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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第三章

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第16話 意外な反応は連続するもの

「もう夕食の時間帯だから、皆は食堂にいると思うぞ」


 という、クロノの言葉を聞いたミスラは食堂まで足を運んだ。

 そして、狙い通り、大半の超特進クラスの同級生たちがそこにいた。それを見たミスラは一度深呼吸した後で、隣にいるクロノに視線を向け、

 

「そ、それじゃ、お願いするよ、クロノ君」

「了解。おーい、皆。ちょっといいかー?」


 クロノに呼び掛けて貰った。

 すると、同級生の一人であるコーディが最初にこちらを見て、

 

「うん、クロノ? どうした、そんなとこで天竜の王子さんと一緒にいて」


 と言いながら寄って来る。彼だけではない。

 クラスの皆も集まって来た。

 あっという間に、自分たちの周りに人垣が形成される。


「ちょっとミスラが、皆に話があるみたいなんでな。少し時間貰えるか?」

「別に構わねえけど、話ってなんだ、天竜の王子さん」

 

 コーディがこちらを見ながら聞いてくる。

 更に、その声に合わせて他の皆の視線もこちらに来る。

 

 ……うわ、凄く、緊張する……。

 

 これまで多種族と接する際には基本的に守ってきた秘密だ。それを今、明かすという行為が、ミスラに緊張を抱かせる。

 ただ、抱く気持ちはそればかりではなくて、


 ……ああ、でも、安心する、なあ……。

 

 自分の隣で、こちらの体を支える様に立ってくれているクロノの体温を感じていると、なんだか安心してきた

 

 クロノの、友人の存在が心強く感じる。

 物理的な力からではなく、精神的な意味で、非常に心強い。そんな気持ちに心を押されて、ミスラは、その口を開いた。

 

「あのね、皆。ボクは、女なんだ。天竜の王子ではなく……姫であるんだ」

 

 そして言った。

 さらっと、何気なく、それでいて、しっかり今までとの違いが分かるように伝えた。

 すると、皆は一瞬、動きを静止させたあと、


「……クロノ。この王子さんが言っているの、マジか?」


 同級生の内の誰かが、クロノに尋ねた。

 その言葉にクロノは大きく頷いた。


「ああ。嘘偽りなく、真実だよ」


 クロノの声に、同級生たちは再び沈黙した。

 

 ……ああ、皆は、どういう気持ちなのかな。

 

 同級生にしてみれば、突然すぎるカミングアウトだ。

 どうでも良いと思うかもしれないし、今まで以上に物珍しいモノを見る奇異の目を向けられるかもしれない。

 正直、怖くもあるのだが、それと同じくらい、

 

 ……隣にいるクロノ君が安心感をくれている。

 

 そんな気分がした。ドキドキとした気持ちと少しばかりの不安、そしてクロノから伝わる協力的な感情を胸に抱きながら、ミスラは反応を待った。


 すると、彼らの内の一人がゆっくりと口を開こうとした。


 果たして、彼らはどんな態度で接して来てくれるのか。

 ミスラが息を呑んだ瞬間、その声は聞こえた。

 

「マジかよ! 今回来たのって、天竜の美人兄妹じゃなくて、姉妹だったのかよ!」

「……ぇ?」


 歓喜に近い、楽しそうな声を。

 

● 


 俺は、食堂で同級生たちのテンションが一気に上がる様を見ていた。


「すげえな。こんなに格好いいのに男装だったのかよ、ミスラルト!」

「なるほど……なんだか、微妙に良い事を知ったわ。隠してきたのに教えてくれてありがとう、ミスラルト。それと、クロノも」

「ミスラルトさん、色々と事情があって……大変だったんですねえ……」


 そして、皆は俺の隣にいるミスラを囲んで、各々それぞれな反応を返してきた。

 総じて見るに、驚きはあるようだ。

 けれど、拒絶の様な物は見られない。


「うん、意外とすんなり浸透したみたいだな」


 良かったな、と吐息しながらミスラの方を見ると、

 

「……ぇ?」

 

 ぽかん、と口を開けていた。

 そして目を白黒とさせていた。

 

「あれ? なんでミスラが驚いているんだ?」

「いや、あのさ。皆に、物凄く普通に受け入れられてるんだけど、クロノ君。何か魔法を使ったわけじゃないよね?」

「いや、普通に話しただけだぞ」

「で、でも、皆、疑いなく信じすぎというか……もの凄い速度で順応している気がするんだけど」「そりゃミスラ本人がこの事実を肯定しているんだから、疑う余地なんてないだろう」


 というか、疑われないのは良い事だろうに、ミスラはなんでこんなにあたふたしているんだろう。それに、

 

「順応が早いと言っても、こんなものじゃないか? なあ、コーディ」


 俺は近場でミスラを見ていたコーディに声を掛ける。すると彼はこちらを見て、そしてミスラを見て、


「まあ、うん。何となく気持ちは分かるぜ、ミスラルト。でも、俺らにも色々あってさ。クロノの行動で驚き慣れてるからか、そこまで衝撃的って感じはしなかったんだよ」


 そんな彼の声に、周りの同級生たちもうんうんと頷く。


「そうそう。クラスメイトの性別が変わったとなれば、多少は驚くんだけどね。でもまあ、そういう事もあるよなあって気持ちに落ち着いちゃうのよね」

「だよなあ。大体一日一回は、クロノのインパクトある行動が来るもんだから、衝撃慣れするよな……」

「俺、衝撃を与えようと思ってやった事は無いんだけどなあ……!」


 というか、人を衝撃扱いしないで頂きたい。

 そんなに頻繁に驚かせたことは無い筈だし、結構複雑な気分だぞ。

 

「あ、あはは……クロノさんの性格は常識的なんですけれどね……」

「うん。ちょっとだけ、力方面でズレてるだけ、だね」

「それはフォローになっていないような気がするぞ、ソフィア。ユキノさん」


 まあ、慣れてくれているなら良いんだけどさ。

 お陰でエアポケットを作られずに済んでいる訳だし。

 自分も受け入られているって事が分かったし。そんな事を思いながら皆とやり取りしていたら、


「ふふ……」

「ミスラ?」


 先ほどまで目を白黒させるばかりだったミスラが、目を細めて、微笑を零した。

 そして、柔らかな表情で、俺の方を見た。


「ねえ、クロノ君。……これでもボク、結構悩んでいたんだよ。クロノ君に事情を話すだけでもドキドキでさ。正直、皆に話すって言われたときも不安だったんだ」

「そうだったのか?」

「うん――でも、そんな気持ち吹っ飛んじゃった。ボクの変化を受け入れてくれて、ありがとうね、クロノ君、皆」


 ミスラは言いながら、皆に向かって微笑んだ。

 その表情を見て、超特進クラスの面々も口元を綻ばせていると、 


「み、ミスラルト――!」


 人垣の向こうから、アリアがこちらに突っ込んできた。


 さっきまで皆から少し離れた位置で俺とミスラの告白を聞いていた彼女は、やけに興奮した表情で俺たちの元まで来ると、


「やっと、やっと言えたのねミスラルト! 貴方の体の事、もう隠さなくていいのよね!?」


 元気のいい声で、しかしミスラを心配するような目で言ってきた。

 どうやら、アリアはミスラの性別についてはしっかり知っていたようだ。

 家族である以上、それを知っているのは当然なのかもしれないが、彼女なりに気遣ってもいたのだろう。そして、


「ああ、クロノ君のお陰で、その辺りはもう秘密にしなくても大丈夫になったよ」

「そうよね。そうなのよね! ええ、良かった、よかったわ……!!」


 アリアの瞳からは喜びの感情が溢れていた。

 その歓喜を伝えるかのように、彼女は俺や同級生に向き直ると、


「皆! ミスラルトの秘密を知っても、普通でいてくれて、ありがとう、ありがとうね……! そして、クロノも、皆に伝えてくれて、本当にありがとう……!!」


 俺の手を力強くぎゅっと握って来る。

 竜の尻尾をブンブンと振るっているのを見るに、相当嬉しかったようだ。そして彼女は俺から手を離すと、


「さあ、これでもう、ミスラルトの話を我慢する必要がなくなったわ。皆、アタシにミスラルトの事どんどん聞いてくれて良いわよ。色々と教えられるからね。例えば、肌はあたしよりもミスラルトの方が綺麗とか、胸も……」

「わーわー!」


 そんな事を言い始めたものだから、ミスラは顔を赤くして彼女の口を押えた。

 

「い、いくらボクの事を隠さなくていいからって、そういうのはボクが話すから。アリアはもうちょっと話題を選ぼうか!」

「そう……かしらね! ええ、ごめんなさい。他人にミスラルトの事を話せるのが嬉しくなっちゃったけど、弁えるわ!」

「うん、そうしてくれると助かるよ……」


 アリアの言葉にミスラはホッと吐息する。

 どうやら、性別の件が露見しても、彼女たちの関係はあまり変わりないらしい。仲が良さそうで何よりだ。

 

「まあ、なんだ? その辺りの個人的な話は夕食でも食べながらしようか、ミスラ」


 周りの皆も何やら色々と聞きたそうな顔をしているし。

 そう伝えたら、ミスラも頷いた。


「そ、そうだね。ちょうど夕食の時間だし……みんなと一緒にご飯を食べながら、もうちょっと話せればって思うし」

「よし、じゃあ、皆で飯にするか」

「おうよー」


 そうして、俺は食堂で騒がしくも楽しい夕食の時間を、仲間達と過ごしていくのであった。


最近話が長めになっていて申し訳ありません。もうちょっとコンパクトにまとめられるように頑張ります。

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