気になりました

「ど、どうしたの。チーちゃん。」


 いつもの時間のいつもの電車のいつもの車両に行くといつもの順子さんがいた。


 俺が何も言わずに抱きついたものだから驚いているようだ。


「あのね。アタシね。解らなくなったの。自分のキモチ。」


 順子さんから逃げ出したいという自分と順子さんと一緒に居たいという自分。どちらも本当の自分だから困ったのだ。


「どういうこと?」


「美人で胸が大きくて凄いエッチな順子先生しか知らないの。だから逃げ出すためにいろんな順子先生を教えて欲しいのよ。」


 でも順子さんと一緒に居たいと思うところは欲望に流されていて目が見えていないのだ。それならばいろんな順子さんを知るしかない。


「チーちゃんは私の容姿と胸とエッチなところが好きなのね。バカでしょ。私から逃げようとするチーちゃんに逃げ出したくなるようなことを教えると本気で思っているの?」


「うん。だから順子先生の分もお弁当を作ってきたの。何処かで2人っきりで一緒に食べよ。」


 我ながら全く脈絡の無い文章を喋っているよな。


 事前に考えてきたセリフだがここまでとは思わなかった。もうちょっと自然な会話に成らなかったのだろうか。時間が無かったのが一番痛いのだが。


「えっ。お弁当は嬉しいけど。皆の前で自慢したい・・・・・・チッ・・・前言撤回する。チーちゃん賢い賢すぎる。私の良いところばかりチーちゃんに見せようとすると我慢するしかないのね。」


 一瞬でバレたらしい。日曜日の夜に散々悩んで一生懸命に考えたのに。


 まあその通りなので仕方が無い。順子さんを怖いと思わなければ、こんなことは悩まないのだ。それには順子さんが意識して悪いところを見せなければ済む問題だ。


「こんな回りくどいことしてごめんなさい。でも本当に怖かったの。」


     ☆


「あれっ。タツヤ。優子さんは?」


 駅前の改札口に待っているメンバーのうち、1人が欠けていた。


「今日は用事があるとかで先に行ったぞ。何か用だったのか?」


「うん。あのときにアタシのことで怒ってくれていた優子さんに怒りを静めてとか、優子さんのこと怖いと言ったも同然なことを言ったから謝ろうと思ったの。」


 あの時は心の余裕が無くて気遣いが出来ていなかったのだ。タツヤはまあいいが、優子さんは怖がられないようにいつも気をつけている。その優子さんに対して吐く言葉じゃなかったのだ。


「そんなことか。それよりも優子は感動していたぞ。暴走した俺を見事止めたって。」


「暴走って良くなるの? 優子さんが人殺しがどうのって物騒なことを言っていたけど。」


「小学2年生のときに優子が誘拐されそうになったとき以来だ。そのときに誘拐犯の一味に怒りをぶつけたんだが恐慌に捕らわれたヤツラの一人が逃げる途中、川の土手から足を踏み外して溺れて死んだんだ。」


「自業自得じゃない。」


 まああの怒りをぶつけられたら、逃げ出したくなって足元が覚束なくなっても不思議じゃないわな。


「そうなんだけど。心無い人間は何処にでもいるんだ。そのときに俺が散々人殺し扱いされたから、優子のやつ気にしていたんだな。それよりもチヒロ。俺の嫁になる気はあるか?」


 何を言い出すんだコイツは。隣に居るはずの順子さんの方向を振り向けなくなってしまったじゃないか。釘を刺してなかったらオシオキが待っていたぞ。きっと。


「何言っているの。あるわけないでしょ。アタシは女の子が好きなのよ。」


「家訓にあるらしいんだよ。暴走を止められる人間を伴侶にしろという。一度、会って説明してやってくれ。優子のヤツがベラベラ喋りやがって困っているんだ。」


 ああビビった。タツヤが俺のことを本気で好きとか順子さんの言ったような展開なんて誰得なんだよ。という世界だよな。


「おはよー。最近、いつも先生と手を繋いでいるんだね。怪しいな。浮気はダメだぞ。」


 順子さんと繋いでいる手とは反対の手を握られた。上条さんだ。


「トモトモ。オハヨー。アキエちゃんもオハヨー!」


 上条さんと繋いでいる手をほどき、近くにいたアキエちゃんに手を振って挨拶する。自然に振る舞えただろうか。反対側の手を強く握り締めると順子さんが握り返してくれた。


 何を思ったか上条さんは手を振って元の位置に戻した腕にしがみついてくる。シンドイなあ。はたから見れば学年一の美少女にモテているのだろうがシンドイことこの上無い。


「アタシはいいのよ。こうやって順子先生にじゃれついても疑われないもの。それよりもトモトモのシンパが怖いから見せつけないほうがいいんじゃないかな。」


 これは本音だ。


 この学校には上条さんのシンパが確かに存在するのである。


 不用意に噂になると大変な目にあいそうで怖いのだ。まあ近くにタツヤが居れば大丈夫だろうが極力ベタベタしないほうが良いだろう。


 今度は順子さんの腕に抱きつく。はたから見ればじゃれあっているようにしか見えないに違いない。


「もう2人とも重いわよ。これなら、いくらでも支えるわ。」


 順子さんが強引に俺と上条さんを振り解くと俺と繋いでいる手とは反対側の手で上条さんの手を握り込んだ。引き離してくれたらしい。


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