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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第三章

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第15話 正体の理由と打開策



 夕方。

 リザに案内されて、いつもの応接間で待つ事数分。

 服をしっかり着込んだミスラも応接間にやって来て、俺の隣に座る。


 そこで、まず、俺はミスラに先程の件を確かめる事にした。

 

「ええと。つまり、ミスラは女の子だったということで、宜しいか?」

 

 俺の確認に、ミスラは頬を赤らめながらこくりと頷いた。

 なるほど。ではまず、一度、やっておくことがあるな。そう思って、

 

「――うん、すまない! さっき、裸を思いっきりガン見してしまった……!!」


 勢いよく頭を下げながら言ったら、ミスラが慌てたように両手を振った。


「あ、いや、そんな謝られる事じゃないから。それは大丈夫なんだよ。済んだことだし、全く気にしないで良いから」

「そうか? そう言われたら、本当に気にしないけど……」

「うん、勿論、問題ないよ。ただ、いつから気付いていたのか、聞いていいかな?」

「……ええと、さっきも言ったけど、最初に出会って握手をした時だな。あそこで、女性の体をしているなあ、と思ったんだ。で、ウチの故郷にも似たような体質の人はいたなあ、と思って納得していたんだ」

「クロノ君は、本当に、一番最初から、気付いていたんだね……」


 ミスラは困った様な笑みを浮かべながらそう言った。

 そして俺の対面に座るリザも苦笑した。

 

「一発で見抜くクロノの眼力は凄いけど、それでも普通に男性として受け取る辺り、クロノの故郷は本当に変わった人が多いんだね……」

「そうですかねえ」


 魔族なのだから、そういった両性的な種族がいても不思議ではないと俺は田舎の爺さん婆さんから教え込まれている。

 それ故、今回のミスラの件で驚くこともあまりなかったのだが、ただそれでも気になる点は幾つかあって、

 

「リザさんは、ミスラの性別の事、知っていたんですよね?」

「そりゃあ、魔王だからね。入城の時にしっかりチェックしているから、当然知っているよ。魔法をかけてまで、男装をしていたこともね」

「その、男装していた理由って、聞いても良いんですかね。なんか説明してくれると、さっきは言ってくれましたけど」


 俺の問いかけに、リザとミスラは目を見合わせた。

 そして、同時に頷いたと思ったら、ミスラが口を開いた。

 

「ボクのこの振る舞いは、古くからある天竜の風習なんだよ」

「風習? 男装が?」

「そうだよ。姉妹が生まれた時は、どちらかが男として振る舞う事で、得られる伴侶の幅を広げて、一族の存続可能性を上げる、というものがあるんだ。ボクら天竜には、同性でも子供を作る魔法技術があるからね」

「マジで?!」 


 そんな魔法技術を持っているとは初耳だ。

 いや、そもそも多種族の魔法を学んだ事が無いのだから当然なのだけれどもさ。


「マジだよ。かなり昔、天竜王の一人が魔王をやっていた時に開発した技術なんだ。その人はもう天竜の里にはいないんだけど、技術や設備だけは残して行ってくれたからね。それを発展させたものがあるんだ」

「どうしてまた、そんな技術を作ったんだ……」


 俺の呟きにミスラは苦笑いと共に答えて来る。

 

「……天竜はその力強さで多種族から避けられる傾向にあるのだけれど……そもそも子供が出来にくい性質を持っていてね。希少だ何だと言われているけど、魔族の中でも特に子孫が少なくて、繁栄が難しいってことでね。出来るだけ子沢山であろうとはしているんだけど。ともあれ、男装しているのは、そういう理由さ」

「つまり男も女も、天竜が伴侶として認められるような人がいた場合、両取り出来る様にした、ということ、か」


 俺のまとめに、リザやミスラは頷いた。

 どうやらこの認識で合っているらしい。

 なるほど、男装している理由は少し分かった様な気がする。

 けれども、リザはそこに不満があるようで、

 

「……でも、同性で子供を作れるんだからミスラルト君が女として振る舞っても良いと思うんだけどねえ? 今の時代は、そこまで魔族の子孫が少なくなっている訳じゃないから、数少ない男女一人ずつを逃したら終わり!とか、そういう状況でもないしさ」


 リザの言葉に、ミスラは難しそうな表情で返答してくる。

 

「ああ、それは……『舐められるから二人とも女性というのは出来るだけ隠せ!』と、お父様から言われているから、とりあえず男装している、というのがありますね」

「うん? 舐められる? ……そんな、舐めてくるような奴は居ないと思うんだけどなあ」

 

 俺は今年できた仲間達を脳裏で思い返す。

 性格や種族、能力に違いがあるとはいえ、そんな他人を舐めるような態度を取る奴らは居ないと思うんだが。そんな俺の思いにリザも賛成らしい。


「そうだねえ。ミスラルト君やアリアちゃんのお父さんがココにいたのは百年近く前で、微妙に魔族ごとの派閥も残っていた頃らしいからね。その時の感覚が抜けていないのかも」

「ええ。こちらに来てから、特にそう言った感覚はありませんでしたから。皆、いい人であるのも、分かっていますし、出来れば、私も男装で皆をごまし続けるのは止めたい」


 どうやらミスラの心持としては、男のフリはする必要ないと考えているようだ。


「……とはいえ、今からどう接したらいいものか、分からないというのが、少し大変で……」


 ミスラは目を伏せて、悩むように声を漏らす。


「クラスメイトと仲良くも無いのに、いきなりカミングアウトするのもどうかなあ、と。話したら引かれないか、とか。変な物を見る目で見られないかと、思ってしまうのです……」


 ミスラのセリフを聞いて、俺は直感的に、


 ……ああ、本当に昔の俺に近いな。

 

 とそう思った。

 失礼だと思いつつも前にも思った事だ。

 けれど、その感覚はさして間違いじゃなかったようだ。

 だから、俺はこう言った。


「よし、じゃあ、今から皆と仲良くなろうぜ! このカミングアウトをきっかけにしても良いからさ」

「え?」

「俺も手伝うからさ。ミスラを交えて話をして、皆といっぱい会話すれば自然とカミングアウトのタイミングも掴めるって」


 そして、俺の意見に対してリザも賛同してくれているようで、


「ああ、そうだねえ。クロノはクラスの皆からも信用されてるし、色々な面でインパクトが大きいから。クロノが一緒に居れば、結構馴染みやすいかも知れないね」


 後押しの一言をくれた。

 そしてミスラはこちらの態度に、少し戸惑っているようで、

 

「いや、その……良いのかい? 自分で言うのも何だけど、結構、手間がかかると思うよ?」

「友達を助ける為なんだから。手間の一つや二つ構わないさ。というか、皆からどんな反応が来たとしても、俺はミスラの味方でいるつもりだし」

「味方って……どうして、クロノ君はそこまでボクに良くしてくれるんだい?」

「うん? いや、そんなの、仲間だからに決まってるじゃないか」


 単純な話だ。

 友人は大切にすべきで、仲間である以上味方であり続けるべきだ、と。田舎の爺さんたちからそういう風に教えられた。


 そして今までそうやってきて、超特進クラスの仲間達が出来た。ならば、今回だって、そうするのが当然だ。

 

「だから、ミスラは思いっきりやりたいようにやるのが良いと思うぞ。俺も、それを全力で味方するから。それでミスラの父親が言うように、もしも君を舐める奴がいたら、説得に協力もするしさ」

「クロノ君……。そんな、ボクなんかに全力を使うだなんて、大盤振る舞い過ぎだよ。そんなに尽くされても、ボクは何も返せる物が無いし、君を助けられるかも怪しいよ……」

「いやいや、充分返してもらっているって。ミスラっていう友人が一人出来ているんだから」


 それは俺にとっては十分なお返しだ。

 というか、力の貸し借りや、助け合いで言うのだとしたら、


「そもそもだ。最初に俺を助けようとしてくれたのはミスラじゃないか。プールで飛び込んでくれてさ。だから、これはその時のお礼って事でもあるんだよ」


 言うと、ミスラは目を見開いて、俺を見た。

 それから、口元を緩めて微笑んだ。


「ふふ、本当に君は……有り難い人だなあ」


 そして、ふう、とミスラは一息吐き、言葉を続けた。


「お陰で……味方が出来たからって理由で、とても現金もしれないけれど……決心がついたよ」

「決心って言うと……カミングアウトのか?」


 俺の問いに、ミスラは大きく、自信を持って頷いた。


「この際だ。もう誤魔化すのはやめにして、ボクは皆に明かすよ。本当のボクをね。だから良ければ……少しだけボクの厄介事に、付き合ってくれるかい、クロノ君」

「勿論良いさ。ミスラがこの魔王城で過ごしやすいように、俺も力を尽くさせて貰うよ」


 当然、俺も頷き返す。更には、

 

「ちょっと二人の世界にお邪魔して悪いけど、私も協力するからね。何か必要な物があったら、どんどん言ってよね」

「あ、はい! ありがとうございます、魔王様」


 そんな訳で俺とリザの協力体制もあり、ミスラによる、クラスメイトへの説明タイムが開始されるのであった。

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