side ミスラ 変わった流れとタイミング
食堂からの自分たちのダンジョンへ向かうため。魔王城の廊下をミスラとアリアは並んで歩いていた。
「今日は……今日は物凄く楽しかったわね、ミスラルト!」
「そうだね。これまでで、一番賑やかだったね」
「今、思い返してもドキドキするわ! 天竜のお城に他の種族が来た時なんて、こんな風に、ミスラの事を話せなかったもの」
「うん。本当に、そうだねえ……」
昔はこんな風に自分をさらけ出して、他人と喋る事が出来なかった。
女性だとばれては天竜の不利益になる。ばれては舐められる、と父親からも教えられていたから。でも、今回、同級生と話してみて、その感覚は無くなった。
……皆、ボクを受け入れてくれるんだものなあ……。
可愛いといってくれるヒトもいたし、格好いいと言ってくれるヒトもいたし。
天竜の王子とか、姫ではなく、ミスラルト個人として見てくれた。
本当にみんなと友人になれたような気がした。
「私も、私もよ! 誰も天竜とか、気にしないの! 怖がられないのよ!」
そう、アリアに関しても、同級生は皆普通に接してくれていた。
巨大な竜に変化できる天竜の一族だというのに、全く恐れたりはしない。
有り難いことだが、でもどうしてそうなったのか気になったので聞いてみたら、
「……『クロノの時と同じ過ちはもうしたくないから。力が大きいからと言って遠巻きから見ているだけは止めたんだ』って皆は言っていたからね。……ボクたちの懸け橋になってくれたのは、彼だったんだね」
「ええ、ええ! クロノのお陰よ。流石はあたしを受け止めた魔人よ」
アリアは興奮したように手と尻尾をブンブン振る。
「心も優しくて力強いというか、うん! より一層、仲良くなりたくなったわ!」
「あはは、程々にね。アリアに迫られると、怖がりはしないけど、テンションが高すぎてちょっと引くって皆言ってたから」
「むう、それは、気を付ける事にするわ!」
ふんす、とアリアは鼻息を荒くしながら拳を握った。
いつも彼女は元気であるが、今日は特段勢いが強い。
それくらい彼女も楽しかったのだろう。
自分も本当に楽しかった。だから、
「ああ、これでもう、ここに来た甲斐があったし……悔いはないねアリア」
ミスラはぽつりと呟いた。
その言葉にアリアは眉をひそめた。
「……あたしは、まだ、皆と楽しく生活したいけれども……でも、もう時間なのね、ミスラルト」「うん。ここに来てもう数日。契約で決まっている挑む時間になっちゃったからね。クロノ君のお陰で、踏ん切りは着いたから良かったけどね。――たとえ、これでボクたちの魔王城の生活が終わってしまうのだとしても、皆と一緒に動けなくなるのだとしても、充分、思い出は得られたから」「あたしは思い出にする気は無いわよ。クロノ達は『一緒に魔王のダンジョンを攻略しに行こう』って言ってくれたんだし」
「そう、だね」
「だから、また、楽しい生活に戻れるように、頑張りましょう、ミスラルト」
「うん。この楽しい思い出をまた作れるように、あの魔窟に挑もうか、アリア……。古より存在する天竜の契約を果たすためにも、ね」
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その日から丸二日間
天竜の双子は、魔王城から姿を消した。




