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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第三章

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第10話 予想通りだけど予想以上

「リザさん。大変、申し訳ない……」


 俺はトレーニングルームでリザに頭を下げていた。

 何故かというと筋力検査に使っていた機材を、オシャカにしてしまった為だ。

 

 それを示すように俺の背後には、煙を上げている機材が転がっている。

 

「ボク達、竜の魔力と膂力にも耐えた機材が、一度使っただけでこんな状態に……」

「凄まじい、凄まじいわ! 細い身体からはうかがい知れない程の力を持っているのね、クロノ!」


 ミスラとアリアの竜二人からはこんな言葉を貰うが、個人的にはやっちまった感の方が強い、と俺は所々から大穴が開いた機材を見やる。


 ……魔力と上半身の筋力チェックだから、機材から出たワイヤーを思い切り引けと言われたけれど……。

 

 本来はこのワイヤーの張り具合によって力が測定されるのだが俺が使った瞬間、メシリ、という破滅的な音が響いたと思ったら、ワイヤーを固定していた中身が引きずり出てきてしまった。

 

 そして今のように煙を吐き出す機材が出来上がってしまった。

 たった一度の使用で本当に申し訳ない、とリザに謝罪していたのだが、

 

「大丈夫大丈夫! 大方予想はしていたから!」


 頭を上げると、リザは想定通りと言わんばかりの笑みで返してきた。


「やっぱり……そうなりますよね」

「分かってた。一番最後にやって貰って正解だった」

 

 というか、彼女だけではなくソフィアやユキノも、当然の様な声を上げていた。

 

「まあ、さっきも言ったけれど、壊れる事は悪い事じゃないからね! うん、機材を使わない方向で行けばいいから大丈夫!」


 リザはそんな事を言って俺の肩をぽんぽんと叩いてくる。

 半分以上の仲間からこの結果を予想されていたのはどうかと思うが、この気遣いは有り難いなあ、と思っていると、リザは、よし、と一度拍手した。


「それじゃあ、気を取り直して。器具を使った魔力や筋力の検査は終わりにして、根本的な身体能力の測定に行こうか! ――という訳で皆、こっちに立ってね」


 言いながらリザは、トレーニングルーム中央まで歩いて手招きしてくる。

 リザに付いて行くと、そこには柔らかなクッションが敷かれている空間があった。

 また、クッションの四方には目盛りの突いた背の高い柱が立っていた。

 

「あれ、なんだか奇妙な魔力を感じますが、これは何でしょうか、リザさん」


 興味深そうに柱を見つめるソフィアがリザに聞くと、彼女は自分の足元を指さした。

 

「よくぞ聞いてくれたよソフィアちゃん。これはね跳躍する力――というか、下半身の全般的な運動能力チェックできる設備なんだ。思いっきり地面を蹴って飛んでくれれば、四方の柱が自動的にその高さを記録してくれるんだよ。私が造ったんだ!」


 面白いでしょ、とリザは胸を張る。

 確かに、ただこの場所で飛ぶだけで、その人が持つ跳躍力を測れるというのは高機能だし、面白い仕組みをしているな、と俺は思った。それと同時に、これなら、何も壊さずにチェックできそうだな、とも。


「それじゃ皆、このクッションエリアに入って飛ぶだけだから、さらっとやっちゃってー。翼を使える人は使ってもいいからね」

「はい、じゃあ、跳んでみます」

「了解。やってみる」

 

 そうしてリザの掛け声に従って、ユキノやソフィアのがピョンピョン飛ぶ。

 水着を着用してそんな行動をすれば色々と揺れるわけで、何というかとても素晴らしい景色な様な気もする。

 

「はい、サラマードは十八メートル。ソフィアちゃんは翼有りで二十メートルだねえ。」

「ぬう、ソフィアに負けた……翼、あると凄いね」

「ひゃんっ! つ、突っつくのは無しですよぅ……」

 

 そしてユキノとソフィアは何やら水着姿で触れ合いをしているし。

 

「あはは、これ、楽しいわ! なんだか奇妙な魔力の波動を感じて、跳ぶだけなのに楽しいわ!」「こら、アリア。色々と見えるから、もうちょっと足を開かないで跳ばないと!」

「アリアちゃんとミスラ君は仲良く翼有りで四十メートル。うん、流石は天竜王のご子息だね」


 竜の妹のほうは大胆な格好で大胆な動きをして兄にたしなめられているし。

 

 ……うん、こういうのもいいなあ。

 

 と、目の前というか目の上の光景に感謝しながら思いつつ、このまま見上げているばかりではいられない、と俺も飛ぼうとしたのだが、


「――あ、クロノはこの測定、免除でもいいよ?」

 

 リザにそんな事を言われた。


「え? 測定しなくても良いんです?」

「うん。多分、クロノの場合、これも測定できないと思うからね」


 今回はやる前から諦められたよ。

 それは健康診断的にどうなんだろうか。いや、別に飛ばなくて良いというのであれば、体力を消耗しなくていいんだけれどもさ。

 ただまあ、皆がやっている事に混じれないのはちょっと物足りないかもな、と少し残念に思っていると、


「え? クロノ君の測定はなしなのかい?」


 ミスラがこちらに来ながらそんな事を言ってきた。

 

「んー? まあ、免除でも良いらしくてな」

「そうなんだ。ボクとしては見てみたかったのだけれどもなあ」


 そして苦笑いと共に言って来る。それを見て、俺は過去を思い出した。

 

 ……ああ、そうだ。こうした測定結果を話のタネにして盛り上がるのは、男友達としてはあるあるだって、爺さんたちは言っていたな。

 

 そんな話を酒場にいく度に聞かされた。ならば、ここは、


「うん、今回はやろうかな。見ててくれよ、ミスラ」


 測定免除を断る事にした。するとミスラは少し驚いた表情になり、


「え? いいのかい?」

「別にジャンプ一回くらい何てことないさ。話の種にもなるしな。というわけでリザさん。こういう初めての事にはチャレンジしておきたいですし、やりますよ」

「了解。なら、やってみよっか。――あ、でもちょっと待ってね」


 リザは俺の動きを声で制した後で、天井に向かって手のひらを向けた。そして、

  

「天井オープン――っと。はい、これで思いっきり跳んでもらっていいよ」


 彼女の掛け声とともに、トレーニングルームの天井ががぱっと開いた。

 魔王城はリザのダンジョンでもある。だからこういう操作も出来るのだろう。ただ、


「え? あれ? なんで露天にしたのですか、魔王リザ?」


 ミスラは彼女の行動に疑問を持ったらしく首を傾げていた。 


「いやあ、うん。見ていれば分かるかな……。クロノ、これで大丈夫だよね?」

「ええ、お気遣いありがとうございます、リザさん」

 

 しかし、俺からすると彼女の気遣いはとても感じられた。だから、このダンジョン操作に感謝をしながら、


「じゃあ、跳びますよ……っと!」


 思いっきり床を蹴って、跳び上がった。

 それはもう一瞬で、周辺にいたクラスメイトを地面に置き去りにし、天井を越えて綺麗な空が見えるほどに。

 

 そして当然ではあるが、翼を持たない自分は、跳躍が終われば自然に地面へと落下していき、

 

「――っ着地っと。どうでした、リザさん?」


 綺麗に着地した後、リザに結果を聞きに行くと、良い笑顔で首を横に振られた。


「うん。当然ながら測定不能だよね。柱の高さ飛び越えちゃったからね」

「あー……なるほど。あの高さでしか計測できないんですよね

「うん、折角跳んでもらったのにゴメンね。でも、魔法も翼も無しで天井越えちゃうってことは百メートルは余裕で跳べてるからさ。もう計測外でも問題ないってことでね」


 リザは、はは、と乾いた笑いを浮かべながら言って来る。そんな彼女の言葉にソフィアも同意していて、

 

「そうですねえ。あっという間に点になりましたからね、クロノさん」

「どうしてこの足から、あの跳躍力が出るのか、不思議……。滅茶苦茶しまっているのは、分かるけど……」


 ユキノなどは俺の足をペタペタ触り始めている。


「はは、くすぐったいですよ、ユキノさん」


 ソフィアとユキノにとっては、俺の跳躍など見慣れているのだろう。だから普通に結果も予想できていたようで、いつも通りな感じで有り難い。そんな事を思いながら俺はミスラに向き直ったのだが、


「――ともあれまあ、俺の跳躍はこんな感じなんだけど、どうだったミスラ……って、ミスラ? 大丈夫か? 瞳が点になっているけど……」

 

 ミスラはこれでもかというほど目を見開いていた。 

 その頬にはわずかな紅潮も見られたし、息も少し荒くなっているようだけれども、どうしたんだろうか。

 

「……あ、い、いや。す、すごいな、クロノ君は。魔力や筋力だけでもただ物じゃないと思っていたけれど、身体機能もここまでとは、思わなかった……!!」


 そして彼は称賛してくれるようだ。


「はは、有り難うよミスラ。でもまあ、翼を持っている種族には機動性的にかなわないんだけどな」

「いやあ、敵うとか、敵わないとか、そういう次元は飛び越えているような気がするかなあ。うん、ほら、あの賑やかなアリアがボクと同じような表情をしてポカーンってしてるくらいだしさ」


 ミスラに言われてアリアを見れば、確かに驚きの表情を浮かべているが、

 

「……微妙に嬉しそうじゃないか、あれ」

「ああ、うん。ウチの妹は挑みたがりだからね……。多分、クロノ君を目標と定めたような気がするよ」

「竜に目標とされるような存在ではないと思うんだがな、俺は」


 などとミスラと喋っていると、パン、と手が打ち鳴らされる音が響いた。

 リザだ。彼女は打ち鳴らした手を上げて、

 

「さあさあ、とりあえず機材を使った測定はこの辺りにしようか。もうこうなったら、クロノでも誰でも、万人がしっかり測定できそうな施設に行った方が良い気がしてきたし。そっちへ行こう!」


 そう言って、歩き始めた。彼女が向かう先は、トレーニングルームに設けられたひときわ大きな扉の方で、


「さあ皆、これからお待ちかねのプールだよ! 水の中で楽しみながら体の機能を測っていくよー」


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