表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/80

10.オネエだから地獄に落ちるようです

「期待を持たせるようなことを言ってごめんなさいね。確かに男の子は入れたくないというような話は聞いていたのよ。でもチーちゃんだったら・・・って思ってしまったの。」


 順子さんがわざわざ店まで足を運んで謝ってくれる。今回はお客様としているらしく。紅茶とお菓子のセットを注文してくれた。これならば20分ぐらい此処に居ても大丈夫のはずだ。


 まあ他の男の娘も暇な時間は知り合いや常連さんの前でお喋りしていることのほうが多いのだ。やり過ぎるとママに怒られるけど。


「そんなこと言って順子先生のことだから、アタシのダンスを見たかっただけでしょ。解ってるんだからね。」


 とりあえず笑い飛ばす方向に持っていく。ここはそんな深刻な話をする場所じゃない。お客様に楽しく過ごして貰う場所なのだ。


「まあね。でも結構いっぱいだね。お客さんも女の子の方が多いくらいだし。」


「でも時々、オカマさんやニューハーフさんも混じっているからジロジロ見ないでね。」


「えっそうなの? やっぱり営業なの?」


 確かに飲み屋さんではお互いの店に足を運んで、お客様に興味を持って貰おうとすることや誕生日などの盛り上げたい日に寂しいことにならないようにする狙いがあるらしい。


「うーん。どうかな。アタシみたいな未成年も居るから営業にはならないんじゃないかな。大人になったらスカウトというかお店に紹介してくれる場合も多いけど、単に楽しくお喋りしに来てくれている場合が多いみたい。女の子のメイド喫茶とかも行くみたいよ。」


 水商売の方々の話題の豊富さにはいつも驚かされるけど、偶に偽物じゃないかと鋭いツッコミを入れてくる場合も多くて気が抜けないんだよな。でも男の娘の偽物ってなんなんだろう。


 そのとき、カランカランと扉が開く音が聞こえた。


『いらっしゃいませぇ。キャラメ・ルージュへようこそ!』


 あれっ。優子さんだ。


「今日も来ちゃった。順子先生も居たのね。聞いたわよ。ダンス同好会のデモンストレーションとして踊ったんですって。」


 順子さんと顔を見合す。


 アキエちゃんだな。チャッカリしているよな。デモンストレーションとして踊ったことにされてしまった。今頃プロのダンサーにされているのだろう。まあお店の宣伝になるからいいか。


「じゃあママに今日はショーがあるか聞いてくるわね。」


「ちょっと待って。先に経緯とか聞かせてよ。ゆっくりとお茶も飲みたいし。」


 俺の顔色を読んだのか引き止められてしまった。笑い話にしかならないんだがな。


「えーっ。『オネエちゃんといっしょ』の世界を真似てダンス同好会を作ったんだよね。読んだことあるけどオネエがどんどん好きになって何度も告白するよね。『私のことをもっと好きになって』と言う意味じゃない。だからチー君が同好会に入りに来て怒ったんだよ。」


 順子さんの話も交えて全ての経緯を話して聞かせたところ、優子さんから明後日の方向の意見が飛び出してきた。


「やっぱり。そう思うよね。私も同意見よ。でもチーちゃんは違うと思ってるんでしょ。」


 しかも順子さんまで同意してくる。もう無理、絶対無理、我慢できない。


「プっ・・どわっあっははは。ありえるかよ。いやどう考えてもありえないわよ。」


 あまりのことに思わずオネエ言葉崩れた。


「トモヒロ君。ダメですよ。」


「はい、すみません。パインママ。」


 大きな笑い声や男丸出しの言葉が気になったのかママが注意しに来る。これは俺が悪い。今は店の中だった。


 俺が素直に謝ると何も言わずに帰っていった。


「今の女性がこの店を経営しているママさんのパインさん。」


 名前の由来はパイナップルのような体形だそうで、時々髪の毛もパイナップルのように逆立ててくるので笑いを堪えるのに困るのだ。


「そんなことはどうでもいいわよ。」


 本物の女性だと説明しそびれた。


「そうよ笑うところ?」


「ゴメンゴメン。でもさあ、あの学年一とも校内一の美少女と言われた上条さんが、告白を断った数が3桁というのは大げさでもアタシが知っているだけで2桁はいく上条さんが、オネエのアタシの為に同好会を作って、オネエのアタシに口説いて欲しいなんて、ありえないでしょ!」


 漠然としていたときはなんとなくあるかもと希望的観測があったけど、言葉にしてみるとありえなさが倍増するよな。


「でも朝『愛し合っているの』と抱きついていたじゃない。」


「それは昨日の続きじゃないかな。告白の相手といい、優子さんには悪いけどタツヤといい、怖い目に遭って、縋るものが目の前のオネエしか無ければ抱きつきもすると思うわよ。髪の毛を切ってきたことも男に幻滅したんじゃないかな。悲しいことだけど。」


 そう考えれば、全て辻褄が合う。そこに男丸出しでオネエがガツガツして見せれば嫌われるのも頷ける。きっと明日には一見何も変わっていないように見えるけど仮面を被った上条さんが居るはずだ。


「でも差し入れは入れて欲しいと言っていたよね。だったら。」


 それでも順子さんが食い下がる。この先は喋りたくないんだけど、終らせてくれないらしい。


「だったら優子さん、アタシはどうすればいいの?」


 俺は敢えて(・・・)優子さんに問い返した。


「・・・・・・・・。」


 やっぱりね。『オネエちゃんといっしょ』を全て読み終えているらしい。


「え、えっ。差し入れして、どんどん好きになって、何度も告白して、最後にはハッピーエンドでしょ。違うの?」


 代わりに順子さんが答えてくれる。少女漫画と聞けばそう思うよね。


「ゴメン。あの話。未完なの。9巻だったかな。最後のクライマックスで連載されている漫画誌が廃刊になって続きが出ていないの。もう5年くらい経っているみたいよ。」


 未完なんてどうでも良かったから、題材として使ってみたけど。上条さんは読んで知っているはずだ。


 つまり何度も何度も絶対に報われない愛を永遠に告白し続けろということかもしれないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ