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11.三度痴漢されてしまいました

「ちょっとー、今日はなんなの?」


 いつもの電車に乗り、順子さんの前に立つ。皆には言わなかったが『男気』のあるオネエが俺の理想だ。だから約束は守る。嫌がられない限りは順子さんをガードする・・・つもりだったのだが、またしても抱きつかれてしまった。


 話は止まってしまったがあれからショーが始まり、2人共満足そうにニコニコして帰って行ったのに今度は何だろう。


「うん。伝えておこうと思って。私は教師という枠から外れてチーちゃんのことを本気で好きなの。」


「またまた。」


 昨日の続きか。もう勘弁して欲しい。


「どうしたら信じてくれるかな。ここでキスすればいい? それともこのままホテルに行く?」


 今にも唇が触れそうなくらい近付いて俺の顔を覗きこんでくる。妖艶というのはこういう表情のことを言うのだろう。オネエでも俺には到底無理だ。


「ダメだって。順子先生。正気に戻って。」


 更に俺の掌を自分の胸に持っていく。


 これって役得?


 どう考えても違うよね。それこそ丸呑みされそうだ。


「私は正気よ。女だと抱けない? そんなことは無いよね。男の子、男の娘、どちらでも男だもんね。」


 意外と良く知っているよな。ネット検索(べんきょう)したのかな


「解った。解ったから身体を離して。」


 お尻から太腿まで撫でてきたのだ。最後の一線だけは死守しないと。逃げ場の無い電車の中で痴女行為をされたらたまったものじゃない。本気で逃げ出したくなった。怖いよ大人の女性って。


「何が解ったの。言ってみて。」


 今度は言葉攻めだ。まあ本物の恋人同士なら楽しいかもしれない。


「順子先生がアタシのことを好きだってこと?」


 まだ半信半疑だ。これって俺の妄想じゃないだろうか。昨日のショックが強すぎて、こんな夢を見ているのかもしれない。


「そうよ。良くできました。正解者には素敵なプレゼントを贈らなきゃね。」


 順子さんはそう言って周囲に解らないように触れるか触れないか解らないくらいのキスをしてきた。


「なんで。こんなことを。」


 怖かった。タツヤの凄んだ顔よりもずっと怖かったのだ。


「何も泣かなくてもいいじゃない。」


「これは違う。違うのよ。」


 思わず零れてしまった涙を拭う。必死に拭えば拭うほど止まってくれない。そのまま上を向いているとようやく止まってくれた。涙も重力には逆らえないから、眼球から鼻の中へ流れてくれることは父親の死のときに知ったことだ。


「これじゃあ。私がイジメているみたいじゃない。」


 イジメだと思うけど。それを言ったら堂々巡りで何度も泣かされそうなので言わないでおく。


     ☆


 メイクを直して態勢を整えたハズだった。


「何かあったのか?」


 俺の顔を見るなり、ユウタが指摘してくる。まさかユウタの差し金じゃないだろうな。そんなわけないか。きっと順子さんのことを心配しているのだろう。


「ううん。今日も美人と一緒で役得だったよ。ありがたやありがたや。神様、仏様、ユウタ様。」


「なんだよ。それ。本当に何でも無いんだな。」


「うん大丈夫。」


「そうか。オネエがチヒロの負担になっているんだったら止めてもいいからな。」


「なんだよ。いまさら。そんなこと。今も楽しくオネエをやってるよ。」


 今日はダメだ。オネエがガタガタだ。これでは気付かれても仕方が無いよな。


 そのときだった。右手が何かに包まれる。


「トモヒロ君。おはよー。」


 やっぱりだ。昨日の口調そのままの上条さんが居た。


「可愛い帽子ね。デカデカと書かれたロゴがアタシ好みでオシャレ! 昨日は差し入れも持たずにごめんなさいね。ほら『オネエちゃんといっしょ』では文化祭で一目惚れするでしょ。だからその後に持っていくね。」


 ガタガタだったオネエ言葉が突然復活する。オネエは俺に取っての仮面に当るらしい。確かにオネエならどんな辛辣な言葉もどんな仕打ちを受けても平気だ。


 『LOVE』と書かれた帽子のロゴが可愛い・・・と思う。


「う、うん。」


 とりあえずは時間稼ぎは出来そうだ。態勢を整えて『オネエちゃんといっしょ』ごっこを楽しんでいる振りをする。今の俺に取って簡単なこと・・・だろう。なんだか自信無くなってきた。


 その時、反対の手が握り込まれる。視線を向けると順子さんだった。少なくとも、ここには味方がいる。それだけで気分が和らいだ。そこで初めて自分が緊張していたのだと解ったのだ。


「じゃあね。また後で。」


 休み時間も相変わらず来るらしい。少しだけ嫌だなという感情を振り払う。この場所は彼女にとっても大切な場所なのだ。個人的感情で奪えないよな。


 何故、拒絶出来ないのだろう。ごっこ遊びなどと恋愛出来ないと断られたも同然の酷いことを言われたんだがら、嫌だと言えばいいのに。彼女の心どころか自分の心も読めない。


 同情かもしれないが、好きだと言ってくれる人も居るってのに彼女に心を揺さぶられる。俺が多情なだけなのか。幾ら考えても答えは出なかった。


少し暗くなったので順子先生にバトンタッチされました。


次なるモテが主人公を襲います。ご期待ください。ブックマーク、評価も待っています。

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